「入学金を用意できなくて進学を断念した」。奨学金制度などに関する講演を18年間続けているファイナンシャルプランナー(FP)の新美昌也さんは「こういう事例が、講演先の高校で毎年、数件ずつ起きている」と注意を呼びかけています。背景には近年の受験事情の変化もあるそうです。教員の皆さんに求められる役割や、知っておいてほしい奨学金制度のポイントなどを聞きました。

ーー講演活動を通じて、現状をどのように見ていますか

奨学金制度の種類、内容ともに充実してきていますが、学生に届いている情報が少ないと感じています。今はインターネットで何でも調べられる時代になったように思われがちですが、肝心の学生や保護者が制度自体を知らなければ、調べることも出来ない。身近な大人、それこそ教員の方々が、少しでも奨学金の知識を身に付けていただき、伝えて頂ければ、もっと学生に選択肢を広く持ってもらえるのではないかと思っています。

ーー奨学金の制度は複雑だという印象を受けますが

様々な支援の形があるので、そういうイメージをもたれる方は多いと思います。ただ制度そのものは、そこまで複雑ではありません。奨学金は大きく、借りるタイプの貸与型と返済不要の給付型があります。いずれも採用基準は「成績」と「家計の状況」です。奨学金はこの組み合わせにすぎません。

奨学金を検討する際に重要な要素となるのは、子どもの家庭環境です。児童養護施設にいるのか、ひとり親家庭なのか、生活保護世帯なのか。そうした家庭環境に応じて必要となる奨学金の情報は限られてきます。

例えば、ひとり親家庭であれば自治体の母子父子寡婦福祉資金(就学支度資金・修学資金)※注1を、低所得世帯であれば社会福祉協議会の生活福祉資金(教育支援資金)※注2を無利子で借りることができます。さらに低所得世帯のうち、生活保護世帯の子どもであれば進学準備給付金※注3が支給されます。児童養護施設出身の子どもであれば、大学などの在学期間中、自立支援資金貸付事業により生活支援費や家賃支援費、資格取得支援費を無利子で借りることができ、一定期間就職を継続すると返済が免除されます※注4。返済免除付きの無利子貸付金には、低所得世帯向けの東京都受験生チャレンジ支援貸付金や保育士・看護師など医療系・福祉系の学校に進学する学生の修学資金貸付金などもあります。

※注1 内閣府「母子父子寡婦福祉資金貸付金制度
※注2 全国社会福祉協議会ホームページから
※注3 厚生労働省「生活保護法による進学準備給付金の支給について
※注4児童養護施設退所者等に対する自立支援資金貸付事業のご案内(社会福祉法人 東京都社会福祉協議会の公表資料から)

魅力的な制度が出来つつありますが、それを大人の方々が理解し、伝えられているかというと疑問も残ります。なかにはそうした制度を使わずに奨学金や教育ローンを借りてしまうケースも散見されます。残念ながら「もっと良い制度があったのに」と後悔するケースは、今も起こりうる状況にあります。

奨学金の運営主体は国(日本学生支援機構)、自治体、民間団体、大学などです。まずは、最も利用されている日本学生支援機構の奨学金を検討し、さらに、子どもが置かれている家庭環境に着目すると良いでしょう。

また、大学独自の奨学金や民間団体の奨学金には給付型が多いので調べてみるとよいでしょう。「ガクシー」や「crono My奨学金」のような奨学金検索サイトも増えていますので活用してみてはいかがでしょうか。

「ガクシー」ホームページ
「Crono(クロノ)My奨学金」ホームページ

新美昌也さんの講演の様子
奨学金制度を紹介する新美昌也さんの講演活動=本人提供

ーー教員に求められる役割とは

私自身の経験も踏まえてですが、子どもから親に「進学のためにどれぐらいのお金を準備できるのか」というのは、意外と聞きにくいものです。学生の意向を聞き、学校の三者面談などで家計の状況を一緒に確認することが望ましいと思います。その際に、進学のためにどれぐらいの費用を用意する必要があるのかを伝えていただくことができれば、状況は大きく変わってくると思います。

講演活動を続けているなかで、とても歯がゆく感じるのは、本当に支援が必要な家庭に情報が届いていないのではないかということです。私の講演は、学校などから依頼されて行うケースが多いのですが、聞きに来てくれる保護者は、子どもの進学を本気で考えてくれている方で、かつ講演を聴く時間を取れる方たちです。講演を聞く時間を確保できない保護者、学生たちの中にも悩んでいる人たちはいるはずです。そうした方々に直接伝えられる可能性が高いのは教員の方々だと思います。

奨学金の「落とし穴」とは

ーーそれでは奨学金の注意すべきポイントを教えてください