教員養成フラッグシップ大学構想とは
「教員養成フラッグシップ大学構想」とは、
「変化が激しく予測困難な時代に対応するための学習観・授業観の転換を担う教師」文部科学省「教員養成フラッグシップ大学構想について」
の育成を掲げたものです。
現代社会において、人工知能(AI)やIoT※注1といった新しい科学技術が次々と生み出されるなか、人材育成を担う教師にも、これまでとは異なる知識や指導が求められています。今回のフラッグシップ構想で指定を受けた4大学は、教員を志す学生たちに政府が掲げる未来社会「Society5.0※注2」に対応した指導力を身に付けさせるため、独自のカリキュラムを検討し、実施することが求められています。
この取り組みを通じて得た4大学の知見は今後、他大学にも共有され、教員養成カリキュラムや教員免許の制度見直しにも活用される見通しです。
※注1 IoT=「Internet of Things(モノのインターネット)」の略称。自動車や家電など、様々な物がインターネットにつながり、自動運転などが可能になる。
※注2 Society 5.0=サイバー空間と現実社会が高度に融合した「超スマート社会」を指す。経済発展と社会課題の解決を両立させる人間中心の社会として、内閣府が第5期科学技術基本計画で打ち出したもので、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、⼯業社会(Society 3.0)、現代の情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を意味する。
公募には15大学から計14件の申請
今回の公募には15大学から計14件(2大学の連名が1件)の申請があり、文部科学省の中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会の「教員養成フラッグシップ大学推進委員会」が審査をしました。申請した大学の一覧は下記の通りです。
【申請大学一覧 ※印が指定大学】
- 北海道教育大学
- ※東京学芸大学
- 上越教育大学
- 金沢大学・富山大学
- ※福井大学
- 信州大学
- 静岡大学
- 愛知教育大学
- ※大阪教育大学
- ※兵庫教育大学
- 愛媛大学
- 熊本大学
- 玉川大学
- 常葉大学
フラッグシップ大学に求められる役割
教員養成の在り方自体の変革を牽引すること
この構想を主導する文部科学省は、「『令和の日本型学校教育』を担う教師の育成を先導し、教員養成の在り方自体の変革を牽引すること」をフラッグシップ大学に求めています。なかでも重視しているのは、先導的・革新的な教員養成プログラムの開発すること、取り組みの内容や成果を他大学に広めていくネットワークを構築すること、そして教職過程に関する制度の改善へ貢献すること、の3点です。
【フラッグシップ大学の役割】
- 先導的・革新的な教員養成プログラム・教職課目の研究・開発(「STEAM教育」など、既存のカリキュラムとは異なる大学独自の教員養成プログラムを実施すること)
- 全国的な教員養成ネットワークの構築と成果の展開(取り組みの内容や成果を他大学に広げていくための中核的な役割を担うこと。他大学や教育委員会、民間企業など、ネットワークを構築して採択された4大学とも連携すること)
- 取組の検証を踏まえた教職過程に関する制度の改善への貢献(培ったノウハウや成果に基づいて政策提言を行うこと)
学習観・授業観の転換を担う教師の育成のためのプログラム開発
教員養成フラッグシップ大学構想では「変化が激しく予測困難な時代に対応するための学習観・授業観の転換を担う教師の育成」が重要なポイントとなります。指定大学には、従来のカリキュラムとは異なる指定大学独自の教員育成プログラムを開発し、時代に適応した指導力を持った教員を育てることが求められています。
そうしたプログラムの具体的な検討と実施は2022年4月から本格的に始まりますが、現時点で文部科学省は「STEAM教育を先導する人材の育成」など、七つの項目を例示しています。
【指定大学に求められるプログラム開発】
- 学習者(子ども)中心の授業デザイン・学習活動デザインについての理解増進、ファシリテーターとしての教師の役割についての意識向上
- 学習科学に基づく省察的実践(仮説設定、教育実践、省察)を通じて学び続ける教師としての意識・態度の育成
- 学習者(子ども)中心の視点に立った教職科目体系の見直し(教科専門を含む)
- 教師・保護者・地域・専門家等と協働する態度や、協働できる環境を整える組織マネジメントの資質・能力の育成
- 学校現場における教育データサイエンスの活用やSTEAM教育を先導する人材の育成
- 障害のある児童生徒(ギフテッドを含む)、外国人児童生徒、不登校、経済的に困難な家庭の児童生徒等、多様な子供への理解・対応力
- 学部と教職大学院の一体的な教員養成カリキュラムの検討、現職教員研修(教員育成指標)との連携の在り方の検討
教員養成カリキュラムが抱える課題
上記のプログラム開発の例を見ると「子ども中心の授業デザイン」や「データサイエンスの活用」「STEAM教育」など、新しい学習指導要領などで重視されている項目が挙げられていることがわかります。
これまでも教員養成カリキュラムの見直しは随時行われてきましたが、今回のフラッグシップ大学構想の検討にあたった有識者のワーキンググループは報告書の中で、教師の養成・研修を担う教員養成大学・学部の現状について、
「教育現場が期待する新たな教育課題やニーズに適時・的確に対応し得る機動的な教員養成・研修の深化、またそれを超えた先導的な試行等を十分に行えるだけの体制・状況とはなっていない」Society5.0時代に対応した教員養成を先導する教員養成フラッグシップ大学の在り方について(最終報告)
と指摘しています。つまり、急速に変化する教育現場のニーズに対して、指導する教師を育てる仕組みが追いついていないことが現状の教員養成カリキュラムが抱える課題だと言えます。
教員免許制度に特例を新設
今回の構想では、「指定大学の独自カリキュラム」が重要な要素になります。しかし、既存の教員養成カリキュラムを受講した上で、独自のカリキュラムを実施することになると、学生側の負担は大きく増すこととなってしまいます。そのため今回の構想では、教員免許制度に特例を新設することで、学生側の負担軽減が図られることになりました。
文部科学省は2021年8月に教育職員免許法の施行規則を改正し、※注3指定大学が加える科目を教員免許取得に必要な単位と認めることとしました。例えば学生が小学校の一種免許状(大学卒業相当)を取得する場合、従来ならば59単位の定められた項目を受講する必要がありましたが、今回の特例では二種免許状(短期大学卒業相当)と同様に37単位を取得した上で、一種と二種の差にあたる22単位分は、指定大学が新たに実施する独自科目を受講することを認めています。文部科学省の担当者によると、こうした特例の新設は極めて異例な事だといいます。
※注3 教育職員免許法施行規則等の一部を改正する省令の施行等について(通知)
【特例で認める単位取得の例】
小学校の一種免許状(大学卒業相当)の場合
- 通常 定められた59単位
- 指定校 定められた37単位+指定大学独自のカリキュラム22単位=59単位
中学校の一種免許状の場合
- 通常 定められた59単位
- 指定校 定められた35単位+指定大学独自のカリキュラム24単位=59単位
教職大学員の必修単位数の弾力化
- 通常 定められた5領域でおおよそ20単位+学校における実習10単位+選択科目=45単位以上
- 指定校 定められた5領域で10単位以上+新設科目10単位以下+実習10単位+選択科目=45単位以上