近年、不登校の児童生徒数は増加する傾向にありましたが、コロナ禍を経てその傾向はさらに加速し、小・中・高校の不登校児童生徒数が30万人を越える新たな段階に達しました。こうした状況を受け、不登校対策のさらなる拡充を企図したのが「COCOLOプラン」です。この記事では、COCOLOプランが掲げる「誰一人取り残すことのない学びの保障」の意味や、不登校の現状、実現に向けた課題について解説します。

1.COCOLOプランとは

COCOLOプランとは、誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策のことを指します。2023年3月、文部科学省の永岡文部科学大臣により公表されました(参照:誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策について〈通知〉|文部科学省)。

COCOLOプランの「COCOLO」とは、"Comfortable,Customized and Optimized Locations of learning"の略称です。英文の直訳は「安心できる個別最適化された学びの場」で、これから解説するように、そこで想定されている「学びの場」は学校のみに限りません。

「教室でおこなわれる授業だけが学習機会ではなく、子どもたちの個々のニーズにあった学習(権)保障が肝要」とのメッセージを、私たちは「COCOLOプラン」という呼称から読み取ることができます。

(1)COCOLOプランの目的

急増する不登校への対応として、「誰一人取り残すことのない学びの保障」を可能にする体制を整えることが、COCOLOプランの目的です。

さまざまな事情で学校に行かない・行けない状況に直面した子どもたちを支援するために2016年に制定された「教育機会確保法(義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律)」では、第13条に「休養の必要性」が記されています。不登校状態の子どもには精神的な葛藤を抱え、学習に向かうことが難しい状況にある事例が多く、しっかり休むことがかれらの支えになるためです。

COCOLOプランが掲げる理念である「誰一人取り残すことのない学びの保障」とは、しっかりと休養をとり、周囲の人びとのサポートを受けるなかで「学び」に向かう姿勢を取り戻しつつある子どもたちに、それぞれの実情にあった支援の体制を整えることを意味します。

(2)COCOLOプランが公表された背景

「教育機会確保法」の制定に象徴されるように、COCOLOプランが公表される以前から不登校への政策的な対応が進められてきました。なぜ、これまでの取り組みに対して、新たな計画がさらに付け加えられることになったのでしょうか。

①小・中学生の不登校児童生徒の増加

その背景の一つとして指摘できるのは、不登校児童生徒数の急増です。文部科学省が毎年実施している「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の最新データ(2022年度)によれば、小・中学校で年間30日以上の「長期欠席者」は46万人を超え、そのうち「不登校」による欠席とされた子どもの数はおよそ30万人に達し、過去最多の値を示しています。

令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要 p.20|文部科学省 

出典:令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要 p.20|文部科学省

これまでも不登校の子どもの数は増加する傾向にあり、上記の調査では過去10年連続で増加が認められました。とりわけコロナ禍を経たこの数年の増加幅は著しく、緊急の対応が必要との認識を抱いたとみることができます。

②充分なサポートがされていない可能性

先に述べた文部科学省の調査では、不登校の子どもたちがその後どのような指導・相談を学校の内外で受けたのかについても把握を試みています。

2022年度の調査結果によれば、小学生の不登校児童の34.8%(10万5112人中3万6646人)、中学校の不登校生徒の39.9%(19万3936人中7万7571人)が、学校の内外で相談・支援などを受けていない状況にあります(参照:令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について p.85~87|文部科学省)。

この調査は学校関係者が回答する設計になっているため「相談・支援などを受けていない」イコール「サポートがない状態」と断定はできません。実際は何らかの支援を受けていながらも、学校側が把握していないケースが含まれるからです。

上記のとおり留意すべき点はありますが、充分なサポートを受けていない可能性のある子どもが不登校児童生徒の3〜4割を占める状況は看過できるものではない、そのような発想がCOCOLOプランを提示し不登校支援の拡充をはかる背景にあります。

③いじめ問題との関連 ~不登校の要因~

文部科学省の調査では、不登校の要因についても把握を試みています。いじめを主たる要因とする不登校は小・中学校の合計で0.2%(674人)とわずかですが、「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が主な要因の不登校は9.2%(2万7510人)と、1割弱の子どもたちが何らかの人間関係上のトラブルによって学校に行かない・行けない状態に至っています(参照:令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要 p.23|文部科学省)。

学校関係者の回答であること、さらにはいじめの見えづらさを考慮すると、調査で把握された割合以上の子どもたちが、いじめによって不登校状態になっていると予想されます。

「教育機会確保法」第16条(国は実態把握に努める旨を規定)に基づき、2019年度に不登校を経験した子ども自身(小6・中2)を対象におこなわれた「不登校児童生徒の実態把握に関する調査」では、最初に学校に行きづらい、休みたいと感じ始めたきっかけとして、友だちとのこと(いやがらせやいじめがあった)と回答した者が小学校で25.2%、中学校で25.5%とおよそ四分の一を占めており、学校関係者の認識と大きく隔たっています(参照:不登校児童生徒の実態把握に関する調査報告書 p.10、11|文部科学省)。

調査に協力を得られた事例に限定されているとはいえ、実際に当事者に尋ねたこの調査は、実態をより正確に反映しているように思われます。

④いじめ問題との関連 ~いじめ認知件数の増加~

2022年度のいじめ認知件数は、約68万件と過去最多を更新しました(参照:令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要 p.1|文部科学省)。

いじめ防止対策推進法の第28条では「いじめにより生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがある」「相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある」(太字・下線の加工は筆者)と認めるときを「重大事態」としており、その件数も923件と過去最多を記録しました。

令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要 p.10|文部科学省

出典:令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要 p.10|文部科学省

いじめに限らず、逸脱現象の統計は暗数が多く、法で定められたいじめの定義は社会通念上のそれよりも広い(被害者が「心身の苦痛を感じている」かどうかが基準になっている)ため、認知件数や重大事態の増加は学校側がいじめの早期発見・未然防止の取り組みに力を入れた結果生じているとも解釈でき、必ずしも「いじめが深刻化した」とはいえない側面があります。

とはいえ、これまで確認したようにいじめと不登校には密接な関係があり、いじめ調査の最新のデータも問題の深刻さを示唆しています。「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の結果を重くみて、政府は関連する諸会議を合同で開催し「不登校・いじめ緊急対策パッケージ」を打ち出し、国と地方公共団が連携して「COCOLOプラン」を前倒しで進めるよう(あわせていじめ対策をさらに推進していくことを)求めました。

(3)COCOLOプランを推進するアクター

COCOLOプランでは官民の垣根を越え、不登校支援に関わるさまざまなアクターが連携・協力する体制づくりが展望されています。文部科学省の「スクーリング・サポート・ネットワーク整備事業(SSN)」など、この動きは2000年代初頭から登場し今日に至るもので、COCOLOプランは従来の支援策を引き継ぎ、さらなる進展を企図したものといえるでしょう。

それでは、どのような機関・組織が支援のために連携するのでしょうか。詳しく見ていきます。

①行政の取り組み

まず、行政の取り組みとしては、「学びの多様化学校(不登校特例校)」と「校内教育支援センター」の増設を目指す動きが特徴的です。

学びの多様化学校を説明する表

これらは、いずれも不登校経験者が安心して学ぶ場の提供をめざしています。

あわせて、教育委員会などがこれまでも学校外の支援機関として設置してきた「教育支援センター」もその機能の強化がうたわれ、これから述べる官民連携の地域拠点、ワンストップで不登校支援にあたる要となる役割が期待されています。

教育行政機関以外にも、不登校の子どもたちをサポートする際には、児童相談所や保健センター・精神保健福祉センターなど、子どもの福祉や健康に関わる諸機関との連携が不可欠なことも、ここで確認しておきたい点です。

②民間セクターで活動する諸団体・組織

行政機関ではない、いわゆる民間セクターで活動する諸団体・組織でCOCOLOプランへの参画が想定されているのは、不登校支援をミッションに掲げるNPO、法人格を取得せずフリースクールや居場所などを運営してきた諸団体、不登校の子どもをもつ「保護者の会(同じ悩みを抱える当事者の自助グループとして運営されている事例が多い)」などです。

これらの団体・組織のなかには、行政が不登校支援に乗り出す以前から草の根的な活動を持続するなかで、不登校の子どもをどのように理解・支援するのかについて学校関係者以上に詳しい知識やスキルを持つものが数多く含まれています。

COCOLOプランでは、民間の諸機関を不登校支援の重要なアクターとして位置づけ、業務委託や人事交流を活発におこなうことで、さまざまな事情で学校に行かない・行けない子どもたちの個別のニーズを把握し、適切に応答する体制を築き上げていくことが目指されています。

(4)COCOLOプラン予算面での展望

文部科学省が公開した2024年度「概算要求のポイント」によれば、「不登校対策COCOLOプラン関連事業」として115億円が計上されており、前年度予算額の86億円のおよそ1.3倍が要求・要望されています(参照:令和6年度概算要求のポイント p.34|文部科学省)。

概算要求の内訳のうち、最も高い比重を占めるのは「チーム学校」による早期支援の推進にあてられる90億円(前年度予算額は82億円)で、スクール・カウンセラー(SC)やスクール・ソーシャルワーカー(SSW)の配置を促進し、早期における支援の充実が展望されています。

他方で、学びの多様化学校(不登校特例校)の設置促進の要求額は3億円(前年度予算は1億円)、校内教育支援センターの設置促進の予算には5億円(こちらは新規事業)が要求されており、先に述べたSC・SSW配置の充実と比較すると予算規模が小さい傾向がみられます。

概算要求の動向を見るかぎりでは、新しいタイプの学校を新設し、既存の学校のなかにも不登校支援に特化した場を設ける試みは始まったばかりで、従来から配置が進められてきた心理/福祉の専門職を拡充する動きが先行しているように思われます。
 

2.COCOLOプランを構成する三つの柱

「誰一人取り残すことのない学びの保障」を推進するために、COCOLOプランでは三つの柱が設定されています。

  1. 不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思ったときに学べる環境を整える
  2. 心の小さなSOSを見逃さず、「チーム学校」で支援する
  3. 学校の風土の「見える化」を通して、学校を「みんなが安心して学べる」場所にする

どのような取り組みが構想されているのか、文部科学省の「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」を参考に、順に確認していきましょう。

(1)不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思ったときに学べる環境を整える

不登校を経験した子どもたちが休養して落ち着きを取り戻し、学びたいと思ったときにかれらをサポートする「学びの場」を整えていく取り組みが、COCOLOプランの第一の柱です。

具体的には、①「学びの多様化学校(不登校特例校)」と②既存の学校内への「校内教育支援センター」、それぞれの設置を推し進め、③教育委員会等が設置する校外の支援機関である「教育支援センター」の機能を強化し、同センターが官民を超えた支援ネットワークの要となり、不登校支援の地域拠点としての役割を担う構想が核になっています。

これらの取り組みとあわせて、④1人1台端末を活用しICTを用いて教室以外の学習等の成果を適切に評価する体制の整備、⑤いじめや教員の体罰・暴言等を要因とする不登校に対処するための柔軟な学級替えや転校といった措置の活用によって、それぞれの子どもにあった学習環境を提供し、安心・安全な学校生活を保障することも、「学びの場」の整備を進めていくうえで重要な取り組みとされています。

また、COCOLOプランでは義務教育段階の取り組みに力点が置かれていますが、⑥高校進学後の不登校への対応を拡充すること、⑦不登校のために実質的に義務教育を充分に受けられないまま中学を卒業した子どもたちが、あらためて中学校で学び直したいと希望するケースへの対応に夜間中学を活用することなども、この柱を構成する取り組みに位置づけられています。

(2)心の小さなSOSを見逃さず、「チーム学校」で支援する

第二の柱は、「チーム学校」による支援です。文部科学省が設置する中央教育審議会が2015年12月に出した答申(中教審第185号)では、今後の学校組織のあり方として「チームとしての学校」という新しいビジョンが提示されました。

COCOLOプランでもこの流れを引き継ぎ、スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)など教員以外の心理・福祉の専門家を学校に配置する動きを推し進め、養護教諭や学校医とも連携しつつ、多様な専門職が関わる会議を開催できる体制の整備が目指されています。

不登校支援のためのケース会議では、異なる専門を持つ人びとが多角的に個別の事例を検討し、不登校の背景をどのように理解し・支援の手立てを講じるかについて議論します。そのなかで、高度な専門性に基づく支援が必要だと判断した場合には、学校から対応する諸機関につなげていくスクリーニング機能を果たすことも「チーム学校」による支援体制に期待されている要素です。

なお、「チーム学校」による支援対象は子どもだけでなく、その保護者も含まれています。中央教育審議会の答申では、多様な専門家が学校に参加するだけでなく、地域社会との組織的な連携の整備も「チームとしての学校」を実現するための改善方策に位置づけられていました。

COCOLOプランでも地域で活動する官民の組織・団体との連携が強調されており、公的な相談機関や「保護者の会」などを紹介し、わが子が学校に行かない・行けない事態に不安を抱く保護者をサポートする体制の構築が目指されています。

(3)学校の風土の「見える化」を通して、学校を「みんなが安心して学べる」場所にする