小学校における教科担任制が、2022年度より本格的に始まりました。文部科学省は、小学校高学年の教科担任制の導入に向けて、教員の加配に対する予算措置を行っています。どのような可能性を秘めた制度改革なのでしょうか? 教育制度を専門とする教育学研究者が、先進事例を紹介しながら、わかりやすく解説します。

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1.教科担任制とは

教科担任制とは、教員が特定の教科を担当し、教科の専門性を生かした授業を行う指導形態のことです。学級担任制のように、ひとりの教員がひとつのクラスを相手に全教科を教えるのではなく、ひとりの教員が教科を限定して(例えば算数なら算数を主に)受け持ち、複数のクラスにまたがって指導する方法を指します。

学級担任制と教科担任制の違い・筆者作成
学級担任制と教科担任制の違い・筆者作成

教科担任制は、主に四つのタイプに分けられます。

  1. 中学校や高校のような完全教科担任制
  2. 専科教員の配置による特定教科における教科担任制
  3. 学級担任間で授業を交換する教科担任制
  4. 中学校の教員が小学校で授業を行う教科担任制

2022年度から小学校高学年で始まった教科担任制は、上記のタイプ2・3・4を組み合わせて実施しています。

まずは、小学校で教科担任制が導入される背景と、文部科学省が求めるあり方についてご説明します。

(1)小学校で教科担任制が導入される背景

2015年の学校教育法の改正により、小中一貫教育を行う義務教育学校が制度化されました。これまでの小学校6年、中学校3年という区切りではなく、義務教育の9年間を円滑に教育するために必要な指導形態として、小学校高学年から教科担任制を本格的に導入することが求められています。

これまでも小学校の一部の教科で、専科教員を配置する取り組みは行われてきましたが、2018年度時点において、小学校6年生で最も専科教員の配置が多い教科は音楽(55.6%)であり、2番目が理科(47.8%)、3番目が家庭科(35.7%)という状況でした(参照:平成 30 年度公立小・中学校等における教育課程の編成・実施状況調査 p.4丨文部科学省

ただ、小学校高学年は、抽象的な思考力が高まる時期であり、あわせて教科の学習内容も高度化する時期です。児童の得意分野を伸ばしたり、個性に応じた可能性を引き出したりできる環境を整えるためには、教科指導の専門性をより強化することが急務の課題となっています。

これに加え、今はグローバル化が進展し、STEAM教育(Science〈科学〉、Technology〈技術〉、Engineering〈工学〉、Arts〈芸術〉、Mathematics〈数学〉を横断的に学ぶことを目的とした教育)の充実など社会的要請も高まり、ますます専門性の高い教育が重要視されています。

こうした背景から、小学校高学年において、教科担任制のさらなる拡充が求められてきています。

(2)文部科学省が提言する教科担任制のあり方

中央教育審議会は、2022年度を目途に小学校高学年から教科担任制を本格的に導入する必要があることを示しました。これを受け、文部科学省では、優先すべき教科の選定や教職員定数(基礎定数および加配定数〈政策目的に応じて配置される数〉)の見直しなど具体的な検討を積み重ねています。

教科担任制を優先的に取り入れるべき教科は、小学校高学年の外国語、理科、算数、体育であると文部科学省は示しています。2017年に告示され2020年度から全面実施された小学校学習指導要領では、外国語(英語)が新たな教科として加わったことに伴い、小学校においても英語のコミュニケーション能力の基礎を養える専門性の高い教員が必要とされています。

また、政府が描く未来社会「Society5.0時代」に向けてSTEAM教育の充実・強化が社会的に求められているため、小学校の段階から科学的リテラシーの育成やプログラミング的思考力の向上を見据えた系統的な指導を行うことが必要とされています。

文部科学省は専科指導の専門性を担保する方策として、当該教科の中学校または高校の教員免許を保有していること、専門性向上のための免許法認定講習を受講・活用すること、教科研究会などの活動実績を積み重ねること、という三つの要件を組み合わせることを示しています。

2.教科担任制のメリット

文部科学省は、小学校で教科担任制を導入することによって、次の四つの効果を期待しています。