Society5.0時代の到来など、社会のあり方そのものが劇的に変化しています。令和の日本型学校教育とは、子どもがそのなかで幸福に生きていくために提言された学校教育のあり方です。この記事では、中央教育審議会の答申をもとに令和の日本型学校教育を説明し、教員に求められる意識改革も解説します。

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1.「令和の日本型学校教育」とは

令和の日本型学校教育とは、2020年代を通じて実現を目指すべきとして考えられた学校教育のあり方を指す言葉を指します。日本の文部科学省に置かれている中央教育審議会(中教審)が2021年1月26日に公表した答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」のなかで、具体的なあり方が示されました。

令和の日本型学校教育は、今の学校教育環境が抱える課題に対応するために、「子どもの側に立ち、子どもを主語にする」という学ぶ側からの視点で捉え直し、全ての子どもの可能性を引き出す「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現が目指されているところに特徴があります。中教審の答申では、そのうえで望ましい「子どもの学び」「教職員の姿」「子どもの学びや教職員を支える環境」などが具体的に示されています。

以下では、中教審の答申をもとに、令和の日本型学校教育とは何かをご説明します。

(1)従来の日本型学校教育の特徴と現代の学校教育環境が抱える課題

令和の日本型学校教育は、従来の日本型学校教育とは何が違うのでしょうか。

もともと日本型学校教育は、学校が学習指導と生活指導の主要な役割を担っているのがその特徴でした。この教育のあり方は、子どもの知・徳・体を一体で育むものとして、さまざまな国から高い評価を受けていました。

ただ、急激に変化する時代のなかで、現代の学校教育環境はさまざまな課題を抱えるようになってきています。よく指摘されているのが、次のようなものです。

  • 家庭や地域で行うべきことを学校や教員が担っているための負担増
  • 子どもたちの多様化
  • 生徒たちの学習意欲の低下
  • 教員不足
  • 少子高齢化や人口減少による学校教育の維持

ほかにも、学習の場面において、デジタル端末があまり使われておらず、それによって日々加速度的に進化する情報化に対応できなくなるのではないか、という懸念の声もあります。

(2)「令和の日本型学校教育」は従来の日本型学校教育を発展させたもの

現代の学校教育環境が抱えるさまざまな課題を解決するためには、こうした背景を踏まえ、一人ひとりの子どもが「自分のよさや可能性を認識する」とともに、「いろいろな人と協働しながらさまざまな社会的変化を乗り越え、持続可能な社会の創り手となる」ことができるように、各学校において組織的、計画的に教育課程を組み立て、必要な資質能力を育成することが重要です。

そこで、これまでになかった取り組みを推し進めていく必要があるとされています。それが以下の四つです。

  1. 教育振興基本計画の理念の継承
  2. 学校における働き方改革の推進
  3. GIGAスクール構想の実現
  4. 新学習指導要領の着実な実施

これらの改革を進め、従来の日本型学校教育を発展させたものが、令和の日本型学校教育なのです。

2.2020年代を通じて実現すべき「令和の日本型学校教育」の姿

令和の日本型学校教育が目指す姿とは、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現です。そのためには、三つの観点があります。まず二つの学びから詳しくご説明します。

(1)「個別最適な学び」と「協働的な学び」

①「個別最適な学び」

「個別最適な学び」とは、これまで学習指導要領において位置づけられてきた個に応じた指導を、学習者の視点から整理した概念です。

「個別最適な学び」については、指導の個別化と学習の個性化の二つに整理し、子どもが自己調整しながら学習を進めていけるように指導することが重要です。

表|指導の個別化と学習の個性化を示す図

また、上記の学びがスムーズに進むように、これまで以上に子どもの成長やつまずきなどの理解に努め、きめ細かく指導・支援することや、ICTを使って学習履歴(スタディー・ログ)や生徒指導上のデータなどを活用することがポイントとされています。

②「協働的な学び」

「協働的な学び」とは、「個別最適な学び」が孤立した学びにならないように、その充実が重要とされる学びです。

AI技術が高度に発達するSociety5.0時代のなかで、知・徳・体を一体的に育むためには、さまざまなリアルな場面(実習や実験、地域活動など)を他者と協働しながら経験することの重要性が一層高まります。また、異学年間や他の学校の子どもとの学び合いも大切です。

さらに、こうした集団のなかで個が埋もれてしまわないように、子ども一人ひとりのよい点や可能性を生かすことで異なる考え方との組み合わせを促し、よりよい学びが生み出されるようにすることが求められます。

(2)二つの学びを実現するために必要な三つの具体的な観点

「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現するために必要な三つの具体的な観点は、以下の通りです。

①子どもの学び

子どもの学びでは、「個別最適な学び」と「協働的な学び」が一体的に充実し、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善につなげることが必要とされています。一体的に充実するためには、授業のなかで「個別最適な学び」の成果を「協働的な学び」に生かし、さらにその成果を「個別最適な学び」に還元するというサイクルを構築することが重要です。

②教員の姿

教員があるべき姿でいることも示されています。求められる姿となるには、学校教育を取り巻く環境の変化を前向きに受け止め、子ども一人ひとりの学びを最大限に引き出す教員としての役割を果たさなければなりません。また、その際に、子どもの主体的な学びを支援する伴走者としての能力も備えていることが必要とされています。

③子どもの学びや教員を支える環境

子どもの学びや教員を支える環境の整備も重要な観点です。例えば、新しい時代の学びに順応するために、ICT環境や少人数によるきめ細かな指導体制の整備などが求められます。人口減少が加速する地域において、魅力的な教育環境が実現されていることも不可欠です。

3.「令和の日本型学校教育」の構築に向けた今後の方向性

令和の日本型学校教育の実現に向けては、これまでの学校教育が果たしてきた本質的な役割を重視、継承するとともに次の3点が重要です。

  1. 学校現場が力を存分に発揮できるように、学校や教師がすべき業務、役割、指導の範囲、内容量を精選、縮減、重点化すること
  2. 学校と地域がパートナーとして一体となって子どもたちの成長を支えていくこと
  3. 「履修主義か修得主義か」「遠隔オンラインか対面オンラインか」といった二項対立の考え方に陥らず、子どもの発達の段階や学習場面などに応じて、どちらのよさも適切に組み合わせて生かしていくという考えに立つこと

以上を踏まえ、中教審では、令和の日本型学校教育の構築に向けて、次のような今後の方向性を示しています。

(1)学校教育の質と多様性、包摂性を高め、教育の機会均等を実現する

新しい時代を生きる子どもたちに必要となる資質能力を一層確実に育むためには、学校教育の質を高めることが重要です。多様化する子どもたちに対応して、「個別最適な学び」を実現しながら、学校の多様性と包摂性を高める必要があります。

また、現に学校教育になじめないでいる子どもや地理的条件で教育を受けられずにいる子どものために、教育の質と学びの機会を確保することが重要です。

このような取り組みを含め、憲法や教育基本法に基づく「教育の機会均等」を本当の意味で実現することが必要です。

(2)連携・分担による学校マネジメントを実現する

学校がさまざまな課題に対処しつつ、働き方改革を推進するためには、従来型のマネジメントにもとづいて、既存のリソースだけで対処するには限界があります。校長のリーダーシップのもと、組織として教育活動に取り組む体制を整備し、学校内外との関係で連携と分担による学校マネジメントを実現することが重要です。

特に、学校内においては、外部人材や専門スタッフ、事務職員など、教師以外の多様な人材の活用などを通じて、組織全体としての総合力を発揮していくことが求められます。

(3)これまでの実践とICTとの最適な組み合わせを実現する

令和の日本型学校教育を構築するには、これまでの実践とICTとを最適に組み合わせることも重要なポイントのひとつです。GIGAスクール構想による一人一台端末を最大限に生かし、端末を日常的に活用するとともに、教員が対面指導とオンライン教育とを使いこなすことも必要となります。

(4)履修主義・修得主義などを適切に組み合わせる

現行の日本の学校教育制度には、以下のようにさまざまな考え方があります。

  • 履修主義:所定の教育課程を一定年限の間に履修することでもって足りるとする考え方
  • 修得主義:履修した内容に照らして、一定の成果を上げることで学習をしたとする考え方
  • 年齢主義:一定年限の在学を進学卒業要件とする考え方
  • 課程主義:一定の課程の修了を進学卒業要件とする考え方。修得主義と課程主義には、個人の学習状況や成果に着目し、それぞれの学習状況に応じた学習内容を提供するという共通点がある

令和の日本型学校教育を実現するには、義務教育段階において、進学や卒業の要件としては年齢主義を基本としつつ、教育課程を履修したと判断するための基準については履修主義と修得主義の考え方を適切に組み合わせ、それぞれの長所を取り入れる教育課程を目指すべきであるとされました。

(5)感染症や災害の発生などを乗り越えて学びを保障する

これからの教育においては、新型コロナウイルス感染症対応の経験を踏まえ、緊急事態(新たな感染症や災害の発生など)であっても必要な教育環境を継続することが重要です。このため、新しい時代の教室環境に応じた指導体制や必要な施設、設備の整備を進めることや、臨時休業などの際にも関係機関との連携を図りつつ、子どもたちの学びを保障していくための方策を講じることが必要です。

(6)社会構造の変化のなかで持続的で魅力ある学校教育を実現する

少子高齢化や人口減少などで社会構造が変化するなか、学校教育の持続可能性を確保しながら魅力ある学校教育を実現するには、必要な制度改正や運用改善が必要です。また、地方においても、学校の配置やその施設の維持管理、学校間の連携が不可欠となります。中教審の答申では、それらのあり方についても検討するように示されています。 

4.「令和の日本型学校教育」の構築に向けたICTの活用に関する基本的な考え方

学校教育の基盤的なツールとしてICTは必要不可欠なものです。このICT活用においては、「これまでの実践とICTとを最適に組み合わせ、教育の質の向上につなげていくこと」「その際、PDCAサイクルを意識し、効果検証、分析を適切に行うこと」が重要です。

また、「ICTを活用すること自体が目的化してしまわないようにすること」「ICTが児童生徒に及ぼす影響を健康面を含めて留意すること」なども必要となります。中教審の答申では、これらのポイントをおさえつつ、以下の3点を目指すべきとしています。

  1. 学校教育の質の向上に向けたICTの活用
    ICTを主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に生かし、今までできなかった学習活動の実施や家庭などでの学びを充実させる
  2. ICTの活用に向けた教師の資質・能力の向上
    教師が必要な資質・能力を身につけられる環境を実現する
  3. ICT環境整備のあり方
    GIGAスクール構想により配備される端末は、クラウドにアクセスし、各種サービスを活用することを前提としつつ、家庭へ持ち帰れるようにするなど環境を整備する

5.「令和の日本型学校教育」の具体的なあり方

中教審の答申では、前述したような概要の説明に加え、幼児教育や義務教育、高等学校教育など、各教育の具体的なあり方についても説明がなされています。ここからは、その提言の概要をご紹介します。

(1)幼児教育

幼児教育については、その質の向上のために、以下の3点が基本的な考え方として挙げられています。

  • 幼児教育は義務教育以後の教育の基礎の育成を目的とすること
  • 各幼児教育施設においては、幼児教育の実践の質の向上を図ること
  • 幼児教育の内容・方法の改善・充実や、人材の確保・資質および専門性の向上などを進めること

そして、「幼児教育の内容・方法の改善・充実」 「幼児教育を担う人材の確保・資質および専門性の向上」 「幼児教育の質の評価の促進」 「家庭・地域における幼児教育の支援」「幼児教育を推進するための体制の構築」「新型コロナウイルス感染症への対応」などについて具体的に示されました。

(2)義務教育