最近耳にすることが増えたスクールロイヤー。学校問題を幅広く解決してくれる存在とイメージされがちですが、その実態はあまり知られていません。この記事では、学校現場の実情に触れながら、スクールロイヤー登場の背景・期待される役割・活動内容について、スクールロイヤーとして活動している弁護士が解説します。

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1.スクールロイヤーとは

スクールロイヤーとは、学校・教育委員会・学校法人に対して、学校で発生するいじめ・不登校・学校事故などさまざまな問題について助言・アドバイスをする弁護士のことです。例えば、学校でいじめが発生したとき、スクールロイヤーは法律で義務付けられている対応の助言やサポート体制のアドバイスなどをおこないます。

なお、現在のところ、スクールロイヤーに明確な定義はありません。

2.スクールロイヤー導入の経緯

スクールロイヤーの導入に携わっているのは、文部科学省と日本弁護士連合会です。ここでは、スクールロイヤーが導入されるまでの経緯について詳しく解説します。

(1)文部科学省の政策にスクールロイヤーが登場

スクールロイヤーという名称が初めて登場した時期は不明ですが、文部科学省によって2017年度から実施されている「いじめの防止等対策のためのスクールロイヤー活用に関する調査研究」のなかで、「スクールロイヤー」という名称が使用されています。

当初、文部科学省では、スクールロイヤーにはいじめ予防教育・法的相談への対応・いじめ防止対策推進法にもとづくいじめ対応の徹底など、いじめ防止を主眼にした活動を期待していました。

(2)中央教育審議会の答申にスクールロイヤーが登場

時期は前後しますが、2015年12月に発表された中央教育審議会の答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)」では、学校や教育委員会への「不当な要望など」への対応として、弁護士との連携が提案されています。

この答申ではスクールロイヤーという名称は使われていませんが、その後の2019年の答申で明確にスクールロイヤーという用語を使い、その活用を提案しています。

(3) 日本弁護士連合会によるスクールロイヤーに関する意見書の提出

日本弁護士連合会は、2018年に「『スクールロイヤー』の整備を求める意見書」を提出しました。この意見書では、スクールロイヤーの役割として、いじめや不当要求などに限らず、学校で起きるさまざまな問題について、子どもの「最善の利益」のために活動することが期待されています。

(4)千葉県野田市の虐待死事件をきっかけに導入の流れが加速

教育現場に弁護士が関与することについて議論が深まりつつあるなか、2019年1月に千葉県野田市で小学4年生の女児が保護者からの虐待を受けて死亡するという痛ましい事件が起きました。この事件はスクールロイヤー導入の流れを加速させました。

この事件で、女児は亡くなる前に虐待を訴えるアンケートを小学校に提出していました。野田市教育委員会は、このアンケートのコピーを渡すように強く訴える保護者からの要求に屈し、コピーを渡していたことが後に判明しています(参照:野田市児童虐待死亡事例検証報告書〈公開版〉p.59、70)。このことが児童の虐待死を招くきっかけになったのではないかといわれており、弁護士と学校・教育委員会の連携の必要性がこれまで以上に注目されるようになりました。

(5)文部科学省によるスクールロイヤーの全国配置・普通交付税措置

2019年9月24日、萩生田光一文部科学大臣(当時)は、スクールロイヤーを全国に300人配置する方針を示しました。

また、2020年度からは都道府県および指定都市教育委員会における弁護士らへの法務相談経費について、普通交付税措置が講じられています。

この措置を受け、文部科学省は日本弁護士連合会と連携しながら「教育行政に係る法務相談体制構築に向けた手引き」を作成し、2020年に公表しました。2022年3月には第2版を作成し、法務相談体制の構築方法や事例を紹介するなど、スクールロイヤー制度の活用を促進しています(参照:教育行政に係る法務相談体制構築に向けた手引き 第2版丨文部科学省)。

3.スクールロイヤーの必要性

スクールロイヤーが注目されるようになった経緯からもわかるように、学校にはいじめ・不登校・児童虐待・保護者からの過剰要求など、子どもやその保護者をめぐるさまざまな問題が押し寄せています。これらすべての問題を学校だけで対応するのは困難です。

一方、教育分野の法律も増えており、それらの法律を踏まえて業務にあたらなければなりません。これらの理由から、スクールロイヤーが必要とされるようになりました。

4.スクールロイヤーに期待される役割

では、スクールロイヤーは具体的にどのような役割を期待されているのでしょうか。

文部科学省は、前述のとおりいじめ予防に関する対応をスクールロイヤーに期待していました。もっとも、文部科学省が作成した「教育行政に係る法務相談体制構築に向けた手引き」によれば、いじめ問題に限らず、虐待・学校や教育委員会への過剰な要求・学校事故の対応など、スクールロイヤーの活用の場をより広く想定していることがわかります。

日本弁護士連合会は、スクールロイヤーを「学校現場で発生する様々な問題について、子どもの最善の利益を念頭に置きつつ、教育や福祉、子どもの権利等の視点を取り入れながら、法的観点から継続的に助言を行う弁護士」と定義しています(引用:「スクールロイヤー」の整備を求める意見書 p.1|日本弁護士連合会)。いじめや不当要求などに限らず、あらゆる問題について子どもにとっての「最善の利益」を最優先に活動することが期待されています。

なお、一見すると、現在文部科学省が考える役割と日本弁護士連合が期待する役割は変わらないように思えますが、「代理人」に関しては書きぶりが異なっています。

文部科学省では「教育行政に係る法務相談体制構築に向けた手引き 第2版」のなかで、スクールロイヤーという言葉を使っていませんが、日本弁護士連合会ではスクールロイヤーという定義に言及しており、「代理人の業務は含めない」と意見書のなかでは書いています。

5.スクールロイヤーの主な活動内容

スクールロイヤーに期待する役割に違いがあることに注意しつつ、どのような場面でスクールロイヤーが活用できるのかについて、「教育行政に係る法務相談体制構築に向けた手引き 第2版」を参考にしながら解説します。

(1)助言・アドバイザー業務

スクールロイヤーは学校に対して、法的なアドバイスをします。早期から学校関係者からの相談にのることで、法的な課題の深刻化を防げます。

例えば、いじめ防止対策推進法上の「いじめ」に該当するかどうかの判断や、学校事故が起きた際の法律に従った適切な対応などについて助言するのが、スクールロイヤーの役割です。

また、アドバイスの際には違法・適法の判断のみならず、学校のアセスメント(見立て)とプランニング(計画)をサポートします。さらに、必要に応じてスクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)などと連携しながら対応することもあります。

なお、アドバイスは一度きりではなく、状況に応じて継続されることが前提です。

(2) 代理・保護者との面談への同席など

保護者らが限度を超えた要求を繰り返したり、学校・教育委員会に対して危害を加えることを告知したりするような場合、スクールロイヤーが学校や教育委員会側の代理人として直接保護者らとやりとりします(ただし、学校の「代理」について見解の相違があることは、上述したとおりです)。

そのほか、学校で日常的に起こり得る難しい保護者対応にも、スクールロイヤーが立ち会って調整や仲介をおこなうことがあります。この場合、スクールロイヤーは必ずしも「代理人」としてではなく、専門家の立場から保護者や関係者に対して法的な知見を提供する例もあります。

(3) 研修業務

教育現場で必要とされる法律の知識やスキルについて、教員や教育委員会に対して各種研修をおこないます。研修で扱われる内容は、いじめ防止対策推進法・個人情報保護法・著作権法など学校現場の業務に密接に関わる法律の解説・保護者対応の方法などです。

(4) 出張授業

子どもに対し、法律の専門家として各学校に出張して授業をおこないます。法教育・いじめ予防授業・消費者教育やワークルール教育など、教育の内容はさまざまです。

6.スクールロイヤーの活用事例

各地方自治体でスクールロイヤー制度の導入およびその活用は広まりつつあります。ここでは、スクールロイヤーの活用事例を紹介します(複数の実例を参考に、筆者による加工を加えて作成した架空の事例です)。

(1)いじめ対応に関する事例

ある中学2年生の子どもが30日以上欠席を続けているなか、学校としては原因がわからず困っていました。そこへ、その子どもの父親が学校にやってきて「うちの子はいじめにあって学校に行けなくなっている」と訴えます。

この段階でスクールロイヤーに相談が来た場合、まずおこなうのはいじめ防止対策推進法で学校に求められる対応の確認です。30日以上の欠席が続いていることから、この法律で定められている「重大事態」に該当するかどうかの判断をおこないます。該当する場合は文部科学省が策定しているガイドラインに沿って対応するように助言します。

一方で、この子どもの登校再開に向けて、いじめ以外に不登校の原因がある可能性も踏まえつつ、場合によってはSCやSSWと連携しながら、生徒の思いを聞き取っていきます。

スクールロイヤーは、法律で求められる対応を適切に取りつつ、子どもが抱えている悩みや課題に応じて、関係機関との連携を視野に入れた継続的なサポート体制を整えていきます。

(2)保護者対応に関する事例

小学3年生のある子どもが、忘れ物を注意されたことをきっかけに教員の指導が怖いと学校を欠席するようになってしまいました。その子どもの母親は教員の不信を露わにし、学校に来ては校長室で2〜3時間一方的に不満をぶつけて帰っていくことが続きました。最初は丁寧に対応していた教員も徐々に疲弊していくようになりました。

このような相談があった場合、スクールロイヤーはまず保護者の訴えの内容や情報を整理します。このケースの場合、母親が数年前に離婚し、1人で子どもを育てていることや、経済的に不安があることがわかってきました。そのうえ、子どもが学校に行かなくなると、自身も働きに出られなくなる心配が募り、毎日校長室に来てはその思いを訴えていたのです。

そこで、スクールロイヤーは子どもが安心して登校を再開できるように、SCを交えて話を聞きつつ、母親の不安を軽減する対策を検討します。この事例では、SCやSSWとも連携し、自治体の福祉課の相談窓口を案内することで、生活や子育てについて継続的な支援を受けられるようにしました。

7.スクールロイヤーの課題

スクールロイヤーの活用は広まりつつありますが、以下のような課題も存在します。

  • スクールロイヤーが学校側の代理人として活動してよいかどうかについての見解の相違がある
  • スクールロイヤー活用の事例が蓄積されておらず、どのような場面で活用できるのか、また、どのような制度設計が学校現場にふさわしいのかがわかりづらい

今後スクールロイヤーの活用をさらに拡大していくために、上記のような課題の解決が求められています。

8.スクールロイヤー活用の促進に向けて

スクールロイヤー制度の導入にあたっては課題もありますが、学校を取り巻く現状を見る限り、学校現場と弁護士の連携が必要であることは間違いありません。

学校が上手にスクールロイヤーを活用することで、学校現場の負担が軽減されることはもとより、子どもたちが安心して学校に通えるようになることを期待しています。楽しく健やかに学校に通える子どもが1人でも増えるように、スクールロイヤーの仕事が周知され、全国に制度が広まることを願っています。