「なぜドアをしめないのか?」。え、なに? なぜって言われても……。キャッチコピーのような印象的なこのフレーズ、実は小学生が国語の授業の中で作ったプレゼンテーション作品のタイトルなのです。「GIGAスクール構想」に基づいて配備された1人1台の端末を使って取り組んだという作品とは、どんなものだったのでしょう。

作ったのは、東京都台東区立金曽木小学校6年の藤田凌平さん(11)。5年生の3学期、配られたばかりのタブレットのソフトの一つを使って、「説得力のある提案をする」ことをめあてとした国語の学習があった。1年で最も寒い2月ごろのことだ。

ドアの真横 冬は冷たい風が入った

その頃、藤田さんが座っていた席は一番後ろドアの真横だった。開いていると、廊下を伝った冷たい風が入り込んでくる。朝、少しでも寒くないようにとドアを閉めていても、後から入ってくる子たちはみんな開けっ放し。そのたびに寒い思いをして、自分が閉めなければならなかった。

始業時間になっても、「『やべー、遅刻だー』と言いながら駆け込んでくる子も閉めてくれなかった」と振り返る。その場で声をかけたりしなかったの? 「いや、あんまりしない。みんな急いでいるし」

そんなもやもやした気持ちとともに、「ドアが開いていると寒いから、みんなに閉めてもらいたい」という率直な思いが、作成のきっかけになった。

藤田凌平さんのプレゼン資料
藤田凌平さんが作ったプレゼン資料の一部。ドアを閉めたときと閉めていないときの写真をそれぞれ撮って並べている=東京都台東区

作品は、1枚目のタイトルを含めて8枚のスライドからなる。2枚目は「提案のきっかけ」として、自分の席がドアの前にあるため、開いているととても寒いことを説明している。4枚目は「現状の問題」。クラスでアンケートを取ったところ、閉めていない24人中18人は、閉めていない自覚があると回答した。わかっているのなら、閉めることもできるはず。そう思い、アンケートのことも盛り込んだ。

開け閉めした写真並べ、ポスターも作成

ドアの真横の自分の席がどんな環境なのかがわかるよう、ドアが開いた状態と閉めた状態でそれぞれ撮影した写真を二つ並べたスライドも作った。確かに、ドアが開いたままの写真では向こう側に廊下などのスペースが広がり、寒さが伝わってくるようだ。

さらに席が近い同じ班の友だちと協力して「ドアをあけたらしめてください」と大きな文字で訴えるポスターも手描きし、写真に撮ってスライドの一つに加えた。最後は「さむいといやなので、ドアをしめるようにしませんか?」と締めくくっている。

パソコンでゲームをして遊んだことはあった藤田さんだが、プレゼン作品を作るのは初めて。発表の結果、どうなったのか。「まだ閉めていない子もいるけれど、全体としては結構閉めてくれるようになった。こういうものを作るとみんなわかってくれるので、影響力があるなと思った」と言う。

藤田凌平さんのプレゼン資料
手描きしたポスターも写真に撮ってプレゼンの資料に活用した

当時、担任だった同校主幹教諭の簑輪幸一先生(48)は、都小学校視聴覚教育研究会のメンバーでもある。藤田さんの作品を「自分の問題意識を友だちにわかりやすく提示している」と評価する。「わざわざ写真を撮ったりして、自分はこんなに寒い思いをしている、と気持ちに訴えて改善を求めているところがおもしろいと思いました」。

藤田さんには、次にもし機会があれば作りたい作品のイメージもある。理科や音楽など専科の授業で別の教室に向かう際、廊下に素早く整列することだ。「もうちょっと早く並んだ方がいいと思う。自分もあまり早く並べていないので、自分に対する課題でもあるから」とその理由を話した。

小6で端末チェンジ、中学生と同じメーカーに

ところで、台東区の小学校で使っている端末のOS(オペレーティングシステム)はWindowsだが、機種は1~5年生ではレノボ製、6年生はNEC製と異なっている。NEC製を使う中学進学に向けて、使う端末の「中1ギャップ」をなくすねらいからだ。1~5年生はずっと同じ端末を使い続けるが、6年生に上がるときには端末を切り替えることになる。

五反田さんと藤田さん
自分の「台上前転」の様子を動画に収めた五反田柚泉(ゆい)さん(左)と藤田凌平さん=東京都台東区の金曽木小

端末は替わっても、主だった学習のデータは、本人が後で振りかえって活用できるよう、いかに上手に残しておくか。それが「1人1台端末」の成否のカギになる、と簑輪先生は考えている。