探究学習で深めた興味や関心が、大学での学びや研究にどうつながるのか。大学での学びや研究は社会や地域の課題解決にどのような役割を果たすのか。大学の先生たちがビッグデータ、気候変動など具体的なテーマを解説しながら高校生などの質問にライブで答えるオンラインイベント「全国高校生探究SDGsサミット」が11月21日、開かれました。参加者からは、地域の活性化などの社会課題から、進路選択や留学に至るまで熱心な質問が相次ぎました。

「なぜ」3回繰り返して

サミットでは、大学の先生たちによる五つの授業と、大学・予備校の関係者と大学生らによる三つの授業外講義が行われた。1限は、東京都市大(東京都世田谷区など)の岩尾徹・理工学部長による「いっしょに、未来の暮らしを創っていこうよ」。これからはものづくりと製品が価値の中心だった社会から、知や情報、サービスが中心となる「ソサエティー5・0」、超スマート社会になると言われている。そのため岩尾さんは求められる人材が、価値を創造し社会を変革できるリーダーになると指摘する。新しいものを見つけ、問いを立て、社会課題を解決していく力を身につけるには、「探究がとても重要だ」と話した。

ではどうやって探究を進めるのか。岩尾さんのお勧めは「『なぜ』を3回繰り返すこと」だ。自然や社会を「観察」し、「なぜだろう」「こうだったらいいのに」という「気づき」や「問い立て」をする。問いから仮説を立て、仮説に基づき予測をし、予測を実験などで検証するといった科学研究のプロセスも紹介した。

体調や気分に合わせてその日の服をAIが提案する――。そんなソサエティー5・0での未来像を示しながら岩尾さんは「『これからどんな世の中になるとわくわくして楽しくなるか』を考えて未来を変えていく。価値観にとらわれない、未来を先読みするゲームチェンジャーになって」と高校生たちにエールを送った。

東京都市大の授業
「超スマート社会」の未来像のイメージ。右上が東京都市大の岩尾徹・理工学部長

高校生たちからは、探究学習に対する疑問が相次いだ。「探究対象を見つけるのが難しい」という質問に岩尾さんは「『なぜ』を繰り返そう」と返答した。「『なぜ』を繰り返すと、気づくことが出てくる。気づくことがなかったとしても、それはそれで成果。泥臭くていい、間違っていい、最終的にまとめられなくてもいい。自分で不思議だなと思ったことを選ぶことが大切」と結んだ。

アシストサイクル開発へ 学科超え協働

湘南工科大(神奈川県藤沢市)工学部機械工学科の野中誉子准教授は、現在進行中のプロジェクト「4輪アシストサイクルの開発」について紹介した。

外国人観光客らを対象に、免許がなくても運転でき、子ども連れでも楽しめる乗り物を、と山梨県北杜市から1月に依頼を受けたのが開発のきっかけだ。設計や構造解析、製造を担当する機械工学科と、コンセプトやスタイリングを担う総合デザイン学科の計四つの研究室が参加し、同じ製図用のソフトを使ってデータを共有したという。

湘南工科大(新)
湘南工科大の4研究室が協働して開発に取り組む「4輪アシストサイクル」の検証用機体=湘南工科大提供

「安全安心に乗りたい」「ここにしかないリアルな体験を楽しみたい」「オリジナリティーあるデザイン」の三つのニーズを踏まえて議論した結果、4輪のアシスト付きサイクルで、普通の自転車と背もたれ付きシートにもたれる「リカンベント」の中間の形にすることに。学生ら5人が1カ月半かけて検証用機体を仕上げた。現地で試走した結果、上り坂や整地されていない場所も問題なく走れたが、登坂距離が長いとこぎ続けるのがつらくなるなどの課題もわかったという。

野中さんは「総合デザイン学科の先生や学生に『使い勝手が悪い』と指摘されてやり直したら、圧倒的に使いやすくなる経験もした。自分たちだけで見えてこない問題意識を共有できた。協働するのは大変だけど、とても楽しい」と話した。

「Away」に身を置いて

授業外講義の一つでは、90カ国以上の学生が学ぶ立命館アジア太平洋大(APU、大分県別府市)東京オフィスの伊藤健志所長が「多文化・多国籍の学びの空間―探究からつながる大学の学び―」をテーマに話をした。

学生の半分を海外からの留学生が占めるAPU。なぜ世界の人たち、異文化を持つ人たちと学ぶのか。伊藤さんはその意義を「なぜ(Why)を生むため」だという。日本に住む人たちは海外の人たちと比べ「問いを考え、前提条件を疑い、自分の頭で考えることが苦手だ」と指摘した。「日本は世界でも特殊な国。宗教、民族、国境線、経済格差、移民・難民……世界の主要課題が理解できない。そこで世界の人と勉強する大きなメリットとなる」。「Away(アウェー)」に身を置き、自分が当たり前だと思っていたことが当たり前でない環境の中で、自分の頭で考える力を養うことが必要だと説いた。

自分とは異質な人と勉強するときの「ギフト」はなにか。伊藤さんは「対話がすべて」だという。国際問題や新型コロナウイルスへの対応など、議論したとしても平行線や水掛け論になってしまうテーマは多い。様々な価値観や文化を持つ人が集まると、そんな場でまた別の立場から「何でそう思うの?」という投げかけがある。その存在が重要だという。「対話を通して自分の中にある偏見、『思考の枠』を知ることがいちばん大事。これはみんなが『当たり前』を共有している空間だと難しい。『なんでそうなん?』と言ってくれる人がいないから」。

APUの授業外講義
世界の人々と学ぶ意義について話す立命館アジア太平洋大(APU)東京オフィスの伊藤健志所長

さらに伊藤さんは「大学も社会も一番求めているのは『Inquirer(探究する人)』、問いかけをちゃんとできる人です」と話した。「今までの右肩上がりの経済で、大量にものをつくり、売れる社会であれば、言われたことをきちっと守るだけでOKだった。ところが今は先がよくわからない状況になったときに、それに応じて自分で判断して正しい決断をすることが求められる。高校の探究学習は真剣にやっておいた方がいい」。

高校生たちからは、語学に関する質問などが寄せられた。「どうやって英語力を上げればいいか」という質問に伊藤さんは「読解力と語彙(ごい)力がすごく大事。しっかりした国語力がないと英語力は頭打ちになることも。読解力、文法力は高校時代にしっかり身につけてほしい」と話した。「価値観が違う人と話したことがなく不安」という質問には「アウェーに行くというのは海外に行くことだけではない。自分に全く関係のない本を読む。自分の周りにいなそうな人たち、ジェネレーション(年代)が違う人たちと話す。海外に出なくても、自分が今までやったことないことに一歩踏み出すことはできる」と答えた。

伊藤さんは「我々は日本人である以上に地球の一員であり、アジアの一員。我々が世界のためにできることはいくらでもある。大学生になってからでもいい、世界を自分の足で歩いてみてください」と高校生たちにメッセージを送った。

このほか、現役の大学院生と大学生3人による座談会では、高校時代の探究活動によって自分の興味の方向がわかり進路選択に生きた、といった経験などを語り合った。河合塾教育研究開発本部の近藤治主席研究員は、探究学習が総合型選抜という新たな大学入試につながるほか、大学や学部選びでのミスマッチ防止にも大いに役立つ、などと述べた。 

成城大の授業の記事はこちらから→https://www.asahi.com/sdgs/article/14502585

成蹊大の授業の記事はこちらから→https://www.asahi.com/sdgs/article/14502765

【授業】

1限 「いっしょに、未来の暮らしを創っていこうよ」

東京都市大学理工学部長・電気電子通信工学科教授 岩尾徹さん

2限 「ふつう」って何?―トイレから考える障害と社会

成城大学文芸学部専任講師 塙幸枝さん

3限 ビッグデータを用いた生物多様性の可視化

成蹊大学理工学部准教授 小森理さん

4限 気候変動で読み解く日本史

成蹊大学経済学部教授 財城真寿美さん

5限 地域と環境に優しい4輪アシストサイクルの開発

湘南工科大学工学部機械工学科准教授 野中誉子さん 

【授業外講義】

●「多文化・多国籍の学びの空間―探究からつながる大学の学び―」

立命館アジア太平洋大学(APU)東京オフィス所長 伊藤健志さん 

●現役大学生座談会&質問会「探究学習が変えた!-大学選択・入試の実際と深まる学びの実際」

後藤新人さん、黄優花さん、宮崎哲雄さん 

●”探究”を核にした大学選び―総合型選抜と探究学習の可能性

河合塾教育研究開発本部主席研究員 近藤治さん