地方公務員を「能力」と「業績」で評価することにより、能力が高い人材を育成し、組織の士気高揚を図るとして改正された地方公務員法が、2016年春に施行されました。これを受けて学校現場でも、教員を「能力」と「業績」で評価する「教員評価システム」が導入されましたが、どのような変化を与えているのでしょうか。18年度~20年度に文部科学省の研究費助成を受け、教員評価システムの在り方を研究した近畿大教職教育部の杉浦健教授(教育学)に、現状を聞きました。

編集部が解説 教員評価システムとは?

いまの教員の人事評価システム(教員評価システム)の特徴は、教員を「能力」と「業績」で評価し、それを人事管理の基礎資料と位置づける点にある。以前の学校現場では、「勤務評定制度」に基づいた評価が行われていたが、①評価項目が不明瞭であり、あらかじめ明示されない②上司から一方的に評価されるのみで結果は部下に知らされない③人事管理に十分活用されない、などの点が課題とされていた。
こうした課題に対し、東京都は00年度から、全国に先がけて「能力と業績に応じた適正な人事考課」を掲げた人事制度を導入。大阪府など他自治体でも同様の見直しが進められたことで、国でも制度の見直しに対する議論が高まっていった。
そして地方公務員法改正により16年春から、地方公務員の評価が「能力」と「業績」を基準とすることになり、教員にも適用されたのが、教員評価システムだ。
この仕組みでは、教員が自ら目標を定めて管理職に報告することを明示し、管理職は教員の目標達成度や授業観察、面談などを基に評価を行う。教員側は自らの評価の確認ができるようになり、目標設定や資質向上にも活用することが可能となったとされる。
教員への評価をどのように活用するかは自治体に委ねられているが、人事や給与と連動させる動きは徐々に広がりつつある。文科省の調査では、2019年4月1日時点で67の都道府県・政令指定都市教育委員会のうち、「教諭等(管理職を除く)」の評価を給与に連動させていたのは55自治体で、勤勉手当(賞与)についても53自治体が評価と連動した仕組みを導入していた。
教員評価のイメージ図
教員評価のイメージ。文部科学省ホームページから

――文部科学省によると、「心の病」で休職している公立小中高、特別支援学校などの教職員は20年度まで4年連続で5千人を超えました。背景にはどんな課題があるのでしょうか?

私は2014年から、教員が生き生きと職場で働くためには何が必要かを研究してきました。そのなかで「信頼」や「お互い様の規範」「絆」といった職場の人間関係(ソーシャル・キャピタル)がないと、教員がバーンアウト(燃え尽き症候群)するリスクが高まることが明らかになりました。

つまり職場の人間関係が非常に大きな意味を持っているのですが、現場の教員たちの声に耳を傾けると「以前よりもチームワークが失われている」といった声があがってきています。

近年は貧富の格差やヤングケアラー、虐待などの社会問題が表面化しており、教員は学校内だけにかかわらず、福祉や警察などの外部機関とのやりとりが必要とされる場面も生じています。以前の教育現場よりも、さらに職場でのチームワークが求められているとも言えるでしょう。

それにも関わらず、お互いを支え合う雰囲気が失われているというのは、大きな課題です。今回の私の研究では、現在の「教員評価システム」が、そうした弊害を生んでいるという結論にいたりました。

杉浦健教授
インタビューに応じる杉浦健教授
すぎうら・たけし スポーツ心理学と学習心理学をベースに勉強やスポーツ、仕事の「やる気」について研究。著書に「多元的自己の心理学:これからの時代の自己形成を考える」(金子書房)や、「スポーツ心理学者が教える『働く意味』の見つけ方」(近代セールス社)など。

システムは妥当な評価を与えるか

――教員評価システムは、職員の仕事の状況を正しく把握し、育成につなげることで意欲を引き出すために始めたと理解していますが

その通りです。私も正しく評価が行われれば、職員のやる気を高める効果はあると考えています。

ただ、そこには様々な条件が必要となります。まず一つは制度本来の趣旨でもありますが、客観的かつ公平・公正な評価が行われることです。

当たり前のことのように聞こえるかも知れませんが、実はこの問題は根が深く、今も議論の焦点になったままです。課題が残されたままとなっている一方で、教員の評価を給与と連動させる動きは広がっています。

適切な評価基準が確保されていない現状では、教員側からすると納得のいかない評価と、給与が連動してしまっている状態だと言えます。労働に対して正当な評価を受けられないことは、職員のやる気を奪う要因に繫がってしまいます。

――なぜ、そのような結論に至ったのでしょうか