歩行中の交通事故・死傷者数を年齢別に見ると、7歳の子どもが交通事故にあう件数が一番多くなっています。子どもたちを交通事故から守るための交通安全教育の意義や実践をテーマにオンラインセミナーを開催しました。
セミナーには、未来ある子どもたちを交通事故から守りたいとの思いからこくみん共済 coop が推進する「7才の交通安全プロジェクト」に共感・賛同し、2019年から共同で研究や実験を行う金沢大学准教授の藤生慎先生をはじめ、小学校校長や教員、幼稚園園長が出演。交通安全教育の実践発表や研究報告を通じて、その意義やポイントを学びました。

イベント登壇者

藤生慎先生(ふじう まこと)金沢大学融合研究域融合科学系准教授

盛一純平先生(もりとき じゅんぺい)金沢大学人間社会学域学校教育学類附属小学校校長

長谷川勝浩先生(はせがわ かつひろ)金沢大学人間社会学域学校教育学類附属小学校教諭

西多由貴江先生(にした ゆきえ)金沢大学人間社会学域学校教育学類附属幼稚園園長

小学校低学年児童の交通安全・事故に関する基礎的研究〜7歳児の交通事故発生件数に着目して〜

金沢大学融合研究域融合科学系准教授 藤生慎先生

交通事故は、高齢ドライバーと子どもの事故の二つに大きく分かれます。高齢ドライバーの事故は多いという認識はみなさんがお持ちだと思いますが、「歩行中の交通事故・死傷者数」をもとにデータを集計したところ、7歳児の交通事故件数は、高齢ドライバーの事故件数の2〜2.5倍で、約25年間連続でこの傾向が続いていることが明らかになりました。なぜ7歳での事故が多いのか。研究の結果などから次のことが原因として考えられます。

  1. 小学校に入り友達が増えて行動範囲が広がり、慣れない場所での行動が増える
  2. 大人に比べて目線が低いために、交通標識が見えないし、視野に入らない
  3. 標識に止まれと書いてあっても、なぜ止まらなければいけないのかを理解していない
  4. どこまで道路に近づけば、車やバイク、電車が来るのが見えるかわからない
  5. 注意力が十分に育まれていない
歩行中の交通事故・死傷者数(平成27年)のグラフ 出展:こくみん共済 coop ウェブサイト

交通事故の原因を年齢階層別に示したグラフ(下図)を見ると、6歳以下、7~12歳では飛び出しが60%を占めていることが分かります。つまり、子どもが飛び出さないようにすることで、事故を減らすことができると考えられるのです。子どもは停止線からでは車が見えないので、「見通しが悪い時は、停止線で止まって、車が見えるところまで少しずつ確認しながら前に出なさい」と丁寧に教えることが大切です。「止まれ」という標識についても、なぜそこで止まる必要があるのか、踏み込んで教えてあげないと、子どもは「止まれ」という標識は読めても「止まらなければいけない」という意識にはならないのです。

12歳以下の交通事故の原因は6割以上が「飛び出し」

子どもにとって危険な交通環境が様々なところにあるということを、大人も子どもも認識しなければいけません。子どもの交通安全は、学校・家庭・地域全体で継続的に取り組まなければいけないテーマです。幼稚園から大学、自動車の免許を取ってから、高齢ドライバーになってからなど、ステージにあわせた教育が非常に大事になってきます。特に幼稚園、小学校低学年のうちに、交通安全意識を醸成することが大切です。実際に、北陸3県を中心に集中的に交通安全教育を進めていると、小学校低学年の事故が減ってきているという実績もあるので、単発ではなく、継続的に進めていくということが大事です。(談)

小学校での交通安全教育の位置づけ

金沢大学人間社会学域学校教育学類附属小学校校長 盛一純平先生

交通安全の指導は学校健康教育の3領域「学校安全」「学校保健」「学校給食」のうち、「学校安全」に含まれます。交通安全に関する安全教育は、「様々な交通場面における危険について理解し、安全な歩行、自転車や二輪車などの利用ができるようにする」ことを目的とし、次の三つの区分で行っています。

  1. 安全な道路利用の基本と交通への参加
  2. 道路交通環境への適応
  3. 地域の安全への貢献と責任

また、文部科学省が定める交通安全に関する12項目のうち、特に小学校では、様々な教科や学級活動の中で年間計画を立てて「道路の歩行や道路横断時の危険の理解と安全な行動の仕方」「踏切での危険の理解と安全な行動の仕方」「交通機関利用時の安全な行動」「自転車の点検・整備と正しい乗り方」「二輪車の特性の理解と安全な利用」の5項目を中心に指導しています。1年生の子どもたちには、集団登下校のなかなどで、その場所に応じた指導を実施することも大切です。(談)

園児の生活のなかでの安全指導

金沢大学人間社会学域学校教育学類附属幼稚園園長 西多由貴江先生

幼稚園では、普段の生活のなかでの安全指導を大切にしています。園舎内での生活のなかで「安全に過ごすためには」「けがをしないためには」「自分の命を守るためには」ということを日々自分事として考えるよう伝えています。また、警察に協力していただく交通安全教室は2,3年に1回のスパンで行い、幼稚園にいる間に一度は体験してもらえるようにしています。

一方、子どもたちに関わる大人が、交通安全の重要性を伝えることの大切さを理解していないと、やはり正しく指導することができません。教師と子どものための安全教育のなかで、実際に演習をすると参加した先生方も衝撃を受けるようです。子どもの目線に立つと、子どもと大人では目に留まる標識も本当に違うことを実感します。また、教員だけでなく、保護者への啓発も非常に大切です。日々の登降園の際に子どもたちに交通安全について伝えながら一緒に歩いていただくよう幼稚園から保護者にお願いしています。幼児期の交通安全教育にあたっては大人が総力戦で取り組むことが何よりも大事だと感じています。(談)

小学校で進める実践活動や実証実験について

金沢大学人間社会学域学校教育学類附属小学校教諭 長谷川勝浩先生

私からは、小学校で実践している交通安全教育についてお話しします。1年生を対象とした交通安全教室では、警察署の方を招いて、横断歩道のマットや信号機を設置し、横断歩道の渡り方や道路の歩き方などを指導してもらいます。3年生を対象にした自転車安全教室では、交差点や信号機、踏切などがある交通公園で自転車の乗り方や、乗る際のセルフチェックを学びます。また、1年生の道徳の授業では紙芝居を使い登下校時のマナーについても指導しています。

7歳児の交通事故で最も多い原因、飛び出しや横断違反を解決することを目的に、産官学共同で、実証実験を実施しています。車通りの多い交差点や見通しの悪い交差点に近づくと、音声による注意喚起や児童の行動を記録するデバイスを使用し、行動データの収集や、注意喚起の効果測定をしています。実験中に児童に様子を聞くと「横断歩道を渡る時に周りをよく見ずに渡っていたから、これからは周りをよく見て渡りたい」と言っていました。また「いつもここは安全だなって思っていたけれど、この道路は危険だったんだね」と改めて気づく姿も見られました。こうした活動を通じ、私自身、児童が自ら気づくことの大切さを実感しています。(談)

未来ある子どもたちを交通事故から守りたいとの思いから、こくみん共済 coop では「7才の交通安全プロジェクト」を推進しています。
この取り組みの一環として、金沢大学准教授の藤生慎先生と共同で子どもたちの交通安全についての研究・実験をおこなっています。詳細はこちらのウェブサイトからご覧いただけます。

▼本ウェビナーのアーカイブ動画は下記よりご覧いただけます。

▼講演資料は下記よりダウンロードしていただけます。

金沢大学融合研究域融合科学系准教授 藤生慎先生
「小学校低学年児童の交通安全に関する基礎的研究~7歳児の交通事故発生件数に着目して~」

金沢大学人間社会学域学校教育学類附属小学校校長 盛一純平先生
「学校での交通安全教育」

金沢大学人間社会学域学校教育学類附属幼稚園園長 西多由貴江先生
「幼稚園における安全教育」

金沢大学人間社会学域学校教育学類附属小学校教諭 長谷川勝浩先生
「交通安全教育について」