学校の複雑で多様な問題を解決するため、校長のリーダーシップの下に、学校外の専門スタッフが参画する「チームとしての学校」という考え方があります。文部科学相の諮問期間、中央教育審議会が答申して7年になりますが、専門スタッフの中でも、特に身近になったひとつがICT(情報通信技術)支援員(※)ではないでしょうか。GIGAスクール構想が昨年度に始まってICT活用が求められる中、ICT支援員はどのように学校に関わり、学校や先生は支援員からどう見られているのでしょうか。埼玉県内で活動する2人に聞きました。

※ICT支援員……日常的に教員のICT活用をサポートすることにより、ICTを活用した授業などがスムーズに行われるようにすることが役割で、教育委員会などが自ら募集、配置する。授業計画の作成やデジタル機器の準備や操作、校務システムの活用、校内研修の企画支援などさまざまな場面で学校を支える。文部科学省は、今年度までの5カ年計画で、全国の小中学校など4校に1人のICT支援員の配置を目指しているが、20年度末時点で3538人と目標の半分弱程度にとどまっている。

2人は、ベネッセコーポレーション小中学校事業部ICT教育サポート課に所属する吉本春恵さんと湯口美紀子さん。いずれも埼玉県担当リーダとして、学校現場に出向く支援員を束ね、支援員への日常的な支援や研修、支援員が学校に行けなくなった際の代行などにあたる。リーダは基本的に担当校を持たないが、湯口さんは3校の担当校を受け持つ。埼玉県内の支援員は約70人おり、同社がICTサポートの契約をしている県内13自治体の小中学校などで活動している。

湯口さんと吉本さん
ICT支援員でベネッセコーポレーションの湯口美紀子さん(左)と吉本晴恵さん

同社によると、同県内の支援員約70人のほぼ9割を女性が占める。子育てが一段落したり、子どものために何かしたいと思い立ったりして働き出す人も少なくない。働き方は、フルタイム、週3、4回、週2回ほどなどさまざまだ。支援員を受け入れる学校は、月2回という自治体が一般的だが、月4回や、GIGAスクール構想が始まって月8回の自治体も出てくるなど一様ではないという。

提案も、授業後の振り返りも

業務の中心は、やはり先生たちへの授業支援だ。どんな場面でICTを使うか、先生と話し合って一緒に授業案を考える。先生から授業でやりたいことについて要望を聞き、支援員が使いどころを提案することもあるという。必要な資料探しやワークシート作成などの準備をした後は、授業に一緒に入って先生の支援などにあたり、授業後は効果的に使えたか、子どもの様子がどうだったかなどを先生とともに振り返る。「最終的には、先生ご自身がICTを鉛筆やノートのように授業に取り込んでいただけるよう考えながらやっています」と吉本さんは言う。

校務分掌が回り持ちの学校では、情報担当でありながらICTが苦手な先生もいる。そんな学校では、たとえば1人1台端末を管理するやり方として「名前のシールを作って端末に貼っていましたよ」という具合に、近隣の学校の様子を伝えることもあるという。

今年3、4月は、GIGAスクール構想がスタートして初めての年度替わりとなり、アプリの年度更新など今までなかった作業も発生した。1人1台端末が子ども個人ではなく教室にひも付き、学年が上がると使う端末も変わる小学校で、湯口さんは端末に保存した学習データのファイルを消すよう子どもに指導してほしい、と頼まれた。一定期間そのアカウントにログインしなければ中身は消える仕様になっているため、そのままにしておいても支障がないことは説明したが、「図書館の本と同じように、借りたものはきれいにして返す意識や感謝の気持ちを育てたい、と先生に言われました」と振り返る。

オクリンク使用例画像
ベネッセの授業支援アプリ「オクリンク」の使用例

学校について感じるのは、やはり先生が忙しすぎることだ。

給食をいつ食べるのか、いつ帰宅できるのか、現場に入った支援員は皆驚く。吉本さんは「先生たちは働いているというより、子どもを育てている、子どもに奉仕している、という感覚なのではないでしょうか。仕事をしている感覚とは少し違うので、なかなか区切りを付けないのかなと思います」と指摘する。

休み時間も生徒指導があり、放課後も指導案を書いている。湯口さんは、そんな先生たちと打ち合わせの約束を取り付けるのがひと苦労だった。でも今は、1人1台端末で先生のほうから「きょう時間ある?」と聞いてもらえるようになったという。

ICTを使って取り組む内容は年を追って高度化してきた。ICT支援のサービスを始めて20年になる同社で、17年前から学校現場に出ている吉本さんは当時を「第1期」と呼ぶ。学校のICT環境といえば、パソコン室にデスクトップ型が40台あるだけという環境で、尻込みする先生にとにかく来て触ってもらうようお願いした。キーボードでローマ字入力ができる、マウスが使える、インターネットで検索して必要な情報を収集できるという段階で終わっていた。

「関わることで先生が笑顔に」

パソコンが学習に使われだした十数年前が第2期にあたる。その頃に入社した湯口さんには、忘れられない思い出がある。ある小学校のクラスに、外国にルーツを持ち、日本語が十分理解できない子がいた。算数の線対称や点対称という意味は、言葉で説明しても要領を得ない様子だ。そこで湯口さんが示したのは、三角形などの図形が軸線を中心に開閉したり、ある点を中心に回転したりするデジタルコンテンツだった。

対称を理解するデジタルコンテンツ
ベネッセのデジタルコンテンツのひとつ。「線対称」の意味が理解しやすいよう、さまざまな図形が軸線を中心に開閉する

早速、授業で使ってみた先生は「その子が『ああ、こういうことだったんだ』と対称の概念を理解できたんです」と報告してくれた。先生と子どもの2人から、「ありがとう」と言われた。

教育にICTが実装されだした「第3期」の今、「こんな授業がしたい」という先生の要望を聞き、その実現に向けて活動する支援員の仕事を、湯口さんは「先生のICTの伴走者」と表現する。何かわからないことがあっても、先生どうしは互いの時間を奪うのを遠慮して声をかけづらい。一方で頼まれやすい先生は一生懸命手伝って自分の時間がなくなってしまう。学校のそんな様子を見てきた吉本さんは「支援員が関わることで先生が笑顔になる」とある教育委員会で言われた言葉をありがたく受け止めた。

気になるのは、1人1台端末の利用をめぐる学校のルールが過剰になり、子どもたちの活動が狭められがちなことだ。特にコミュニケーションツールのチャット機能などに関して、先生から「悪口を書かないよう使えなくしてほしい」といった要望を受けることが多いという。「傷つく子を出したくない気持ちは分かりますが、トラブルが起きたら指導のきっかけにしてほしい」。ICT活用先進地の学校も、トラブルの期間を経て初めて次のステップに進んだという。「情報発信の仕方を正しく判断できる力をつけてあげないと、最後に不利益を受けるのは子どもたち自身です。正しい選択ができる子を育成するための支援をしたいと思っています」。吉本さんはそう話す。