「過少申告」は予想された結果
今回の会見では、教員が勤務時間を「過少申告」していることについて、皆さん一様に驚いていらっしゃる雰囲気を感じましたが、僕たちにとってはそれがむしろ意外でした。そもそも僕らの調査は、2020年4月の改正給特法の施行以降、「見えない残業時間」が増えているのではないかという危惧のもとに実施したものですし、「学校の文化」をそれなりに見聞きしている立場としては、過少申告の事態は大いに予想されるものだったからです。
給特法…「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」。1971年に制定され、教員の職務と勤務態様の特殊性を理由に、原則として教員には残業を命じない・残業代を支払わない代わりに給料月額4%を支給すると定めている。2019年の改正で「在校等時間」に月45時間、年360時間の残業上限が設けられたが、罰則の規定はない。
調査は、昨年11月、コロナがいったん収束したかに見えた、その間隙(かんげき)を突く形で実施しました。僕らとしては、残業時間の上限を「月45時間、年360時間」とする新しい法制度が施行された段階で、その初期値を押さえておきたかったのです。そして4年後、つまり最初の調査から5年後に、ほぼ同じ内容の質問調査を行うことで1セットと考えました。もちろん、いろいろな数字が好転することを期待しているわけです。
過少申告は予想された結果だったとはいえ、そうした突っ込んだ調査は、文科省の立場でではなかなかできません。その点、研究者としての立場なら聞けます。これは僕らの勝手な希望的観測ですが、たぶん文科省も、この数字にフタをしたいわけではないと思うのです。今回の会見でも「数字が改ざんされたら何も対策が立たないのでは」とおっしゃっていた記者がいましたが、全くその通りで、まずはきちんとした数字を出すことに意味があって、そこを起点として各地の教育委員会にしっかり訴えていく。そのための調査なのです。
「質」が考慮されない教員定数
そもそも学校という「官製ブラック企業」は、いつ頃からそのような状況に陥ったのか――。文科省の教員勤務時間調査は1966年の実施以降、2006年まで実施されていないので、その間の変化は分かりません。ただ、おそらく00年前後あたりから過酷さが実感されるようになってきたと推察されます。まず、制度的に大きかったのは週5日制。本来教員が楽になる仕組みも、実際は平日が慌ただしくなり、同時に休むはずの土日に部活ががっつり行われるようになって、そこでまた過熱化が進みました。