「恋の相手は女の子」(岩波ジュニア新書)という本を読んだ。著者はセクシュアルマイノリティーの女性、室井舞花さん(36)。同性を好きになる自分自身を受け止められなかった思春期、身近な人たちへのカミングアウト、パートナーの女性と開いた結婚パーティーをめぐる体験などを交え、多様性に寛容な社会づくりを呼びかけるエッセーである。

室井さんとは昨年12月、ひきこもり当事者や家族の相談に乗ったり、就労につなげたりする支援者向けの研修会で初めて会った。主催団体の窓口役を務めるた室井さんにその時、ご自身の事情を少しだけうかがった。その後、寺子屋朝日でLGBTQ+をテーマにした記事配信やウェビナーを実施したことで関心を持ち、この本を手に取った。

だれかを好きにならないよう努力

著書によると、幼いころの室井さんは外で過ごすのが好きな活発な子だった。ショートカットだったこともあり、男の子に間違えられた経験は数百回。アイドルの「SPEED」に夢中になった小学生時代、「好き」という言葉で表せば友だちと同じなのに、自分の「好き」は友だちのようなあこがれと少し異なり、ニュアンスが違うように感じていたという。

中学2年生の時、同じクラスの女の子に恋をした。しかし同性を好きになるのはおかしいという考えが膨らみ、好きという感情との間で頭の中はぐちゃぐちゃに。以来、高校時代まで、だれかを好きにならないように努めた。

節目節目での貴重な体験から紡ぎ出される言葉には、中身がぎゅっと詰まったような重みを感じるものがいくつもある。ここでは、カミングアウトをめぐるエピソードを紹介したい。

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室井舞花さん=2022年3月、埼玉県川越市

カミングアウトのきっかけは大学時代、地球一周の船旅をして現地の人と交流しながら、戦争や人権、環境問題などを学ぶ「ピースボート」の活動に初めて参加した時につかんだ。

ピースボートでは寄港先ではもちろん、船内でもさまざまな社会問題について、イベントや講演会が開かれる。その中にセクシュアルマイノリティー関係のイベントを見つけ、気になって参加すると、船内で仲良くなった同世代の女性がステージで堂々と語り出した。「私は同性愛の当事者です」。自分と同じような人が現実に生きていること、大勢の人が関心を持って彼女の話を聴き入っていることに驚き、1人になって自分自身を振り返ったという。その描写の後に記したのが以下の言葉だ。

「カミングアウトと言うと、だれかに向けたものという印象がありますが、何よりもまず自分にするものだと思っています」「恋の相手は女の子」(岩波ジュニア新書)

室井さんはこの時、本来の自分を認める一歩を踏み出したのだという。

思わず、我が身を振り返った。本来の自分って何? 私自身はその自分に正面から向き合っていると言えるだろうか。イエスと言い切れないことを思い知らされる。

結婚パーティーで関わった2人の女性

少数派に対して、多数派はどうあるべきかを教えてくれているように思えるエピソードもあった。それがパートナーの「ぶいちゃん」こと恩田夏絵さんとの結婚パーティーの準備をしていた時に出会った2人の女性たちの対応だ。

1人は会場のカフェのスタッフ。同性どうしの結婚式とわかって断った式場もあると聞いていたため緊張して下見に出向いたが、同性カップルと告げても「ああ、そうなんですか」と淡々と手続きの説明を続けた。男女を想定した表記や進行についても、「気にせずやりたいことを相談してください」と言ってくれたという。

もう1人はドレスのデザイナー。打ち合わせで女性カップルと知らせると、「新婦さんの衣装を2着用意できて楽しみ」と喜んだ。要望を聞いて用意してくれた服だったが、女性らしい服装を笑われた子どものころの思い出がよぎり、乗り切る自信がないと告げると、前日まで作業を重ねてくれた。

少数派と多数派の関わりといえば、2013年にニュージーランド議会で行われた「ビッグ・ゲイ・レインボー・スピーチ」と呼ばれる有名な演説を思い出す。同性婚を認める法案に対し、モーリス・ウィリアムソン議員(当時)が法案賛成を訴えた動画は大きな反響を呼び、1千万回以上再生されたという。日本語にすると以下のようなくだりがある。

「この法案で我々がやろうとしているのは、愛し合う2人に結婚という手段を認めること。これがすべてです」

「反対する人に約束します。太陽は明日も昇ります」「明日からも、ただ毎日が続くのです。だから、あまり大騒ぎしないでください」

「この法案は当事者にとっては素晴らしいものです。残りの我々からすれば、同じ日々が続くだけなのです」

ウィリアムソン氏の地元では当日朝、大雨が降り、大きな虹がかかったという。虹の写真をツイッターに投稿して「何かのサインに違いありません」と述べたことがスピーチ名の由来となった。そして、ニュージーランドでは同性婚が法制化された。

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室井舞花さん(右)とパートナーの恩田夏絵さん=2021年9月、群馬県嬬恋村

日本ではまだ同性婚の法制化はもちろん、LGBTへの理解を広げる法案すら、与党・自民党内の意見が割れて議論が進まない。室井さんたちが出会った2人の女性のように、大ごとととらえず、ただ、愛し合う2人の幸せを素直に喜び、祝いたい。そんな気の持ちようやふるまいが理解を深め、多様性に寛容な、ほんとうの意味での共生社会に近づく道ではないかと思う。

少数といっても、LGBTQ+の当事者はどんな調査をしても5%以上いるとされ、調査によっては8.9%とするものもある。日本の4大名字(佐藤、鈴木、高橋、田中)を合わせた人たちより多い割合ということになる。悩みを抱え、話せないでいる当事者はすぐそばにいるかもしれない、という想像力を持ちたい。