公立学校の教員は、民間企業とは働く上でのルールに大きな違いが存在します。なかでも異質といえるのが時間外労働であり、それを象徴するルールが「超勤4項目」です。今回の記事では、超勤4項目の具体例やその根拠となる法律、教員の労働環境に関する問題点を教育法学の専門家が解説します。

1. 超勤4項目とは?

超勤4項目とは、教員に対して命じることのできる四つの時間外業務のことを指します。具体的には、校外実習その他生徒の実習に関する業務・修学旅行その他学校の行事に関する業務・職員会議に関する業務・非常災害などの場合に必要な業務の四つです。

教員の長時間労働と、これに伴う教員不足が社会問題となるなかで、「給特法」という法律が注目を集めています。給特法は公立学校教員を対象に、給料月額4%の教職調整額を支給する代わりに、時間外・休日勤務手当(超勤手当)を支給しないという特殊ルールを定める法律です。

いくら時間外労働をしても超勤手当が支給されないことから、給特法は携帯電話料金にたとえて「定額働かせ放題法」とも揶揄(やゆ)されています。この法律の改廃が、学校における働き方改革をめぐる政策論議の焦点となっています。

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しかしながら、給特法を「定額働かせ放題法」とすることは、公立学校教員にも労働基準法が適用されていることから、正しい法律理解とはいえません。

周知のように、労働基準法32条は労働者の労働時間を週40時間、1日8時間に制限しています。この上限を超えて労働者を働かせる場合は、労使協定(三六協定)の締結とともに(36条)、上限を超えた労働時間に対して超勤手当を支給することを義務づけています(37条)。

公立学校教員には、このうち労働基準法の上限規制が適用されています。他方で、給特法により教職調整額を支給する代わりに、労働基準法37条を適用除外し超勤手当を支給しないという特殊ルールが定められています。これにより、給特法は「定額働かせ放題法」と呼ばれてきたのです。

しかしながら、給特法にはもう一つ重要なルールが存在します。それが、教員の時間外勤務の対象を四つの業務に限定するというルールです。これが、通称「超勤4項目」です。

超勤4項目とは、具体的に以下の業務を指します。

  1. 校外実習その他生徒の実習に関する業務
  2. 修学旅行その他学校の行事に関する業務
  3. 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
  4. 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

(引用:資料3 教育公務員の勤務時間について|文部科学省

つまり給特法とは、「定額働かせ放題法」というよりも、定額基本料金以外の従量課金はないものの、使用できるアプリを四つに限定するというルールを定めたものなのです。

2. 超勤4項目の変遷

1971年に制定された給特法の国会審議時、教員の時間外勤務対象業務については、当初「9項目」が構想されていました。

  1. 児童または生徒の実習に関する業務
  2. 修学旅行、遠足、運動会、学芸会、文化祭等の学校行事で、学校が計画実施する教育活動に関する業務
  3. 学生の教育実習の指導に関する業務
  4. 教職員会議に関する業務
  5. 身体検査に関する業務
  6. 入学試験に関する業務
  7. 学校が計画実施するクラブ活動
  8. 図書館事務
  9. 非常災害の場合に必要な業務

(参照:第六十五回国会 参議院文教委員会会議録第十七号 p.31|国立国会図書館

これが給特法の制定後、教員組織、なかでも日本教職組合(以下、日教組)との交渉によって、教員の時間外勤務の対象項目が現在の項目数に削減されたのです。

この背景には、当時の労働省が労働基準法の一部を安易に適用除外することに懸念を示したことがありました。実際に1971年2月13日には、中央労働基準審議会が労働大臣宛に「義務教育諸学校等の教諭等に対する教職調整額の支給等に関する法律の制定について」と題する以下の建議を提出しています。

  1. 労働基準法が他の法律によって安易にその適用が除外されるようなことは適当でないので、そのような場合においては、労働大臣は、本審議会の意向をきくよう努められたい。
  2. 文部大臣が人事院と協議して超過勤務を命じうる場合を定めるときは、命じうる職務の内容およびその限度について関係労働者の意向が反映されるよう適切な措置がとられるよう努められたい。

(引用:『内外教育』1971年2月23日 第2240号 p.16 下線は筆者による)

この建議のもと、給特法制定後、具体的な対象項目に関する文部省と日教組との交渉が行われました。そして1971年7月5日付けにて、「教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合に関する規程」(文部省訓令第28号)が定められました。

これにより、給特法が許容する教員の時間外勤務は、以下の「5項目」に絞られたのです(訓令4条)。

  1. 生徒の実習に関する業務
  2. 学校行事に関する業務
  3. 学生の教育実習の指導に関する業務
  4. 教職員会議に関する業務
  5. 非常災害等やむを得ない場合に必要な業務

(引用:『現代日本教育制度史料〈38〉』p.379

また1971年7月9日付けにて、文部事務次官より施行通達「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の施行について」(文初財第377号)が発せられています。

そこでは時間外業務に関連する「生徒の実習」「学校行事」「非常災害等」の内容が以下のように定義付けられました。

  • 生徒の実習:校外の工場、施設、船舶を利用した実習および農林、畜産に関する臨時の実習
  • 学校行事:学芸的行事、体育的行事および修学旅行的行事
  • 非常災害等:非常災害の場合に必要な業務のほか、児童・生徒の負傷疾病等人命にかかわる場合における必要な業務および非行防止に関する児童・生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする業務

(参照:同上 p.627)

このうち「③学生の教育実習指導に関する業務」は公立学校教員には適用されない運びとなりました。当時、給特法の対象とされていた国立大学附属学校に所属する国立学校教員のみを対象とする業務とされたのです。

それが、2004年の国立大学法人化に伴い国立学校教員が給特法の対象外とされました。これにより、公立学校教員のみに適用されてきた四つの業務が超勤4項目として政令に定められ、現在の形に至ったのです。

上記のように、教員の時間外労働の対象となる「業務内容」について、当初予定されていた「9項目」が、最終的に「4項目」に絞られました。この経緯からも、本来「超勤4項目」による限定は、極めて厳格に運用されなければならないのです。

3. 超勤4項目に対する回復措置

実際に、給特法制定時には、超勤4項目の時間外勤務に対して、以下のような厳格な運用方針が示されていました。

先の文部省訓令では「教育職員については、正規の勤務時間の割振りを適正に行ない、原則として時間外勤務は命じないものとする」(第3条)としていました。つまり超勤4項目であったとしても、できる限り時間外勤務とならないように配慮すること。そして、勤務時間の「割振り」によって、所定勤務時間内に教員の総労働時間を収めることが想定されていたのです。

この運用にあたり、「施行通達」では以下のような留意事項が念押しされています。

  1. 教育職員については長時間の時間外勤務をさせないようにすること。やむを得ず長時間の時間外勤務をさせた場合は、適切な配慮をするようにすること
  2. 教育職員について、日曜日または休日等に勤務させる必要がある場合は代休措置を講じて週一日の休日の確保に努めるようにすること
  3. 教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、学校の運営が円滑に行なわれるよう関係教育職員の繁忙の度合い、健康状況等を勘案し、その意向を十分尊重して行なうようにすること

(参照:資料3 教育公務員の勤務時間について|文部科学省

このように、給特法の制定時には、労働基準法の一部適用除外が教員への「働かせ放題」とならないよう、厳格な運用ルールが設定されていました。

「教職調整額を支払う代わりに、超勤手当を支給しない」。この給特法の特殊ルールは、上記のような厳格な運用ルールとのセットによって、はじめて労働基準法違反を免れるものなのです。

4. 超勤4項目に「該当しない」時間外業務の扱いは?

しかし実際の教員の時間外労働は、この超勤4項目に「該当しない」業務が大半を占めています。早朝の登校指導、入試業務、家庭訪問などの校務、さらに近年問題となっている部活動などは、超勤4項目に該当しない業務です。本来であれば、教員に命じることのできない時間外勤務であり、教員はこれらの業務を拒否することができます。

先ほど携帯電話にたとえて、給特法は「定額働かせ放題法」ではなく、使用できるアプリ(業務)を四つに限定する法律であると説明しました。本来であれば、1日8時間、週40時間を上限とする労働基準法32条からみて、「超勤4項目」に該当しない時間外業務は労働基準法違反にあたり、「課金(超勤手当)」が必要なのです。

ではなぜ、その違法性が問われず「教員の働かせ放題状態」が常態化しているのでしょうか?これが給特法問題の本丸なのです。これについて、「文部科学省の運用と解釈」「労働時間に対する考え方」の二点を踏まえて以下に解説します。

5. 超勤4項目を取り巻く法制度の問題点

(1) 文科省の“解釈と運用”の問題

文部科学省は一貫して、超勤4項目に「該当しない」時間外業務を、校長が把握していないところで教員が勝手に行った「自発的行為」として解釈、運用してきました。実際に、文部科学省は教員の職務について以下のように言及しています。

現行制度上では、超勤4項目以外の勤務時間外の業務は、超勤4項目の変更をしない限り、業務内容の内容にかかわらず、教員の自発的行為として整理せざるをえない。 このため、勤務時間外で超勤4項目に該当しないような教職員の自発的行為に対しては、公費支給はなじまない。また、公務遂行性が無いことから公務災害補償の対象とならないため、別途、必要に応じて事故等に備えた保険が必要。(資料5 教員の職務について|文部科学省

こうした文部科学省の「解釈と運用」により、教員の時間外労働が無定量な「タダ働き」と化してきたと考えられます。

一方、教員の多忙化が社会的に認識されるなかで、2019年12月に給特法の一部が改正され、「上限指針」が文部科学省告示として導入されました。この「上限指針」は、超勤4項目に該当しない業務を含めて教員の勤務時間を「在校等時間」と称しています。そして、時間外の在校等時間を月45時間、年間360時間(特別の事情がある場合は最大で月100時間、年間720時間)に規制しました。

実はこの「上限指針」が導入されたことにより、文部科学省の「解釈と運用」は混迷を極めています。なぜならば、上限指針は超勤4項目に該当しない業務を含めて校長に勤務時間管理を義務づけているからです。これにより、教員の時間外業務を「校長が把握していない自発的行為」とみなすことは、もはやできないはずなのです。

ところが、文科省は今もなお教員の時間外業務を「自発的行為」と主張し続けています。
2021年6月21日に更新された文部科学省の「上限指針Q&A」において、同省は次のように回答しています。

教師に関しては、校務であったとしても、使用者からの指示に基づかず、所定の勤務時間外にいわゆる『超勤4項目』に該当するもの以外の業務を教師の自発的な判断により行った時間は、労働基準法上の『労働時間』には含まれないものと考えられます。(引用:公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドラインの運用に係るQ&A p.2|文部科学省)

つまり、文部科学省は「使用者(校長)の指示」がなければ、それは教員の「自発的行為」であり、労働基準法には抵触しないとしているのです。

(2)「労働時間」の定義とは?

ここで注目すべきは、労働基準法を管轄する厚生労働省は、「使用者の指示」のみを根拠とする労働時間の定義を採用していない点です。

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によると、同省は労働時間について以下のように定義しています。

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間に当たる。(引用:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン p.1|厚生労働省)

これをもとに、文科省は「使用者(校長)の指示」がなければ、教員の「自発的行為」であり労働基準法に抵触しないとしています。しかし、厚生労働省は先ほどの定義に次のような「ただし書き」を付けています。

労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。(引用:同上 p.2|厚生労働省)

この定義からするならば、登校指導や家庭訪問、部活動などの業務は、いずれも「使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた業務」に含まれるはずです。そして、これらの業務に従事している時間は労働時間に該当すると考えられます。

超勤4項目に該当しない時間外業務を行わせている時点で、それは労働基準法違反にあたると判断できるのです(この法律問題について、詳しくは拙著「聖職と労働のあいだ」(岩波書店、2022年)にて解説しています)。

それゆえ、文科省がこのような「労働時間」の考え方を是正しなければ、たとえ給特法が廃止されたとしても教員の時間外労働は「自発的行為」として処理され続けてしまうでしょう。そうなれば、超勤手当も「自発的行為」に対して支給されないままとなるおそれがあります。

この問題点を押さえずに給特法廃止を安易に説くことは、大きなリスクをはらみます。無定量な時間外労働をそのままに、超勤手当も支給されないまま、教職調整額が廃止されるという「ディストピア」を招いてしまうかもしれません。

6. 時間外労働に対して現場の教員ができること

現在、多くの教員が超勤4項目に該当しない時間外労働に従事しています。増え続ける業務量に対して、現場の教員ができることはあるのでしょうか? 個人や団体としてできることをまとめました。