中等教育学校では、中学校にあたる前期課程が1~3年生、高校生にあたる後期課程が4~6年生。9月上旬、2年生の「総合的な学習の時間」では、都内や近郊で作られる「モノ」をいろんな視点から班ごとに調べる活動の中間報告があった。伝統工芸品から身近な道具、先端技術を使った製品まで、わからないことはメーカーに出向いたりファクスをやりとりしたりして1年がかりで解き明かす。「モノ語り」と呼ぶ活動だ。
箱根・小田原地方のからくり箱と寄せ木細工を調べた班の佐々木丞(たすく)さん(14)は「よく見るからくり箱は直方体だけど、動物をかたどったものなど多様な形に進化を遂げていました。購入するのは外国人が多く、安全で優しいデザインを心がけているそうです」と報告した。作りやすい木材の条件や職人の人数、木材の集め方などネットでわからなかったことは、事前に神奈川県工芸技術所にオンラインで尋ねていた。今後は、からくり箱の歴史に迫りたいという。
由来や機能調べ「モノ語り」に
ランドセルについて調べた班では、その生い立ちや色のバリエーションの変化、海外のかばんとの違い、ランドセルが関わる事故など、メンバーの問題意識に応じて幅広い調査となった。使い終わったランドセルを海外に寄付する活動に触発された1人は、使い終わったランドセルをどうしたか学年全員に端末の通信機能を使ってアンケートし、そのまま家に保管している人が7割以上いたほか、お下がりに回したり、ストラップなどにリメイクしてもらったりした人もいたことを突き止めた。「ランドセルにさまざまな第2の人生があるとわかりました」
スーパーコンピューターを選んだ班は、その起源や移り変わり、使い方などの視点から質問を考えていたら、100個近くになった。新型コロナウイルスの感染防止対策として、飛沫が広がる様子をシミュレーションしたスーパーコンピューター、富岳(ふがく)の成果をテレビで見て関心を持ったという。報告を聞いた先生は「問いを100個作るのはすごいこと」と評価した。
南多摩中等教育学校は2010年度の開校以来、探究学習を柱にしてきた。前期はグループで活動し、このうち2年生の「モノ語り」は、由来や機能、作り手の思いなども探ってストーリーを組み立て、3学期には文書にまとめて学年全体で1冊の冊子に仕上げる。昨年度の冊子を開くと、水筒、コンタクトレンズ、絵の具といった身近な道具のほか、地元に販売店が多い着物やプロジェクター、ICカードなど多種多様なモノがテーマになっている。
中1生自ら電話でアポ取り
初めて探究学習を経験する1年生は、多摩地区の文化や自然、産業の中から興味のあるものを見つけて現地を訪れる「地域調査」に取り組む。地域の人と交流しながら理解を深め、フィールドワークの基礎を身につけるのが目的だ。訪問先に電話してアポイントメントを取る交渉も生徒自ら行い、当日も教員は引率しない。過去には道を間違えてたどり着けなかったこともある。「失敗も含めて学びだと思います」と永森比人美校長は言う。
1年生の熊谷心春(こはる)さん(13)の班は、八王子市内にある都立小宮公園を選んだ。班のテーマは「なぜ小宮公園にはサンコウチョウなどの珍しい鳥がいるのか」。園内に「さんこうちょうの小道」など鳥の名前を付けた道が多いことに注目して決めたのだが、夏休み中に行ってみたところ、サンコウチョウは見つけられなかった。「もしかしたら問いを変えないといけないかもしれません」と熊谷さん。
3年生では、当たり前と受け止められていることに目を向け、実験などさまざまな方法で確かめる「科学的検証活動」をする。懐疑的な視点や、論証を通じて自分の見解を持つ力を育てるねらいがある。発表形式は、1年生がポスター、2年生は冊子とポスターなのに対し、3年生はパソコンのパワーポイントによるプレゼンテーションへと歩を進める。毎年秋、全員が都立大に出向いてプレゼンして大学教員や大学院生に助言を受け、3月の成果発表会に向けて磨きをかける。
「3秒ルール」は正しい?科学的に検証
そのテーマは、中学生の生活実感が表れたユニークなものが多い。「替え歌は暗記しやすいのか」「体力テストの裏技大検証」「噓(うそ)つきの特徴」「ステレオタイプについて」……。昨年度の発表資料にはそんなタイトルが並ぶ。授業中、寝ていても先生に気づかれにくいのは教室のどこかを検証した事例もかつてあったという。「身近な疑問を自分たちで解明していくというところを大事にしています」。永森校長と徳武英人主幹教諭は口をそろえる。
取材に訪れた日、実験に使ったシャーレを囲んで話し合う5人ほどのグループがあった。テーマは「3秒ルールは正しいのか」。食べ物を床に落としても3秒以内に拾えば食べられる、という言い伝えの真偽を検証するため、ニンジンをカビに付ける時間を「一瞬」から「60秒」まで6段階に分け、付着部分の変化を比べていた。「今のところどれも同じようにカビが増えているので、1度落としたら食べるのはやめた方が良さそうです」。生徒の1人がそう説明してくれた。
組織的に探究学習を展開できるのには、同校ならではの校内態勢が関わる。中学や高校には珍しい「フィールドワーク推進室」という校務分掌組織を置いているのだ。司書を含む教職員8人からなり、1年間を見通して学年ごとに目標を達成できるよう、担任らと調整しながら学習をリードする。そのメンバーが昨年度まで2年がかりで作り上げたのが、探究学習の独自テキストだった。