新型コロナウイルスの感染拡大が国内で大きな問題になりだした2020年春から、2年半になります。命と健康が危機にさらされ、行動制限などで経済活動も停滞し、社会は根底からコロナに揺さぶられてきました。そんな中、教育現場の声に耳を傾け続けてきたのが慶応義塾大学教授の佐久間亜紀さんです。いま教員たちが求めているのは「理解と共感」だと指摘しています。

佐久間亜紀・慶応義塾大学教授
佐久間亜紀・慶応義塾大教授
佐久間亜紀(さくま・あき)
1968年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学後、博士(教育学)。東京学芸大学准教授、スタンフォード大学客員研究員などを経て現職。日本教育学会・日本教師教育学会理事。専門は、教育学(教育方法学、教師教育、専門職論)。教師の力量形成の方法やその歴史を、日米比較やジェンダーの視点から研究するとともに、実際に各地の学校現場で教師たちと授業づくりに取り組んでいる。授業研究会「第三土曜の会」主宰。主著に「アメリカ教師教育史」(東京大学出版会、2017年、第13回平塚らいてう賞受賞)、共編著「現代の教師論」(ミネルヴァ書房、2019年)など。

学校教員になった教え子たちと続けている研究会で、2年間のあいだに、みんながこんなふうに口々に語りあうのを、ずっとずっと聴いてきました。

2020年。
「全てはあの突然の一斉休校から始まりました。あれからずっと異常です。毎日、何がなんだかわからないうちに、コロナ対応に明け暮れて終わっていきます。ずるずると学校再開が延びている間も、マスクも消毒薬も何もかも足りなくて、学校なんて三密の塊なのに、どうやって安全を確保したらいいか、全然わかりませんでした」

「休校中も、オンライン配信する授業を撮影しろといわれて、あわてて準備して撮影したら、今度は教員の顔は出せないことになったと言われて再撮影。そうこうしながら、自習用のプリントを、取りに来られない生徒の自宅まで、自転車で届けに行っています」

「うちの学校から初の感染者が出たとなったら大変だから、緊張感がすごいです。何がつらいかって、小学生の子どもたちに、お友だちから離れて!触れたらいけない!って言わなければならないなんて。もう胸が張り裂けそう」

「PCR検査を学校の体育館ですることになって、人が足りないから教員を3人出せって言われて。妊娠してる先生には気の毒だから、私が行きました。そしたら、医師も保健所スタッフも防護服なのに、教員には防護服の支給はなくて、泣き叫ぶ子どもをあやしました。私も感染が怖かった」

「20年度が終わって、卒業生を送り出した時、『ああ、僕は生き延びたんだ』って思いました。戦場を生き延びたというか。死力を尽くしたんです。もっとこうすべきとか言われても、正直、もうたくさんだとしか思えません」

暗い教室

2021年。
「やっと少し落ち着いて、コロナにも慣れてきたかな、と思ったら、GIGAスクール構想が入ってきました。コロナで家にいる子どもに、対面と同時進行でオンライン授業をするんですけど、パソコンの背後にいる保護者にも気を配らなければならないから、今までよりずっと神経を使うんです。普通の授業を準備する時間さえないのに」

「インターネットや機材の整備のためだけにも、専任が一人必要なくらい仕事量が増えたのに、どうして雇ってもらないのでしょう」

「行事や移動教室も、感染拡大時に備えて何パターンも準備して、二転三転したあげくに結局中止とか、そういうことが続いています。子どもの残念そうな顔をみると、悲しくなるし徒労感もハンパない」

「どこかの校長が、自分の子どもがコロナ感染した教員も自宅から授業できるように許可した、と書いてある記事を読みました。その教員は、自分の子どもを看護するために、休暇をとりたかったのではないかなと思ったら切なくて」