人には色々な顔がある。自宅での顔、学校での顔、友人と過ごす時の顔……。

「全部が違って当たり前。その顔も成長とともに変わっていく。一人ひとりの表情を見つめ、その内側にある背景を知ろうとすることに、この仕事の面白さがあると思います」

そう話す久保田さんにも、忘れられない顔がある。

午後6時ごろ 職員室に届いた電話

二十数年前の夏休みのことだった。午後6時ごろに職員室の電話が鳴った。

「息子が、まだ帰ってきていないんです」。男子生徒の母親からだった。

受験を控えた高校3年生で、その日の昼に補習授業をした生徒の一人だった。

急いで職員室を飛び出し、教室に残って自習をしていた生徒に聞いてみると、午後3時には学校を出たという。

「家出だ……」。そう、直感した。

久保田圭二(くぼた・けいじ)
1963年生まれ。大分県立学校長協会会長。87年に数学科教員として県立高校に着任。2006年に県教育庁高校教育課へ異動。13年に大分舞鶴高校教頭に就任。県教育庁教育次長を経て、22年春から大分舞鶴高校長。授業参観の前日深夜まで準備に力を入れたが当日に寝坊し、本番は副担任に代わってもらったことがある。若手時代に一番力を入れたのは家庭訪問。