先生も模索している 探究学習の本音
「探究」をテーマに選んだのは、4月に開催した1回目「with Teachers」で、参加者の口から出た「やらされ探究」という言葉がきっかけでした。「生徒が主体的に学びを深めていくはずなのに、受け身になってしまうことがある」といった趣旨でした。そこで今回は、探究の形にとらわれて予定調和の結論に導きたくなる教員の関わり方の問題も含め、「やらされ探究をどう考えたらいいか」と編集部の疑問を投げかけました。そのうえで、探究学習をどのように受け止め、実践しているかうかがいました。
今回の参加者は、相愛高校の竹中泰子先生、箕面自由学園中学校の安田誠先生、大阪府大東市立深野小学校の山本智子先生、埼玉県立新座高校の逸見峻介先生の4人。いずれも初回のwith Teachersに参加していただいた方たちでした。座談会は前回と同様、ふせん機能を使って参加者の思いを自由に書き込んでもらうところからスタートしました。
探究の強みと課題
「受験と関連づけた探究も一つの手段」「若手教員のサポートに対応できるか」「汎用性教材も大切」・・・・・・。あっという間に付箋はパソコン画面のホワイトボードいっぱいになり、そこから浮かんできたのは、探究学習の強みと課題でした。
強みとして複数の先生が挙げていたのが「生徒が将来を考えるきっかけになる」という点です。生徒が探究学習を通じて興味を持ったテーマを、さらに深く学ぶために進学先を選ぶのはこともあるといいます。探究で得た経験が入試面接などに生きることもあるといいます。
一方で課題として挙げられたのは、先生たちの負担感でした。「若手にもベテランにも、探究は『しんどいもの』ととらえられているように思う」と一人が声にすると、「探究学習が指導要領に入ってきたが、教員養成でも学んでいない。ゴールが分からない。やり方に正解が無いからやりにくいのだと思う」という声も聞こえました。
生徒のやる気をどう引き出す? 「ギターライブを宣言した」
意見を交わしていくうちに「生徒のやる気をどう引き出すか」が話題になりました。逸見先生は、「自己開示が大事」だとして、自分も生徒と一緒に探究学習をした体験談を披露しました。「初めてのギターライブを生徒の前でやると宣言して、実際に実施しました。どうすれば上手く弾けるようになるのか自分自身も探究することで、一緒にチャレンジする楽しさを感じられた」という思いがあったといいます。
学校外とつながれるよう、生徒の前でSNSを通じて有名ミュージシャンにアドバイスも求めたそうです。「返信はなかったが、それがきっかけとなって生徒たちが自らSNSで情報を集めるようになった」と、逸見先生。
放送部の顧問を務める竹中先生も「生徒のやる気を引き出すのは、部活動の感覚に近いかも知れない。教員が一緒になって考える、生徒を学校の外ともつなげるという意識が必要なのでは」と応じました。安田先生も「探究をするなかで生徒も考え、そして時に行き詰まる。その時に教員も一緒に四苦八苦する、でも良いのかもしれないです」と話していました。
やらされ探究ではなく「積み上げ探究」
どうしたら生徒が主体的に取り組めるか議論が進む中、「やらされ探究」は「ある程度必要なのではないか」という意見も出てきました。竹中先生は「いきなり富士山に登らせるような高い目標を掲げるのではなく、最初は教員と生徒が一緒に探究を始めて、そこから徐々に生徒たちが自走すれば良いのでは」と提案しました。
安田先生も「生徒には長い目で好きなことを探究してもらえたら良いと思っている。それはある意味で『やらされ探究』でも良い。その中で生徒が好きなものを見つけてくれれば良いと思う」と話しました。
山本先生は「『やらされ探究』という言い方が良くないのでは。例えば『積み上げ探究』という言い方にしてみてはどうでしょう。小学校では子どもどうしの学び合いだって、いきなり任せることはない。先生がいなくても教え合える環境を作るためにはどうしたら良いか、そうした話し合いができる素地を作ることが必要だと思う」と発言しました。
始まったばかり だから面白い
探究学習の現状について語り会った参加者たちが最後に語ったのは、「探究」の魅力でした。
逸見先生は「探究を通じて学校の特色や先生の考え方、教育観が見えてくる。そういうのも面白い。私自身も悩みながらですので、同じように悩んでいる先生たちと話せて良かった」。竹中先生は「文化は育つのに時間がかかる。だが、こういう(探究の)文化を創(つく)るタイミングに関われているのが嬉しい。いつか、振り返って『最初は大変だったんだよ』という話をしたい」。山本先生は「新しい文化を創るのは大変だが、そこに学校の存在意義があると思う。もっとこの話題を語り合いたい」と述べました。