6月下旬、川崎市幸区の市立南河原中学校。体育館には、生徒総会が始まるのを待つ生徒会役員や六つある委員会の委員長、14の部活動の部長、学級委員ら生徒約40人の緊張した顔が並んでいた。館内は静かで、全校生徒336人が入れる広さが際だつ。
ビデオ会議アプリを利用
生徒会長の宮田沙那(さな)さん(15)は「生徒総会は学校生活を自分たちの手でより充実したものにする大切な会です。南河原中学校の一員であるという自覚を持って、しっかりと議論していきましょう」とあいさつした。その様子は、ビデオ会議アプリ「GoogleMeet(グーグルミート)」でつながった各教室の仲間たちに届けられた。
まず生徒会本部、続いて学年と各委員会が今年度の活動計画を発表する。生活委員長は「コロナの影響で球技大会ができない分、あいさつ運動を週5回に増やした」、広報委員長は「力を入れたい活動は新聞作り。みんながつい見入ってしまうものにしていきたい」などと述べた。承認を受ける際は、グーグルミートでつながった各教室の端末のマイクをオンにし、拍手の音声を確認した。
続いて各学級、部活動が活動計画を報告する。春の大会での敗戦を受け、練習内容を一から考え直したというサッカー部長は「パスなど基礎練習を中心に、一人ひとりの技術の向上に力を入れてきた。1回でも多く勝てるよう頑張る」と話した。教室にいる生徒たちは、事前にPDFファイルで送られてきた議案書を端末の画面で見ながら耳を傾けた。
挙手の人数、教室から報告受け集計
最終盤、生徒会規約の改正案が議題にのぼった。これまで委員会と学級委員のメンバーはクラスから男女1人ずつ出すことになっていたが、保健委員と学級委員を除いて男女の枠を撤廃し、同性2人の選出も可能とする提案だ。クラスで委員を決める時、希望を聞くとどうしても女子2人、男子2人など同性どうしで重なることがあったという。保健委員はトイレットペーパーを補充する仕事があること、学級委員は男女それぞれいたほうが他の生徒が意見を言いやすいことなどを考えて枠を残した。
3年生から、提案の詳しい理由などを尋ねる質問が出された。生徒会本部は「男女の枠があることによってやる気があっても委員になれない人が出てくるから。全校アンケートを取った結果、男女枠は必要ないという結論になった」などと説明した。
規約改正には、参加者の3分の2以上の賛成が必要だ。このため他の議案と異なり、クラスごとに賛成の人に挙手を求め、その人数を聞いて足し合わせることにした。数分の時間を取った後、議長団が「挙手した数を報告してください」と述べ、1年1組から順番に報告してもらった。「33人です」「35人です」。マイクをオンにした端末を通じて各クラスから入ってくる人数を本部で集計する。計304人となって出席者の3分の2を大きく上回り、「改正案は承認されました」と伝える議長団の声が響いた。
「対面じゃない分、慎重に大切に」
無事に総会を終えた生徒会長の宮田さんは異例のオンライン開催に「緊張しました」と感想を明かした。「対面じゃないので、一つひとつの言葉を慎重に大切に伝えないといけないと思った。体育館にいた全員が緊張していたんじゃないかな。終わってひと安心です」。
感染拡大防止のため、全校生徒が1カ所に集まれないのは、放送室と教室をつないだ昨年度の生徒総会も同じ。ただ今回は、昨年度なかったモニターを体育館の発表者の前に置いた。そのねらいについて、生徒会担当で理科教諭の福田竹生子(しょうこ)先生(38)は「伝える相手がいることを意識してもらいたくて。キャッチボールできる場があったほうがいいと思った」と説明する。
全体を通じ、「端末が使えるといろんなことができるとわかった。コロナで行事が減る中、部活動以外で他学年とのつながる機会はとても大事。だれもが準備段階から積極的に参加できていた」と評価する。議案書は、もし紙だったら1部でA4用紙22枚が必要だった。資源の節約になるだけでなく、とじるなどの負担も減ったという。
規約改正案の採決方法をめぐっては、教員間でも検討したという。端末に入っているアンケートの機能を使えば、結果の集計は瞬時にできてしまう。でもそれでは、言いたいことを思いつく人が出てきたり、クラスによってざわついたりしても、生徒たちの動きは見えない。1クラスずつ丁寧に確認しながら承認のプロセスを進めたほうがいいと考え、今回の方法に落ち着いたという。
放課後への利用拡大が課題
端末に関して、福田先生が今後の課題と考えるのが放課後の利用だ。南河原中では今、授業で使った後は決められた充電保管庫にしまい、放課後は原則使わない。リハーサルで必要だった生徒総会前日は、一部生徒の利用を担任の先生らに相談して特別に認めてもらった。「今後、各委員会が話し合った内容も『スライド』を協働編集してまとめれば便利になる」。放課後も使えることになれば、部活動にも応用できそうだ。
南河原中は「かわさきGIGAスクール構想」の推進協力校。矢澤匡彦先生は「まずはやってみようという姿勢で取り組むのがその役割だ。だめだったらまた考え直せばいい。成果を他校にも還元できるように進めていきたい」と意気込んでいる。