10月に開いた寺子屋朝日のウェビナー「テストでは測れない非認知能力とは」(社会応援ネットワーク協力)で、進行役を務めさせてもらった。講師は、今この分野で講演に引っ張りだこだという岡山大学准教授の中山芳一さん。最近よく聞く割にいま一つわかっていなかった非認知能力について、どんなものなのか、どうやって子どもたちの非認知能力を伸ばしていけばいいかなど、小気味良いトークで紹介していただいた。

中山さんによると、非認知能力は三つのグループに分けられるという。一つめは、つらい、悲しいなどマイナスの状態に陥った時、元の自分に戻ろうとする回復力や忍耐力、我慢強さといった力のグループ。まとめると「自分と向き合う力」ということになる。

二つめは、もっと自分を成長させていくのに必要な「自分を高める力」。意欲ややる気、自尊感情、楽観性といったものは、このグループに含まれるという。そして三つめが、コミュニケーション力や共感性、協調性、周りの人への思いやりなどの「他者とつながる力」だ。

「学びに向かう力・人間性等」と同じもの

さらに非認知能力とは、現行の学習指導要領で「学びに向かう力、人間性等」と表現され、学校教育が育成すべき資質・能力の3要素の一つなのだと知り、この能力が注目される理由がわかる気がした。テストで測れないから身についているのかどうかわかりにくい一方で、一生の学びや成長を支えるものなのだ。

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質疑応答のやりとりをする中山芳一さん(左)と筆者

子どもたちのこうした力を、どうしたら伸ばせるのか。視聴者の先生方にとっても、そこが最大の関心事だろう。中山さんは5段階のステップに分けてその手法を説明してくれた。この場では、第1段階である「ステップ1.0 抽象的な教育目標から具体的な行動指標へ」に触れさせていただく。ここで登場するのが、「学校教育目標」。どんな子どもを育てようとするのか、学校ごとに示すゴールである。

ステップ1.0では、学校教育目標をいくつかの非認知能力にチャンクダウン(分解)していく。たとえば、「心豊かでたくましくやさしい子ども」という学校教育目標だったら、

  • いろんなこと挑戦しようとするやる気
  • 困難なことにもくじけない粘り強さ
  • 他者のことに心を砕ける思いやり

の三つに分解する、という具合だ。次に、それらの非認知能力よりもさらに具体的で、かつ汎用(はんよう)性の高い行動指標へと分解する。「いろんなことに挑戦するやる気」という非認知能力について中山さんは、

  • 自分のやりたいことを見つけてすぐに取りかかっている
  • やりたくないことでもいざやり始めたら没頭している
  • 自分がやっていることを改善してさらにやりやすくしている

の三つを例示した。こうした行動指標こそが、子どもの行動を見取る観点(レンズ)になる、と中山さんは話した。

こうした一連の作業は、教育委員会や管理職のトップダウンではなく、学校ごとなど教職員がチームとなり、みんなで話し合いながら作り上げていくことが、組織的に非認知能力を育む上で必要だという。

行動指標を見取りの「レンズ」に

その後のステップでは、自分たちで作った行動指標を、子どもを見取るための観点(レンズ)としてチームで活用し、日常的に子どもたちの見取りを行う取り組みへ進む。良い面が出ていると気づいたら、子どもたちにフィードバックしてさらに良い面を伸ばすよう直接働きかけたり、我慢強さを高めたいと思えば我慢強さが求められるワークを授業の中に意図的に取り入れたり。詳しく知りたい方は、ウェビナーのアーカイブ動画をどうぞご覧ください。

【アーカイブ動画】がまん強さ、やる気、思いやり…… テストでは測れない「非認知能力」とは?

「大事なのは学校教育目標を絵に描いた餅にしないことです」と中山さん。多くの学校でその学校教育目標は、先生たちに共有されていない、と中山さんの目には映っているようだ。

少し古いデータだが、ベネッセ教育総合研究所の2010年の調査に、どんな学校教育目標を掲げているかを小、中学校の校長先生にアンケートしたものがあるのをネットで見つけた。目標に含まれている言葉のトップ5を1位から並べると、小学校では「心の教育 豊かな心」「思いやり」「健康 体力」「自ら学ぶ力 自己学習力」「生きる力」となる。中学校では、「心の教育 豊かな心」「健康 体力」「思いやり」「自立 自主 主体性」「自ら学ぶ力 自己学習力」だった。大半は非認知能力と呼ばれるものと重なっていることに気づく。

231123 校舎P_s

自分が通った小、中学校にもおそらく、同じような学校教育目標があったのだろう。教室や校長室の壁などにきれいな字で書かれているのを見ては、「なぜこんな当たり前で抽象的なことを『目標』に?」と不思議に思っていた。正直に言うと、本当に必要なのかさえ疑っていた。

あの抽象的な目標は、こんなふうに具体的な行動指標に分解して使うものだったのか――。中山さんの講演を聞いて、その存在価値が腹にすとんと落ちた気がした。チームで非認知能力を育む取り組みは緒に就いたばかりだが、個人レベルでは昔から、それぞれの視点で解釈した学級教育目標に照らして子どもと向き合ってきた先生は少なくないだろう。私が出会った先生たちも、知らないうちに私の行動を見取り、テストで測れない力が伸びるよう導いてくれていたのかもしれない。