■特集:大学の人気ゼミ・研究室 

【朝日新聞Thinkキャンパス】超円安の現在、為替相場を理解することは、先行き不透明な世界情勢を知るための重要な知識といえるでしょう。学習院大学経済学部の清水順子教授のゼミでは、フィールドワークやグループ学習を通じて、金融と経済の基礎知識を身につけていきます。同ゼミに所属する4年生の藤田輝(ひかる)さんにゼミの様子を聞きました。(写真=ゼミで為替の動きについて話し合う学生たち、学習院大学提供)

■研究室データ■
学習院大学経済学部経済学科
清水順子ゼミ
研究分野:国際金融論
(国際通貨政策、通貨バスケット、国際資本フロー、貿易建値通貨等に関わる実証分析と政策提言、アジアにおける金融セーフティネット現地通貨利用の促進)
ゼミ生: 13人(男6人:女7人)  (2024年4月時点)

外部コンテストに積極参加

「とにかくガチ(本気)なゼミです」と清水ゼミの藤田さんは言います。2年の後期に外国為替に関する本を輪読し、3年になると日本経済新聞社主催の「全国学生対抗円ダービー」(2023年で終了)に参加。夏休みにかけては大学生を対象に日本銀行が開催する「日銀グランプリ」の論文投稿の準備を始めます。その活動のほとんどが2~3人という少人数でのグループ学習で、本を読んで発表するだけでなく、目標に向かって一人ひとりが力を出さなければ成り立たない演習の連続です。

藤田さんは、次のように話します。
「為替相場を予想するには、さまざまな国の経済・政治のニュースに触れる必要があります。23年の円ダービーに参加したときは、数カ月にわたって円ドルの動きを見ていました。アメリカの金利が大きく上昇して150円を超える円安となったとき、著名な学者が毎日のように経済問題や為替について後付けの理由を解説し、今後の動きを予想していましたが、実際にはその予想とは正反対に動くこともたくさんありました。自分たちでデータや情報を集めて為替相場を予想することで、報道をうのみにせず、インターネット上にあふれる情報を見分ける目を養い、金融リテラシーを身につけられたと感じています」

清水ゼミのグループが「日銀グランプリ」のために制作した資料の一部。子どもの貧困問題解決のための支援制度を提案した(資料=学習院大学提供)

ゼミ活動が一番の「ガクチカ」

就職活動で求められる「学生時代に力を入れたこと(通称、ガクチカ)」では、ゼミで取り組んだことをアピールポイントにすることができます。苦労の多いゼミだからこそ、清水ゼミ生は緊張した面接の場面でも「ゼミ仲間と意見が衝突したときにどのように自分の意見を伝え、相手の言い分に耳を傾け解決したか」「友人、先輩、親などに協力してもらいながら、どのようにアンケートやインタビューを実施したか」を話すことができます。

「清水教授は『大事なのは為替相場予想を当てることではなく、どういった手法で予想したか、どのように問題を解決したかというアイデア』と言います。成果をまとめて発表する際も、ロジックが成り立っていないとすぐに清水教授から指摘されます。どうやったら聞き手が納得する話し方ができるのか、的確なアドバイスをもらえたことで、プレゼンテーション能力を磨くことができました。学生生活を通して全力でゼミをやった、と胸を張って言えます」(藤田さん)

ゼミでのプレゼンテーション風景

為替相場の分析から得た、論理的思考

藤田さんは高校3年の夏、志望校として学習院大学を調べているときに「円・ドル(為替)予想をする」というゼミの紹介文が目にとまり、清水ゼミに入りたくて経済学部への進学を決めました。清水ゼミに惹かれた理由は「実用的で役立ちそうだったから」です。

実際、為替相場は個人の生活では資産運用に関わってきますし、企業では貿易や海外生産ネットワークなどあらゆる経済活動に関わってきます。為替相場が動くとどうなるか、論理的に考えられるスキルはどのような職業でも必要不可欠な能力です。そのスキルを持った清水ゼミOB・OGの就職先は、金融庁や特許庁などの公務員、IT やコンサルティング企業、サービス業など多岐にわたります。

藤田さんが希望する就職先は、情報システムの構築や運用などを一括して請け負うシステムインテグレーターの業界。ゼミで国際金融の基礎的なことを学び、為替相場を通して世界各国の経済情報に触れ、経済問題について考えるうちに、自然と進みたい道が見えてきたそうです。

「ひとつの作業に多くの時間を要したり、人員配置が適切ではなく属人化や作業量の偏りがあったりする、非効率な業務を効率化することが、いま、多くの日本企業が抱える課題解決につながると考えています。非効率をなくすことによって、社会の一員としての価値を提供していきたいです」(藤田さん)

清水順子教授からのメッセージ

国際金融学を実務に生かせる学問に

私は国内外の金融機関に勤務した後に大学院に進み、アカデミックな研究を続けています。自身の体験から、理論だけでなく実務の世界でも生かせる学問として、国際金融を学んでほしいと考えています。だからこそ、本を読んでまとめて終わりではなく、アンケートやインタビューで現場の声を集めるフィールドワークを重視しています。私自身の研究を進めるうえでも、企業へのインタビューを欠かしませんが、ゼミでも学内の専門の先生や区役所の担当部門の職員など、テーマに合わせた人々へのインタビューを勧めています。

ゼミ生が参加してきた為替相場の予想を競う大会「全国学生対抗円ダービー」では、為替予想を当てることより、どのように為替相場を分析して予想につなげたか、その視点や手法の目新しさや独自性を競う「ユニーク賞」を狙ってきました。というのも、たまたま予想を当てられたとしても、学ぶことの楽しさや、知識を役立てる喜びを感じられませんよね。身につけてほしいのは、相手を納得させるロジックの組み立て方です。その学びの成果は、「全国学生対抗円ダービー」での過去5回の受賞のほか、大学生対象のビジネスコンテスト「日銀グランプリ」でも敢闘賞、優秀賞など過去3回受賞していることから見て取れると思います。

清水順子(しみず・じゅんこ)教授/一橋大学経済学部卒業後、チェース・マンハッタン銀行(現JPモルガン・チェース)、日本興業銀行、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレー銀行などに勤務。2004年に一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。博士(商学)。一橋大学大学院商学研究科助手、明海大学経済学部准教授、専修大学商学部准教授を経て、12年から現職。専門は国際金融論。

(文=中原美絵子、写真=学習院大学提供)