災害や事故が起きた後、メディアなどで繰り返しその情報にふれることで、直接の体験をしていなくても、「共感ストレス」から抑うつ症状になることがあります。子どもたちに広がる共感ストレスに、学校はどう対応すればよいのでしょうか。学校やクラス単位で取り組めるストレス対処法を紹介します。

人には共感力というものがあります。たとえば、友だちの失恋の話にもらい泣きしたり、きょうだいの入試合格を自分のことのように喜んだり、ドキュメンタリー番組に出てくる人の生きざまに感動したりするのも、共感力があるからです。このように共感力は人の素晴らしい資質のひとつですが、その力が強いために、疲労やストレスにつながる場合もあります。

つらい出来事 自分の身に起きた気持ちに

具体的には、災害のニュースなどに触れているうちに被災者やその関係者の気持ちを想像して、まるで出来事が自分の身に起きたような気持ちになり、胸が苦しくなったり、気分が沈んで何も手につかなくなったり、というようなことが起こります。こうした反応を二次的外傷性ストレス、共感ストレスといいます。

今年は元日から災害や事故、事件の報道が相次ぎました。年の始めで休暇中だったため、子どもたちも家族もこれらのニュースにいつもより触れる機会が多かったと思われます。個人差はあるものの、多くの子どもが共感ストレスを抱えた可能性があります。

時間の経過とともに、つらい状況にある人に共感しながら自分が何もできないことに無力感を覚え、元気をなくしていくということが起こり得ます。さらに、同じ内容を見聞きしてもあまり関心を示さない人や共感していない様子の人に対して強い怒りを感じ、人間関係にまで影響を及ぼしてしまうようなことも少なくありません。

安全な場所で取り組むことで作用

そのため、最近では、共感ストレスを受けやすい立場にある看護師やカウンセラー、被災地ボランティアに対する簡単なストレス対処法の研究・実践が進んでいます。こうしたストレス対処法を学校内でも実践することをおすすめします。

ここでは、どんなストレスにも有効で特別な場所も道具も必要ない「10秒呼吸法」と「肩をつかったリラックス法」を紹介します。学校という安全な場所で、クラスや学年単位、あるいは全校で取り組むことで、安心感の中で一人ひとりが抱えているぞれぞれのストレスに作用することが期待できます。

★マンガ動画「こころも体もリラックス!『10秒呼吸法』」
★マンガ動画「肩を使ったリラックス法(動作法)」

また、今回の災害のように大きな出来事の前で無力感にさいなまれそうな時は、道徳やホームルームの時間を活用して、「今の自分に出来ることと出来ないこと」を分けて書き出すなどして、整理することで冷静になることも有効です。その上で、自分たちにもできる支援があるのかなどを話し合う場を持つのもよいでしょう。

東日本大震災後では、多くの人が共感ストレスを抱えましたが、それをきっかけに目の前の日常の大切さに気づき、「家族や友人を大切にしよう」と、それまでの言動を改めて自らを成長させた子どもたちが多かったことも報告されています。

子どもたちの優しい気持ちを成長につなげるためにも、まずは教職員のみなさんにストレスに対する知識と対処法を身につけ、笑顔でいていただきたいと思っています。

日本ストレスマネジメント学会会員で社会応援ネットワーク代表の高比良美穂が、兵庫教育大名誉教授の冨永良喜さん監修のもと執筆しました。