「情報×公民」「数学×音楽」「英語×理科」……東京都世田谷区にある私立田園調布学園中等部・高等部では、複数の教科の先生による「教科横断型授業」が積極的に行われています。あるテーマについて複数の教科の先生が共同で授業を行い、読み解いていきます。どんな狙いで、どんな授業が行われているのでしょうか。取材しました。

「情報×公民(倫理)」 人間とAIの共生を議論

「日常生活で『人間がしておきたいこと』と『AI(人工知能)に任せてもいいことを』を班ごとに考えてみよう」。情報科の村山達哉先生が呼びかけると、生徒たちはクロームブックなどそれぞれの端末を開いて意見を出し合った。

人間とAIをテーマにした、情報×公民(倫理)による高等部2年の授業の一コマだ。教壇に立つのは村山先生と公民科の坂本登先生。AIの社会での活用を学びつつ、AIがどのような仕組みで動くのかを理解し、人間とどう関わっていけばいいのかを考えることを狙いとした授業だ。

「ウェディングプランナーは人間に任せたい、レジ打ちはAIでいいかも」「カロリー計算とか掃除はAI」と生徒たちから意見が出る。「手術」と「運転」を「人間」と「AI」の真ん中に置いた班に坂本先生が「なぜ真ん中の位置に置いたの?」と問いかけると、「機械にすべて任せるのは不安がある」「必ずしも正常に動くとは限らない」と生徒が答える。村山先生が、大手企業の採用でAIが利用されている例を紹介し、「もし大学の推薦入試にAIが利用されたら、賛成か反対かどちらでもないか、その理由は……」と議論が続く。AIに任せるのか、人間が判断するのか。その基準などを考えるための問いだ。

オンラインのホワイトボード「Google Jamboard」を使って生徒たちが議論した
オンラインのホワイトボード「Google Jamboard」を使って生徒たちが議論した

AIの「機械学習」機能の説明に重ねて、AIが引き起こす社会課題や、人間が無意識に持つ偏見(バイアス)についても考えさせる。AIに赤いリンゴの画像ばかり読み込ませると、青リンゴを見せても「リンゴ」と判定できない。偏ったデータで学習させると誤判定してしまうこと、データを読み込ませる人間にも「消防士=男性」「モデル=若い男女」など無意識のバイアスがあり、AIのデータや設計者、社会の偏りによって、偏った主張やデータを選んでしまう可能性があることを説明する。実際、海外で人材採用にAIを利用していた企業がその運用を取りやめた例も取り上げた。技術者のほとんどが男性からの応募だった結果、AIは「採用は男性がいい」と学習し、「女子大」「女性」などの要素があると評価を下げる仕組みになってしまったからだ。授業はAIの飛躍的進歩や社会での活用に触れつつ、悪用や誤情報、人間の尊厳の問題やプライバシーなどについても触れ、終わった。

「苦手な数学、わかった!」思わぬ効果も

田園調布学園が教科横断型授業に本格的に取り組み始めたのは、2016年。現在は中高6学年で約30種の授業を展開する。その牽引役の1人である数学科の細野智之先生が教科横断型授業に取り組むようになったきっかけは、小論文の指導だった。