クラウドサービスは、どこにあるかがほとんど明らかにされていないデータセンターに莫大な数のコンピューターを設置して行われています。その数は、100万~200万台規模にのぼる、といいます。大量のコンピューターを集めることにどんなメリットがあるのでしょうか。学校教育にクラウドを利用する意義は――。岡嶋裕史・中央大国際情報学部教授インタビューの後編では、クラウドの実像や「GIGAスクール構想」との相性などに迫ります。

 

おかじま・ゆうし 1972年、東京都生まれ。富士総合研究所、関東学院大情報科学センター所長などを経て現職。専門は情報ネットワーク、情報セキュリティー。著書に「いまさら聞けないITの常識」(日経文庫)などがある。

 

――クラウドのデータセンターはどこにあるのでしょうか。

よく知られているのは、アイルランドのダブリンにあるGoogle(グーグル)のデータセンターで、寒冷地にあります。コンピューターは熱を出すくせに熱に弱い特徴があり、冷却が最大の課題ですが、雨ざらしなのでよく冷えるそうです。Microsoft(マイクロソフト)のデータセンターには、コンテナのようなものに入れ、海中に沈めて冷やすところもあります。いずれも自然環境の冷却効果を考えた方法です。使っているうちに故障機が増えて稼働率が落ちてもその都度修理せず、回し続けることもある。引き揚げて交換するとしても何年か後です。ある仕事を1台だけでするのではなく、故障したらすぐ別のコンピューターにスイッチできるよう分散させ、並行して進めているからそれができるのです。

たくさんの仕事を引き受け、大量のコンピューターを動かすことで規模の経済が働き、貸し出す料金は安くできる。利用者も、みんなでコンピューターの能力をシェアすることで無駄なく運用できるわけです。 

「ガバメント」も海外勢採用

これに対して、日本のクラウド事業者の多くは1台1台をきれいにメンテナンスして使っています。しかもお台場など都心の一等地にあったりする。何かあれば駆け付けるという発想です。いいこともあるでしょうが、値段の面では海外勢に太刀打ちできません。ガバメントクラウド(日本政府が用意するクラウド環境)の先行事業で10月に選ばれたのも、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)と、グーグル・クラウド・プラットフォーム(GCP)の海外勢2社でした。 

クラウドではみんなでコンピューターをシェアすることで無駄なく運用できる

――日本企業もグローバル化に対応しているのかと思っていました。

リアルの世界では、ディズニーランドがどれだけ人気でも、お客さんがいっぱいになったらそれ以上は入れないから、他のテーマパークも人を集められる。でもインターネットは勝者が一人勝ちする世界で、クラウドは規模が正義のようなところがあります。サーバーはいくらでも増やせるし、ネットワークも拡充できる。いっぱいだからこれ以上受け入れられない、ということはありません。数十億人を相手に商売しているGAFAなどと比べると、1億人が相手の日本企業はどうしても高コストになるし、先を読むために活用できるデータの数でも太刀打ちできません。 

クラウドで一番手をつけやすいのは、写真や大事なファイルを預かるストレージサービスで、これは日本企業もたくさん参入しています。でも本筋はあくまでもコンピューターが生み出す計算能力を使い、お客さんに代わってアプリを動かし、結果だけをお返しするというサービスです。

――クラウドはGIGAスクール構想で1人1台端末を使う前提とされています。学校教育とクラウドの親和性は。

小中学生では、端末を壊してしまうことも大人より多いと思います。そんなとき、ファットクライアントの発想で、その子の学習履歴などかけがいのないデータがすべて端末に入っていたらおしまいです。でもクラウドだと、データは端末の中じゃなくてデータセンターにありますから、代替機があればすぐ授業を進められます。

それから、価格の安さです。すべてをクラウドでやる前提で作られたクロームブックが学校にこれだけ広がったのも、コスト面で歓迎されているからでしょう。先生が一元管理できる利点もあります。ただ、その分、機能は抑え気味かなというのはあります。同じような表計算ソフトにしても、ファットクライアントの発想で作られたソフトを積んだ端末はきびきび動くのに対して、リクエストをして返ってきた回答を表示するので、どうしても一瞬遅れます。小学生なら気にならない程度の遅延ではありますが。

――小学校から中学校への進学や転校の際、学習履歴はどうなるのでしょう。

移せないことはないし、移すべきですけれど、手間がかかるのでたぶんやらないでしょう。高校内外の活動履歴などを電子化して大学入試に利用する「ジャパンeポートフォリオ」と呼ばれる仕組みは昨年、頓挫しました。高校生にすれば、ボランティアをしたかどうかまで入試に影響を及ぼすとなると、余暇時間まで善行を積み重ねないといけない。それはディストピア(反理想郷)だ、という思いがあったように思います。入試に使わないとなれば、小中学校も含めてデータの移行を積極的にやろうとはしないでしょう。 

進学・転校で途切れる履歴

そもそもIT(情報技術)に苦労する先生が少なくない小中学校で、進学後の引き継ぎまで考えていられない、というのが実情ではないでしょうか。そこをサポートするようなシステムもできていないので、進学する段階で履歴は途切れるだろうと思います。小中一環校や中高一貫校は、途切れないことを売りにするでしょう。

「小学校時代の『黒歴史』まで引き継がれるのは困るという人も多い」と話す岡嶋教授

転校などの場合も同じです。グーグル、アップル、マイクロソフトのクラウドのデータ保存の仕方はそれぞれ異なりますが、データを移すときの変換方法は公開しているので、移すことは可能です。しかし問題は、各校が同じデータを取っているわけではないことです。この子は授業の動画を見始めて30分で見るのをやめた、といった細かいところまで取っている学校もあれば、そもそも対面授業しかしておらず出席の記録しかない学校もある。記録の粒がそろわないのです。そこを標準化して簡単に使えるようにし、先生にも生徒にも喜ばれるしくみを作るのが研究者や技術者の仕事だと考えています。