2019年の秋、大阪市立豊仁(ほうじん)小学校で4年生の担任をしていた松下隼司さん(43)は、休み時間にクラスの子どもからこんな質問を受けた。
「先生って、仕事ブラックなん?」
ドキッとした。
社会人の友人に聞かれた経験はあったが、自分の教え子からそんな質問が出るとは思いもしていなかった。とっさに「違うよ」と返すと、その子は納得したような表情を見せた。
「なんで、そんなことを聞くの?」。松下さんが質問を返すと、「ニュースでそう言っていたから」と、その子は答えた。素朴な疑問だったのだと思う。だが、その言葉は松下さんの心の中に刺さったまま残った。
「本音を言えば『ブラックじゃないよ』とは言い切れない部分もある。私も仕事に耐えられなくなった時もあったし、これからもあるかも知れない」と、松下さんは明かす。
宿題の丸つけやプリントの作成、授業の教材準備、職員会議の資料作成、社会科見学の計画書づくり……。放課後も研修や会議の予定が詰まっていて、同僚と雑談を交わすタイミングが無い日もある。つらいのは、多忙さだけではない。子どもや保護者、同僚との関係に悩むこともある。
これまでの教員生活で、何人もの同僚が定年まで勤めずに職場を去っていくのを見送った。「辞める人の挨拶でよく聞く言葉が『教員の仕事と子どもは好き。それでも精神的、体力的に限界なんです』。歯がゆいというか、悔しい」と、松下さん。
つかの間の休息、浮かんだのは子どもたちの顔
そんなことがあった翌年、正月休みのことだった。
妻の実家に帰省し、ショッピングモール内の遊具施設で7歳になった長男と遊んでいると、ふと頭にクラスの子どもたちの顔が浮かんだ。「担任として、残り3カ月間をどうやって、子どもたちと過ごそうか」。クラスの子に投げかけられた「先生って、仕事ブラックなん?」という質問を思い出した。
「先生も本当は、もっと君たちとゆっくり過ごしたいんだよって、気持ちだけでも伝えることはできないだろうか」
最初は関西弁で自分の気持ちを書き出し、詩にしてみた。違う違う……。もっと分かりやすく、読みやすくしたい……。
少し悩んでから本屋の絵本コーナーに足を運び、出版社の名前をメモに取り、メールを送った。「教師の魅力と実情を子どもたちと、多くの人に知ってもらいたい。絵本で伝えたいですーー」。そんな思いを書き連ねた。