――GIGAスクール構想ができた背景を教えてください。
GIGAスクール構想が始まる前、日本の学校の授業でデジタル機器を利用した時間は、国際調査「PISA2018」の結果、OECD(経済協力開発機構)加盟37カ国の中で最下位でした。一方、学校外での利用について、子どもたちが「ネット上でチャットする」「1人用ゲームで遊ぶ」頻度は1位でした。
つまり、子どもたちはデジタル機器を使ってはいるけれど、エンターテインメントに偏っていた。逆に言うと、相当程度使っているので、ポテンシャルがあるとも言えます。
――世の中では既に多くのものがデジタル化される中で、なぜ学校のICT化は立ち遅れたのでしょうか。
これまで日本の教育がICTを使わなくてもうまくいっていたから、変える必然性がなかったのだと思います。紙や黒板を使いこなすほど、別のものに切り替えるのは難しい。成功していたからこそ変革できなかったということです。
GIGAスクール構想が始まる前の2018年度に先行して子ども3人に端末1台を整備する計画がスタートすると、もともと教育のICT化に取り組んできた自治体とそうでない自治体の差も表れてきました。「紙でいいのでは」という声や教育効果への疑問もまだあったように思います。
それでも、3人に1台をシェアするのではなく、ノートと同じように使える環境にしなければと、「1人1台」を4年余りかけて整備することになりました。そこにコロナ禍が起き、臨時休校の中で学びをどう保障するかが問われ、1年余りで環境が整ったのです。
――現場が必要性を感じていなくても変えるべきだと考えた理由とは。
情報活用能力は、今回の学習指導要領の中で、言語能力、問題発見解決能力とともに学習の基盤となる資質能力と位置づけられました。コンピューターがないと育むのが難しい面がある情報活用能力が、これからの時代に重要だということが形になったのがGIGAスクール構想だと言えるでしょう。
技術の進展も構想を後押し
パソコンのあり方も変わりました。ちょっと前まで、ハードディスクを大きくして、アプリケーションソフトをどんどんインストールして、動画でも何でも個々の端末に取り込んでいましたが、高速ネットワークの普及に伴って、19年ごろになるとファイルはクラウド上に置いてみんなで共有して確認したり、共同編集したりすることが一般的になってきました。一方で端末の価格は相当下がりました。
PISAの結果などを踏まえ、このままではよくないという機運があったことに、技術の進展や端末の価格の変化などいろいろな要素が組み合わさり、この構想が前に進んだのだと思います。
平成29・30・31年改訂学習指導要領の趣旨・内容を分かりやすく紹介(文部科学省ホームページ)
――これからの教育にはICT活用が不可欠だと文部科学相の諮問機関、中央教育審議会の昨年の答申にうたわれました。ICT活用には多くの効果が見込めますが、特にどんな点が大事ですか。
学習指導要領は、実施から10年後の世界を見据えて作っています。2030年は社会の変化が加速度を増し、複雑で予測困難になると見込んでいたのが、コロナ禍で一気に現実になりました。そんな中で、子どもたち一人ひとりが自分の良さや可能性を認識し、他者を価値ある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら変化を乗り越え、持続可能な社会の創(つく)り手となる。これが学校教育における目標として学習指導要領に掲げられました。
そのためには授業を改善して資質・能力を育成する必要があります。一つのアプローチは主体的・対話的で深い学びの観点での授業改善、いわゆるアクティブラーニングです。もう一つが個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実です。個別最適な学びとは、先生の視点で言えば一人ひとりの違いを見ながら対応する「個に応じた指導」であり、協働的な学びは他の子たちとの学び合い、教え合いを促したり、地域の方々をはじめ多様な関係者とのつながりを生かした学びの場を作ったりしていくこと。ICTは、これらを現実のものとしていくツールなのです。
つまりGIGAスクール構想は、学習指導要領の趣旨の実現を下支えするもの、という点が中核だと思います。
大事なのは教育の知見・経験
――学校でICT活用を進めるには、教員自身もその力をつけなければなりません。ベテランを中心にデジタル技術に疎い先生にはハードルが高いのではないでしょうか。
私の理解は少し違います。