名古屋大大学院の内田良教授(教育社会学)らのグループが行った「学校の業務に関する調査」は、教員の「見えない残業時間」を可視化して教員の業務の全体像を描き出し、併せて長時間労働の影響の広がりを明らかにしようとする試みでした。5月13日の文部科学省での記者会見後、寺子屋朝日は内田教授にインタビューし、調査の背景や教員の勤務環境の移り変わりなどについて語ってもらいました。その中で内田教授は、言いたいことが言いにくいといった「学校文化」こそが働き方改革の妨げになっていると考えられることを指摘しました。

内田良(うちだ・りょう)名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授。学校の中で子どもや教師が出あうさまざまなリスクについて、調査研究や啓発活動を行っている。著書に「みらいの教育 学校現場をブラックからワクワクへ変える」(武久出版、共著)、「#教師のバトン とはなんだったのか 教師の発信と学校の未来」(岩波ブックレット、共編著)、「校則改革 理不尽な生徒指導に苦しむ教師たちの挑戦」(東洋館出版社、共編著)、「ブラック部活動 子どもと先生の苦しみに向き合う」(東洋館出版社)、「教育という病 子どもと先生を苦しめる『教育リスク』」(光文社新書)、「教師のブラック残業 『定額働かせ放題』を強いる給特法とは?!」(学陽書房、共編著)など。ヤフーオーサーアワード2015受賞。


「過少申告」は予想された結果

今回の会見では、教員が勤務時間を「過少申告」していることについて、皆さん一様に驚いていらっしゃる雰囲気を感じましたが、僕たちにとってはそれがむしろ意外でした。そもそも僕らの調査は、2020年4月の改正給特法の施行以降、「見えない残業時間」が増えているのではないかという危惧のもとに実施したものですし、「学校の文化」をそれなりに見聞きしている立場としては、過少申告の事態は大いに予想されるものだったからです。

給特法…「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」。1971年に制定され、教員の職務と勤務態様の特殊性を理由に、原則として教員には残業を命じない・残業代を支払わない代わりに給料月額4%を支給すると定めている。2019年の改正で「在校等時間」に月45時間、年360時間の残業上限が設けられたが、罰則の規定はない。

調査は、昨年11月、コロナがいったん収束したかに見えた、その間隙(かんげき)を突く形で実施しました。僕らとしては、残業時間の上限を「月45時間、年360時間」とする新しい法制度が施行された段階で、その初期値を押さえておきたかったのです。そして4年後、つまり最初の調査から5年後に、ほぼ同じ内容の質問調査を行うことで1セットと考えました。もちろん、いろいろな数字が好転することを期待しているわけです。

「学校の業務に関する調査」について記者会見で発表する内田良・名古屋大大学院教授(左)。右は岐阜県立高校教員の西村祐二さん=5月13日、文部科学省

過少申告は予想された結果だったとはいえ、そうした突っ込んだ調査は、文科省の立場でではなかなかできません。その点、研究者としての立場なら聞けます。これは僕らの勝手な希望的観測ですが、たぶん文科省も、この数字にフタをしたいわけではないと思うのです。今回の会見でも「数字が改ざんされたら何も対策が立たないのでは」とおっしゃっていた記者がいましたが、全くその通りで、まずはきちんとした数字を出すことに意味があって、そこを起点として各地の教育委員会にしっかり訴えていく。そのための調査なのです。

「質」が考慮されない教員定数

そもそも学校という「官製ブラック企業」は、いつ頃からそのような状況に陥ったのか――。文科省の教員勤務時間調査は1966年の実施以降、2006年まで実施されていないので、その間の変化は分かりません。ただ、おそらく00年前後あたりから過酷さが実感されるようになってきたと推察されます。まず、制度的に大きかったのは週5日制。本来教員が楽になる仕組みも、実際は平日が慌ただしくなり、同時に休むはずの土日に部活ががっつり行われるようになって、そこでまた過熱化が進みました。