ふとした瞬間に、思い返すミスがある。

教員5年目、高校2年生の担任を務めていた1990年代前半のことだ。

修学旅行の準備を任されていた。映画「私をスキーに連れてって」の人気で火がついたスキーブームが続いていた。スキーをメインイベントとして、行き先は宮城県に決まった。

ただ一つ、気がかりがあった。クラスの男子生徒の中に、足に不自由がある生徒がいたことだ。

「補助具を付けずに歩くことは出来たが、スキーではケガをしてしまうかも知れないと思った」と振り返る。

修学旅行先では、生徒たちのためにインストラクターも手配していたが、その男子生徒には少しハードルが高すぎると感じていた。

スキーを履いて困っている姿を他の同級生に笑われるのではないか、男子生徒に恥ずかしい思いをさせるのではないか、そんな不安を抱いたという。

そしてある日、学校で男子生徒にそっと声をかけた。

「修学旅行のスキーは君には無理だと思う。だから別のプログラムを用意しようと思っている。ソリでも良いし、別の場所で散策をしても良い。どうかな?」

どんな表情で男子生徒が返答したのかも覚えていない。ただ、納得したような返事だったように思う。

篠木賢正(しのき・けんしょう)
1962年生まれ。千葉県高等学校長協会会長。88年に社会科教員(地理)として県立高校に着任。2005年に県教育庁教職員課管理主事。11年に印西市立小林中学校教頭、13年から教育庁教職員課主席管理主事などを経て、18年に佐倉南高校長。20年に教育庁企画管理部副参事、21年から東葛飾高校長。大学卒業後は教員採用試験に2回落ち、講師として経験を重ねた。鉄道好き。

#校長ここだけの話は、全国の都道府県高等学校長会を訪ね、各地の校長先生の「横顔」を取材する連載企画です。原則毎月、記事を配信します。記事に登場する自治体の順番は、編集部内の抽選で決めています。