企業や学校に自分の端末を持ち込む「BYOD」と呼ばれる手法が普及しています。個人が所有している端末を利用すれば、導入のコストを抑えられる利点がある一方で、セキュリティや運用には課題も残されています。BYODの言葉の意味やメリットとデメリット、同じように使われている「CYOD」との違いなどを寺子屋朝日編集部が解説します。

企業・学校必見!BYODとは?

BYODとは

BYODは「ビーワイオーディー」と読みます。「Bring Your Own Device」の略称※注1で、直訳すると「自身で所有するパソコンやタブレット、スマートフォン(デバイス)を持ち込む」という意味です。つまりBYODは、企業の従業員や学校の生徒が日常的に使っているデバイスを、職場や校内に持ち込み、業務や勉強に活用することを指します。

※注1 総務省「テレワークセキュリティ ガイドライン 第5版」を参照

BYODの普及状況

日本と米国、英国、ドイツの企業それぞれ500社に、ICT※注の導入・利活用状況を聞いた総務省の「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(2018年)によると、ICTを導入している企業のうちBYODを許可している割合は、日本が最も低く10.5%。米国23.3%や英国27.8%、ドイツ27.9%と比べると10ポイント以上の差がありました。

※注2  ICT=「Information and Communication Technology」の略称で、情報通信技術を意味する。

CYOD、BYADとの違い

BYODと同じように、企業や学校に自身が所有する端末を持ち込む方法として、「CYOD(シーワイオーディー)」と、「BYAD(ビーワイエーディー)」(Bring Your Assigned Device)と呼ばれる手段もあります。いずれも個人でデバイスを購入するものですが、選び方に違いがあります。

CYODは「Choose Your Own Device」の略称で、「企業や学校が指定したデバイスの中から、個人が選ぶ」ということを意味しています。つまり、仕事や勉強で使うデバイスを購入するのは個人ですが、選択肢が限られています。企業や学校側にとっては、端末の種類や性能を指定することで、端末の違いによるシステムの不具合などを防ぐことができるというメリットがあります。

BYADは「Bring Your Assigned Device」の略称です。Assignedは、「割り当てる」という意味を持った英語で、「企業や学校が割り当てたデバイスを持ち込む」ということを意味します。こちらも購入する主体は、BYOD・CYODと同様に従業員や生徒になりますが、デバイスを選ぶことは出来ません。全員が同じデバイスを持っているため、CYOD よりもさらに端末の管理は容易になり、セキュリティ対策を含めてBYODよりも容易にできるという利点があります。

●BYOD(Bring Your Own Device)
デバイスは個人が選ぶので、価格や機能を自由に決められる。デバイスの機能や性能がバラバラになるため、管理・運用は複雑になる。
●CYOD(Choose Your Own Device)
デバイスは企業や学校側がいくつかのデバイスを指定し、その中から選ぶ。機能や性能は指定されたデバイスの中で比較検討ができる。指定されたデバイスに限られるので、BYODよりも管理・運用が容易。
●BYAD(Bring Your Assigned Device)
デバイスは企業や学校が指定したものを購入する仕組みで、利用者は選べません。全員が同じデバイスを使うため管理・運用が容易。

BYODのメリットは

BYODのメリットとして、以下のようなポイントが考えられます。

コストを下げる

デバイスの所有者は個人であるため、企業や学校側でデバイスを用意する必要がなくなります。パソコンやタブレット端末といった電子機器には寿命があり、さらに日進月歩で機能・性能も高まっています。そのため一定期間が経てば、新しいデバイスへと更新する必要があり、非常にコストがかかります。企業や学校側は、BYODを導入することで、そうしたデバイスにかかるコストを下げることができます。

シャドーITによるリスクを下げる

従業員が会社には内緒で個人用のデバイスを業務に使うことを「シャドーIT」と呼びます。セキュリティ対策が不完全なデバイスを使って、企業や学校のシステムを利用すると、コンピューターウイルスへの感染のリスクなどが生じます。あらかじめ従業員や生徒の個人用デバイスの使用を認め、セキュリティ対策を行うことで「シャドーIT」によるリスクを下げることができます。

多様な働き方を実現

職場のパソコン以外では業務を認めなかった場合、従業員は出社をしなければ仕事ができません。ですが、個人が所有するデバイスの使用を認めていれば、自宅でも作業が可能になり、従業員は多様な働き方を実現できます。

デバイスの複数台持ちが解消される

業務用のパソコンに加えて私物のタブレット端末、スマートフォンなどを持ち運んでいる人は、個人所有のデバイスに切り替えることで複数台を持ち歩く必要がなくなります。

業務効率が向上する

業務内容にあった画面の大きさや、デバイスの性能を選ぶことができるため、より効率的に仕事に集中することが可能になります。使い慣れたデバイスを使える点も作業効率を高める効果が期待できます。

BYODのメリット

  1. 企業視点では、デバイス導入のコスト削減
  2. シャドーITの抑制
  3. 多様な働き方の実現
  4. デバイスの複数台持ちを解消
  5. 業務効率の向上

BYODのデメリットは

BYODにも、情報漏洩のリスクなどデメリットがあります。以下のような点に注意してください。

労務管理が複雑化するかもしれない

従業員がプライベートでもデバイスを使うため、企業側は労務管理が複雑になります。従業員にとっても、休日に急な問い合わせが届くなど、プライベートの線引きが難しくなる可能性があります。

従業員や生徒がデバイス費を負担

デバイスは従業員や生徒が購入するため、生活状況が苦しい人にとっては大きな負担となる可能性があります。デバイスを自由に選べる点がメリットである一方、予算が限られている人は機能・性能に制限のある安価なデバイスを選ばざるを得ないことにもなりかねません。そうすると、効率化を図るはずが逆効果となってしまう可能性もあります。

管理が不十分だと情報漏洩の可能性も

デバイスの管理が不十分だと、不正プログラム・アプリを通じて、業務に関わるデータやID・パスワードなどの情報が流出する可能性があります。深刻な場合は、業務システムへの不正アクセスや、システム障害といった危険も想定されます。

プライバシーに関する問題が発生する

セキュリティ対策では不正プログラム・アプリを防ぐことが必要となりますが、一方で管理の仕方によってはデバイスに入っているアプリの内容や位置情報を企業や学校側が取得することになります。従業員や生徒のプライバシーを侵害しないための施策が必要となります。

運用ルールの徹底が必要

情報漏洩などのリスクを下げるため、従業員や生徒が運用ルールを徹底する必要があります。企業や学校側には、そうしたルールの作成や、守ってもらうための指導・教育という業務が発生します。

BYODのデメリット

  1. 労務管理が複雑化
  2. デバイスの費用を従業員・生徒が負担
  3. 管理が不十分だと情報漏洩の可能性
  4. プライバシーに関する問題
  5. 運用ルールの徹底

BYODとGIGAスクール

高校ではBYODの事例も

文部科学省は2019年度、子どもに1人1台のパソコンやタブレット端末を用意し、学校には高速大容量の通信ネットワークを整備する「GIGAスクール構想」を打ち出しました。学校のICT環境を整備することで、より学習の効果を高めようという狙いです。
この構想は21年度に本格的にスタートし、政府は「1人1台」を実現するため、義務教育段階の小・中学校や特別養護学校の小・中学部などについては、一律にデバイスを整備するための費用を支援しています。

GIGAスクール構想とは スタートから1年 現状と課題を徹底解説の記事はこちら

一方で高校については、低所得世帯の生徒が使うデバイスの購入費用の支援などにとどめています。そこで高校設置者である都道府県や政令指定都市は、自ら費用を負担したり、保護者に負担を求めたりして、生徒1人1台のデバイス整備を進めています。保護者に負担を求めることを決めた自治体では、生徒たちが使うデバイスを学校に持ち込む「BYOD」を始めた地域もあります。

高校の配備状況

文部科学省が22年2月4日に公表した「公立高校における端末の整備状況(見込み)」によると、47都道府県と市立学校がある18政令指定都市のうち29自治体は「設置者負担を原則」としており、残る36自治体は「保護者負担を原則」としています。生徒が所有するデバイスを活用する「BYOD」も、この保護者負担に分類されます。

文部科学省が公表した都道府県別の公立高校における端末の整備状況。グラフの緑色部分が「保護者負担で整備するBYOD端末」(2022年度見込み)
文部科学省が公表した政令指定都市別の公立高校における端末の整備状況。グラフの緑色部分が「保護者負担で整備するBYOD端末(2022年度見込み)

東京都のBYOD事例

16年度~19年度にICTパイロット校を指定

東京都は国のGIGAスクール構想に先がけて、2016年度~19年度に都立光丘高校と都立三鷹中等教育校の2校を「ICTパイロット校」に指定。全生徒へのLTEモデルのデバイス配布を行う研究事業を実施しました。都教育庁の小林正人・総務部情報企画担当課長は「従来の講義型の授業では、生徒が質問や回答、意見を言う場合は1人ずつしか出来なかった。だがICT環境を整備したパイロット校では、生徒全員がデバイスを通じて授業に参加でき、双方向性のある授業が生まれた。生徒のアウトプットが増えたことで、文科省が推奨する『主体的、対話的で深い学び』に近づきました」と話しています。

18年度からBYODの研究事業を実施

ICTパイロット校の事例を踏まえ、東京都は2018年度~19年度に、都立高校など7校を「BYOD研究指定校」とし、生徒たちが各自のデバイスを持ってきた場合でも同様の効果があるかを調べました。

その結果、BYODでも生徒と教師の双方向性がある授業が実現できることや、生徒が好みのアプリをインストールすることで自由度の高い使い方が出来るなどのメリットが確認できたと言います。ただ、都教育庁の小林課長によると、「BYOD研究指定校」では、パソコンやタブレットを持ち込んだ生徒は少数で、大半がスマートフォンを利用していたそうです。スマートフォンは資料などの閲覧には向いていましたが、画面が小さいため、複数のソフトを立ち上げての作業などには不向きだったといいます。

都の研究事業では以下のようなメリットとデメリットが浮かんできました。

メリット

  1. BYODでも生徒と教師の双方向性がある授業を確保できる
  2. デバイスを生徒が所有するので、好みのアプリをインストールするなど、より自由度の高いカスタマイズができる
  3. 卒業後も生徒が継続してデバイスを使用できる

デメリット

  1. スマートフォンを持ち込んだ場合、画面が小さく、資料を見ながらの入力が困難
  2. 表示速度が遅いなど、性能が低い生徒のデバイスに学習を合わせる形になった
  3. 不具合が出た場合の対応が非常に難しい。原因がデバイスにあるのか、アプリにあるのかなど、特定も困難だった

東京都はBYADを採用

研究事業の結果を踏まえて東京都は、高校生らが使うデバイスについて、教育庁が複数選んだデバイス候補の中から、各学校側が授業に使用するものを選ぶ形を採用しました。学校側から見ると、複数の端末から選ぶ「CYOD」ですが、実際に利用する生徒・保護者から見ると、学校が指定した特定のデバイスを購入する「BYAD」です。
都はデバイスを購入する保護者の負担上限を3万円に設定し、さらに家庭の子どもの数や収入に応じて、負担を軽減する施策を導入しました。小林課長は「デバイスを生徒自身が所有することで、より場所や時間を選ばずに活用することができ、好みに応じたカスタマイズも可能になる。高校生には貸与よりも、より自由度の高い方法が向いていると考えています」と話します。