GIGAスクール構想で配備された「1人1台」端末の年度更新をめぐり、一考を要するのが、さまざまな学習を通して作った学習成果物の取り扱いです。学校や教育委員会としてどう扱うべきかというルールは、少なくても国レベルでは決まっていません。しかし一人ひとりの成長の記録として、節目の振り返り学習に活用できるものもありそうです。端末活用の実践事例とともに、継続的に活用すべきデータの引き継ぎについて議論が広がる可能性があります。

東京都台東区の区立金曽木小学校の子どもたちに「1人1台」のタブレット端末が配備されたのは、もう1年以上前、2021年の1月だった。今の6年生たちは、短い期間ながら端末をフルに活用してきた。

「学習データ、財産になる」

キーボードの打ち方を練習することから始め、国語の授業では、プレゼンテーションの資料を作って発表した。体育では、跳び箱での姿勢など気づきにくい自分の動きを友だち同士で動画に撮影し、改善に生かした。児童総会は体育館に集まらなくても、教室から端末を通じて参加できるようになった。先生との間でメッセージをやりとりする際、人が嫌がる言葉を送信してしまい、身をもって情報モラルを学んだ子もいた。

20年11月には、「世界ともだちプロジェクト」と銘打った東京五輪・パラリンピックについての学習を体験した。中国やエチオピアなど5カ国についてチームに分かれて調べ、エチオピア大使館からは職員が来校して発表スライドを見てくれた。その地では、水くみの仕事のために勉強する時間を奪われる子どもがいることも映像で知った。残念ながら端末が配られる前だったが、「端末に記録が残っていたら、あの時何を思ったか振り返るきっかけになったでしょう」。同小主幹教諭の簑輪幸一先生(48)は言う。

台東区立金曽木小
台東区立金曽木小学校

台東区では、小学校で使ったアカウントはいったん終わりになり、中学に進むと新たなアカウントに切り替わる。さまざまな学習のデータも全部そこで消える。「リセットして忘れられることには良い面もある。でも調べ学習などで学んだことを個人のアカウントに保存された状態で持ち上がっていけば、自分の財産になります」。簑輪先生はデジタルの学習記録を一部でも残すメリットをそう語る。

GIGAスクール構想のスタートから1年を迎えるのを前に、文部科学省は昨年12月、「年度更新タスクリスト」を教育委員会や学校に示した。年度替わりに必要となる端末の初期化やアカウントの更新などの作業をリストアップし、スムーズに実施できるよう準備を促すものだ。このうち学習成果物などのデータの扱いについては「進級、転出入、進学、卒業時等において、どのように扱うか方針を整理しておくことが重要」として、教育委員会にデータ取り扱いに関するマニュアル作成と学校への周知を求めている。

地域で異なるソフト、互換性カギ

台東区はまだこのマニュアルを作成しておらず、データをどのように扱うかは学校に任せているという。

簑輪先生は、データを残すにしても課題があると感じている。同校で使う授業支援ソフトで作ったプレゼン用の資料は、マイクロソフトの「パワーポイント」では開けない。卒業して同じソフトを使わなくなったり、転居先の学校が別のソフトを使っていたりしたら、互換性がないデータでは使いものにならない。「各自治体が同じソフトを入れてくれたら、教職員が異動時にも助かるのですが」。実際にこれまで、区外に転出する子のデータを転出先の学校に引き継ぐことも、転入生の以前のデータを活用したこともまだないという。

簑輪幸一先生
金曽木小学校の簑輪幸一先生=東京都台東区

学習データの保存は、あくまでも個人利用に限れば前例がある。東京都港区は、全国に先駆けて2020年10月に区立小中学校全校に1人1台端末を配備した。年度更新の作業は今回が2回目となる。昨年度、卒業時に写真などのデータを残しておきたいという声を受け、希望者は端末のデータをクラウド上のストレージ(保管庫)にアップし、家庭のパソコンなどでダウンロードしてもらった。誤って家庭のパソコンのデータをアップしてしまう事例もあったが、混乱には至らなかったという。

小中学校とも、卒業生の端末は新入生に引き継ぐために初期化するが、「一番のリスクは卒業生のデータが残ったまま新1年生に渡ってしまうこと。写真やミニテストの結果など個人情報が残っているので、ミスが起きないよう徹底して確認する必要がある」と区教委の下橋良平指導主事は話す。

横浜市でも、小学校で使うアカウントは中学校に引き継がれず、学習成果物を小学校から中学校へ引き継ぐ計画も今のところない。

「大事なデータ」考えさせては

同市立仏向(ぶっこう)小学校(保土ケ谷区)主幹教諭の東森清仁先生(46)は「ICTを活用する本来的な意味合いを考えれば学びの蓄積ができるといいけれど、そこまでは至っていない」と話す。どのようなデータなら、保管し活用する意義があるか。「それを言えるだけの蓄積はまだありません。いろいろやってみて、どれがいいか考える。今はまだその段階ではないでしょうか」。

東森先生と小山先生
横浜市立仏向小学校の小山晃之介先生(左)と東森清仁先生

東森先生が役員を務め、同市立小の教員らでつくる「市小学校情報教育研究会」ではこの年度末、情報交換に使っているウェブサービス「クラスルーム」に「『GIGA納め』はしますか」といった問い合わせが寄せられているという。スタートの際に「GIGA開き」をしたためだ。東森先生は「毎年開いて毎年納める類いのものではないけれど、6年生は端末を返すので区切りではある。その時、自分にとって大事だから持っていきたいデータは何か、子どもたちに考えさせる機会があってもいい」と話す。

1人1台端末を使って取り組んできた教職員の実践については引き継ぎが進む。東森先生とともに情報を担当する同校教諭の小山晃之介先生(35)は、どの教科で端末を使ったどんな取り組みをしたのか、グーグルフォームでアンケートを作り、全校の先生たちに回答してもらっている。できるだけ簡単に答えられるよう、書くのは学年と教科・領域、単元名と、具体的にどんなことをしたか、に限った。

教職員アンケート
横浜市立仏向小学校が校内で取ったGIGA端末の実践についてのアンケート=小山晃之介さん提供

新年度に担任などの態勢が替わるのに備えて学校として蓄積し、新年度以降に生かしたい考えだという。