コロナ禍に見舞われたこの2年半の社会状況は、子どもたちの心にどのように影響しているのでしょうか。子どもたちのストレスは教員からはなかなか見えにくく、学校現場では心の健康をサポートする仕組みが十分に確立されているとはいえません。そんな今、教員にできることとは何でしょうか。神戸児童殺傷事件を契機に、20年以上前から「心の健康授業」の必要性を訴えてきた兵庫教育大学名誉教授の冨永良喜さんに聞きました。

――冨永さんは、阪神・淡路大震災や東日本大震災で強いストレスを受けた子どもたちを長年サポートしていますが、コロナ禍のストレスについてどう考えていますか?

一口にコロナ禍のストレスと言っても、すごく幅が広いと思うんですよ。感染はしたけれども症状は何もなかったという人から後遺症で苦しんでいる人、中には家族を亡くした人まで、その個人差は大きい。一方、感染予防対策で不自由な生活を余儀なくされた、そのストレスも侮れません。特に子どもたちは、オンライン授業なき突然の休校があり、学校再開後はあらゆる行事が制限され、手洗いやマスク着用、黙食が強いられました。夜遅くまでゲームに夢中になり、生活習慣が乱れ、親からは厳しく叱られて、成長過程の子どもたちにとっては大きなストレスになりました。

被災地の学校で「心の健康授業」を行う冨永良喜さん=2012年11月、宮城県気仙沼市 、社会応援ネットワーク撮影

――コロナ禍のストレスに対処するため、導入した小学校もあるという「マインドフルネス」とはどんなものでしょうか

マインドフルネスは、意識を自分の呼吸に向けることによって心を落ち着かせるというもの。もともとは仏教の行の一つで、ストレス解消というよりも、イライラや不安に振り回されず、自分の気持ちをコントロールする力を身に付けるために行ってきたものですね。例えば、友達のちょっとした一言に対して「すぐに反応しない」「カッとなって行動しない」といった心のゆとりを得ることにつながります。その意味で、マインドフルネスなどのストレスマネジメントを学校に導入することは有効な手段の一つだと思います。

震災同様のトラウマのリスク

ただ、命を脅かすような出来事、すなわちトラウマの場合は、さらに別のサポートが必要になってきます。例えばコロナに感染したことによる誹謗中傷。また、家族や肉親がコロナで亡くなった、あるいは親が仕事を失ったという事態は、当事者の子どもたちにとってトラウマになりかねない体験です。