過去に地震などの災害が発生した被災地では、ある程度時間が経たって落ち着いてくると、子どもたちの間で「地震(津波)ごっこ」などの遊びが始まることが報告されています。こうした子どもたちのストレス反応に、どう対応すればよいのでしょうか。学校や家庭での対処法について、Q&A形式で紹介します。
Q.クラスの子どもたちの間で、「地震ごっこ」のようなことが始まりました。担任として、どう受け止め、対応すればよいでしょうか。
A.災害体験のショックからある程度時間が経ち、落ち着いてくると子どもたちの間にトラウマ体験を表現した遊び、いわゆる地震(津波)ごっこが始まることは過去の災害でも報告されています。
東日本大震災後には、砂や積み木でつくった家を水や道具を使って壊す一人遊びや、緊急地震速報やサイレンの口まねや「地震だ!」「津波だ!」の掛け声でいっせいに走りだす集団遊びが被災地各地で見られました。
こうした子どもの行動に戸惑う教職員や保護者は多いようですが、子どもによる地震ごっこは、トラウマ(※1)からの回復過程で起こる自然な反応のひとつと言われています。トラウマ体験をした人は恐怖体験や苦しかった気持ちを他者に話すなどの表現活動を経て回復していきますが、大人のように災害体験を言葉で再現できない子どもたちにとっては、安全な空間である学校での「ごっこ遊び」や「お絵かき」は、回復過程の「再体験反応」のひとつで、大事な表現活動だと捉えることができます。遊び自体が危険な方法でなければ(※2)、止めないで見守ることが大切です。
ただし、1人で「地震の遊び」を繰り返し行い続けるようであれば、「ちょっと休もうか」と声がけをして、呼吸法やリラックス法などのリラクセーションを一緒に行い、子ども自身でリラックス体験ができるように促していくとよいでしょう。そうすることでトラウマ体験を過去に起きた怖い体験として少しずつ受け止めることができるようになっていくでしょう。
Q.子どもたちの中には、地震ごっこを怖がっている様子の子もいます。その場合、どのように対応すればいいでしょうか。
A.地震ごっこ自体は、「災害トラウマ」からの回復過程で子どもたちに起こる自然な反応ですが、回復過程には個人差があり、地震ごっこを怖がる子どもも多くいます。余震が続いている場合には、緊急地震速報の音や「地震」という言葉を聞いて「フラッシュバック」を起こしてしまう子どももいるかもしれません。
ストレートに「嫌だ」とか「怖い」という感情を言葉や表情で表せている場合は分かりやすいのですが、「怖い」という感情をストレートに出せない子どももいます。
地震ごっこをしている周りで、身体をこわばらせて固まっていたり、ぼーっとしたりしている様子の子どもがいたら、こちらから「あの遊び嫌だなあ、怖いなあ、と思っているのかな?」と声をかけることから始めてください。そして、「怖い、嫌だという気持ちは命を守る大切な気持ち」だということを伝えながら、手を握るなどの軽いスキンシップをはかり、呼吸法など簡単なリラクセーションから行うとよいでしょう。
リラクセーションは回復過程のどの段階においても一定の効果があります。安全な場所である学校内で慣れ親しんだクラスの仲間や担任と一緒に取り組むことは、子どもたちの「心の傷」からの回復を進め、ストレス障害のリスクを減らす一助になるでしょう。
今回の能登半島地震のように生死に関わるような危険に出合うと、心に傷が残ることがあります。そのことを専門用語で「トラウマ」といい、日本語では「心的外傷」と訳されています。トラウマのもとになった出来事を「トラウマ体験」と呼びます。地震がトラウマ体験になっている人には、地震ではない揺れや過去の地震や津波映像も強い恐怖を引き起こすものになってしまうことがあります。それは、怖い体験と一緒にその時に見た景色や聞こえていた音、その場のにおいなどがまるで「冷凍保存」されたように脳の中に記録されているからです。そして、その記憶が何かのきっかけにして、一気に解凍され、まるで目の前で起きているかのように生々しく記憶がよみがえるのです。
記憶がよみがえるきっかけとなる刺激を「トリガー」、その時の体験を「フラッシュバック」(再体験)といいます。フラッシュバックは、トラウマからの回復過程でも起こりますが、地震ごっこもフラッシュバックと同様、再体験反応のひとつです。怖がってトラウマ体験に関係することを避け続け(回避)ていると、逆に心にネガティブな影響を与え、引きこもりやうつなどにつながることもあります。
トラウマは正しくケアすれば回復していきます。正しく知ること、対処法を学ぶことが大切です。
日本ストレスマネジメント学会会員で社会応援ネットワーク代表の高比良美穂が、兵庫教育大名誉教授の冨永良喜さん監修のもと執筆しました。