STEAM教育の意味や狙い、「STEM教育」との関係などを解説します。

STEAM教育とは?

STEAM教育とは、理系や文系の枠を横断して学び、問題を見つける力や解決する力をはぐくむ学習です。「STEAM」は「スチーム」と読み、それぞれが学問領域の頭文字を表しています。

Sは、Science(サイエンス)……科学

自然現象などを学ぶ学問です。例えば中学では光の反射や屈折の実験、高校では太陽光や電磁波といった光の波など。熱やエネルギーなども科学として学ぶ領域に含まれます。

Tは、Technology(テクノロジー)……技術

科学を役立てて、実際にものを作ったりする学問です。中学校では製作に必要な図の作成や加工、電気回路や情報処理の仕組みなどを学びます。

Eは、Engineering(エンジニアリング)……工学、ものづくり

主に工業に役立てることを想定し、新製品や新技術を研究する学問です。工業科のある高校では機械設計や機械工作、自動車整備などを学びます。

Aは、Art(アート)……芸術、リベラルアーツ、文化、政治、経済、生活など

狭い意味で「芸術」のみを捉えることもあれば、文化、生活、経済、法律、政治、倫理なども含めて広く捉える場合もあります。

日本政府は、「アート」を広く定義したSTEAM教育の推進を図ろうとしています。2021年12月に取りまとめた「Society 5.0(※注1)の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」の中間まとめでは、その範囲について「デザインする力を軸にした、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲」と定義しています。

※注1 Society 5.0=サイバー空間と現実社会が高度に融合した「超スマート社会」を指す。経済発展と社会課題の解決を両立させる人間中心の社会として、内閣府が第5期科学技術基本計画で打ち出したもので、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、⼯業社会(Society 3.0)、現代の情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を意味する。

Mは、Mathematics(マスマティクス)……数学

数量や空間図形の性質などを研究する学問です。高校ではデータの相関や図形、微分・積分なども学びます。

求められる人材の変化

AI(※注2)やIoT(※注3)が飛躍的に進歩を遂げる現代社会では、求められる人材のスキルも変わってきていると言われています。

STEAM教育では、上記のような学問領域の枠を横断して考える力や、今までにない新しい着眼点を育てる狙いがあります。そして、これから必要とされるであろう科学・技術分野で新しいものを創造したり革新を起こしたりできる人材、政治や経済、科学技術が複雑に絡み合う社会課題に向き合うことができる人材の育成につなげようとしています。

※注2 AI=人工知能。主に人間が考えているように動くコンピューターを指す。様々なデータを蓄積して学習することができ、将棋や囲碁のプロに勝つAIも誕生している。
※注3 IoT=「Internet of Things(モノのインターネット)」の略称。自動車や家電など、様々な物がインターネットにつながり、自動運転などが可能になる。

STEAM教育の歴史

「STEAM教育」の基幹にあたる「STEM教育」

STEAM教育よりも前に、「科学、技術、工学、数学」を横断的に学習する「STEM(ステム)教育」が誕生しました。「STEM教育」は、その学問領域を見ても分かるように「理系人材の育成」を目的に掲げたものです。
この言葉が広く知られるようになったのは、2000年代後半からです。背景には、ロボットやAIといった技術の急速な進歩があります。例えばロボットの製作には科学と工学の知識が必要ですし、AIであれば、技術に加えて統計などの数学的な知識が求められます。それぞれの分野を掛け合わせることで、革新的な技術の発展につながったともいえます。そうした流れの中で「理系分野の複合的な知識を持つ人材」を求める声が高まってきました。

STEM教育に+A

新しい技術を生み出し、世の中に広めていくためには「創造性」や「デザイン」が必要だという考えが生まれてきました。これがアート(A)です。

他方で環境問題や貧困などの社会課題に目を向けると、問題点の発見や解決には、理系分野だけでなく生活や文化、政治や経済といった文系分野の知識をも兼ね備えた「複合知」が必要だという考えも広まりました。いま日本政府が議論しているのもアートを広く定義した「複合知」の推進についてです。

日本政府が想定する+Aの事例

日本政府は広い意味でのアートが求められる場面として、自動運転を例に挙げています。科学技術の進展により、AIや認識技術などを組み合わせれば、完全に人の運転を必要としない車が道路を走る日も近いかも知れません。ただ、実社会に自動運転の車を実装するには、事故が起きた時の責任は誰にあるかという法律的な観点や、危機回避の優先順位は乗員か通行人かという哲学的な観点も必要だとしています。

STEAM教育の基幹には、理系分野を中心とした「STEM教育」がありますが、「A」に当たる部分には「創造性」と「社会課題」という異なるとらえ方があり、それによって意味するところも変わってくるのです。

日本のSTEAM教育

文部科学省は、学校が教育課程(カリキュラム)を作る際の基準として「学習指導要領」を定め、一定の期間で見直しています。最新の学習指導要領は小学校では20年度、中学校は21年度から実施され、高校は22年度から実施されます。これらの中にも、STEAM教育の考え方が生かされています。

理数教育の充実(小中学校)

新しい学習指導要領には「理数教育の充実」が明記されました。

  • 日常生活等から問題を見いだす活動(小:算数、中:数学)
  • 見通しをもった観察・実験(小中:理科)
  • 必要なデータを収集・分析し、その傾向を踏まえて課題を解決するための統計教育(小:算数、中:数学)
  • 自然災害に関する内容の充実(小中:理科)

など、STEAM教育の観点から「課題発見・解決型」の授業を取り入れることが盛り込まれています。

内閣府の「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」の中間まとめから抜粋

理数教育の充実(高校)

高校では、新しい学習指導要領の実施に伴って22年度から、「総合的な学習の時間」に代わる「総合的な探究の時間」や、新科目「理数探究」が始まります。指導要領にも小中学校と同様に、数学や理科については「日常生活や社会との関連を重視」するとし、「見通しをもった観察、実験を行うことなどの科学的に探究する学習活動の充実(理科)」や「必要なデータを収集・分析し、その傾向を踏まえて課題を解決するための統計教育を充実(数学)」させることが盛り込まれています。

文部科学省の「高等学校学習指導要領の改訂のポイント」はこちら

変革のイメージは

政府は、21年12月に「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」の中間まとめを発表しました。担当者によると、同パッケージは22年3月末までに取りまとめられ、その後経済産業省や文部科学省でSTEAM教育の普及に必要な人材確保のあり方などが議論される見通しです。

内閣府「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ<中間まとめ>」はこちら

21年末時点の「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」の中間取りまとめで描かれた変革のイメージを図とともに紹介します。

内閣府の「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」の中間まとめから抜粋

小中学校のポイントは

小中学校でポイントとなるのは、STEAM教育の重要な要素でもある理数系の専門知識を持った人材を教育現場に引き入れる点です。小学校では「理数リテラシーの高い教師」が求められ、中学校では「理数の博士号取得者などの専門的な知識のある教師」による深い学びを提供することが求められます。こうした変革と歩調を合わせるように、小学校の高学年では22年春から理科や算数、英語に「教科担任制」が導入される予定です。

高校のポイントは

高校では「探究・STEAMの学びの設計・コーディネートや、大学や企業等との連携をコーディネートできる人材が高校に常時いる状況」が求められています。専門性が高い高専生や専門高校生はインストラクターとして、小中学生への学びの支援が求められるなど、より小中学生に身近な場所へと変わることが想定されています。

国際比較から見える課題

こうした見直しの背景にあるのが、理数に対する児童・生徒の「苦手意識」です。文部科学省と国立教育政策研究所が発表した「国際数学・理科教育動向調査」(20年)のデータでは、日本の小・中学生は「算数数学の勉強は楽しい」、「理科の勉強は楽しい」と感じている割合が、国際平均と比較すると低い傾向にあることが分かっています。

文部科学省「STEAM教育等の教科横断的な学習の推進について」から抜粋

このほか「数学・理科を使うことが含まれる職業につきたい」と考える中学生も国際平均より低いことが明らかになっています。理数教育に対する苦手意識の克服は、STEAM教育を推進していくうえで避けては通れない課題だと言えます。

STEAM教育の実践

兵庫県教育委員会は20年度から22年度の3年間、県内の3高校を「STEAM教育実践モデル校」に指定し、STEAM教育を試験的に導入しています。その中の一つ、県立加古川東高校の取り組みを取材しました。

企画立案はSTEAM係が担当

加古川東高校は指定を受けた20年度から、STEAM教育の企画立案を担う「STEAM係」を設け、理科と数学の教員3人を任命しました。
係の主な役割は、校内で実施するSTEAM教育「特別講座」の検討です。

  • 特別講座の内容
  • 講座の開催時期
  • 参加する生徒数

こうした内容を検討したうえで、校内の教職員たちでつくる委員会に提案します。委員会で議論した内容は、議事録にまとめて全職員に共有しているそうです。

初年度は10回、21年度は20回以上

初年度に実現した特別講座は「ドローンを操ろう」や「統計入門」など10回ありました。21年度は、すでに20回以上の講座を開催したそうです。

初年度の特別講座

  • ドローンを操ろう
  • microbitで夢を創ろう
  • 加古川市の地域デザインを考えよう
  • 3Dプリンタ
  • レーザー加工機体験教室
  • PCR検査を体験しよう
  • レゴロボット体験教室
  • TOMOTAro1講習会
  • 電子工作入門
  • 統計入門

文部科学省の初等中等教育分科会で発表された加古川東高校の取組はこちら

生徒の提案が市の子育て支援サービスに

講座の具体的な事例を見てみましょう。

初年度に開いた「加古川市の地域デザイン」では、人口動態や産業構造、人の流れなどのビッグデータを集約し、可視化する内閣府の地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」の使い方を地歴・公民科の教員が説明。参加した生徒9人は3人ずつのグループに分かれ、それぞれで地域の課題、解決策を考えました。

特別講座「地域デザイン」の中間発表会=加古川東高校提供

生徒たちはデータを基に、子育て世代の悩みや、加古川市が実施している施策の課題を分析しました。そこから、子どもを一時的に預ける保育サービス「ファミリーサポート」の認知度が低いことに着目し、地域の老人クラブなどシニア世代の団体と連携することで認知度や信頼度を高めることができる、という提言をまとめました。生徒たちの提言は市役所で発表され、市は提案を基に子育て支援サービスを創設することにしました。早ければ23年度からの利用が見込まれるとのことです。

担当の福迫先生「やりがいを感じている」

「特別講座」は、夏休みや放課後に実施されます。講座によって所要時間は異なり、1回3時間ほどで終わるものも、4日間に分けて行うものもあります。放課後などに生徒が自主的に進めることもあります。受講は希望制ですが、2年生の45%が何らかの講座を1回以上受講したそうです。

STEAM教育を担当する福迫徳人先生は「STEAM教育にはロールモデルがなく、今は教員がテーマや教材を模索・探究しながら考えている。それらを通常の教員業務に加える形で実施するので、教員側の負担は決して軽くない。ただ講座を受けた生徒たちの反応も良く、実施する意義・やりがいを感じている」と話しています。ただ、生徒は部活動や受験勉強もあるため「生徒に負担がかかりすぎないよう、慎重に進めています」(福迫先生)。

同校では21年度から、通常授業の一部にもSTEAM教育を導入し始め、家庭科と理科を組み合わせた「調理を化学的に解析する」などを実施したということです。

STEAM教育の教材

経済産業省は21年3月から、小学校~高校の先生が対象の「STEAMライブラリー」を開設しています。21年12月までに63テーマが配信されており、会員登録すれば授業で使用する動画やスライド、指導案、生徒向けワークシートなどを無料で使えます。

経済産業省が2021年春に開設した「STEAMライブラリー」のHPから抜粋

配信されているコンテンツは、主に民間企業やNPO法人が提供しているものです。例えばメーカー大手のシャープと学習塾のエイスクールが中学生・高校生向けに作成した「自然から学ぶものづくり」では、「発見パート」として太陽電池の開発背景や仕組みに関する話題などから、社会問題をネイチャーテクノロジーの観点から学び、「探究パート」では生徒たちが商品企画や環境保全を考えるための教材が提供されています。

コンテンツは22年に大幅拡充予定

経産省の担当者によると、22年2月ごろから順次、新規コンテンツを70件ほど追加する予定です。授業にSTEAM教育を取り入れる際のヒントになるかもしれません。

まとめ

日本の教育現場では今後、STEAM教育の導入が本格的に始まる予定です。ただ政府関係者からは「教育者側の人材不足」を懸念する声も聞こえてきます。特に理系分野の専門知識を持った人材の不足が懸念されており、「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」の中間とりまとめでも、民間企業との連携が強く打ち出されていました。学校内外の連携もこれまで以上に必要となるでしょう。