GIGAスクール構想で全国の小中学校などに配備されたパソコンやタブレット端末は、どの程度利用されているのでしょうか。その点に焦点を当てた二つの調査結果が8月下旬、文部科学省と民間調査会社から相次いで公表されました。文科省の調査結果は、ほとんどの小中学校で利用が始まっているとする内容でしたが、民間会社の調査によれば利用を始めたのは全体の6割強でした。この差をどのように読み解いたらいいでしょうか。   

「利用始まる」文科省調査では96%超

文科省が8月30日付でホームページに載せた「端末利活用状況等の実態調査(速報値)」によると、7月末時点で端末の利用を全学年または一部の学年で始めたのは、全国の公立小学校(義務教育学校1~6年、特別支援学校小学部を含む)の96.1%だった。公立中学校(義務教育学校7~9年、中等教育学校前期課程、特別支援学校中学部を含む)では96.5%にのぼった。

文科省の調査結果

それらのうち「全学年で利用開始」は、中学校では91.0%と大半だったのに対し、小学校では84.2%とやや少なかった。小学校の場合、低学年はローマ字を習っていない、キーボードの操作が難しいなどとみて高学年より利用を遅らせることがあり、こうした運用が影響した可能性がある。 

MM総研「利用している」63%

これに対し、ICT(情報通信技術)市場調査コンサルティングのMM総研(東京都港区)が8月25日夕に発表した「GIGAスクール構想に関する意識調査」では、8月時点で端末が配られ、利用しているかを、保護者の同意を得た全国の小中学生1万人にネットで尋ねた。端末が「配られ、利用している」のは全体の63%にとどまり、「配られていない」が36%もあった。回答に学年の偏りが表れないよう、小1から中3まで同じくらいの人数を調査対象に選んだという。

MM総研発表
MM総研(東京都港区)提供

調査のやり方も規模も異なるので、もちろん単純比較はできない。ただ、ほぼ同じ時期の調査で数値に開きが出た理由の一つとして考えられるのは調査対象の違いだ。MM総研の調査対象が端末の利用主体である子どもなのに対し、文科省の調査は自治体を対象にしている。いずこの自治体も、端末を学校に配備するまでは責任を持って対応していただろう。だが、その後利用を始めたか、日常的に利用しているか、といったところまで全自治体がフォローしていただろうか。配り終えたことをもって利用開始と見込んだ自治体もあったのではないか、と私は考える。

二つの調査結果の数値こそ違っていても、はっきりしているのは、夏までに端末利用のスタートを切る態勢を整えられなかった学校があり、端末が配られなかった子がいた、という現実である。実際、ツイッターでも「うちの自治体はまだ」といった保護者の声が8月くらいまでつぶやかれていた。 

ノウハウ不足し追い込み効かず

利用の遅れについて、MM総研クラウド&モバイルソリューション研究グループの中村成希さんは「IT(情報技術)に対する自治体の従前の取り組みによる差が出ていると思われます」と推測する。「以前から学校のIT化に消極的だったりして現場にノウハウの蓄積がなく、最後の追い込みが効かなかったということだと理解しています」。そんな中で、利用を始めたとの回答が63%あったことを「当初想定したよりは頑張ったと言える数字」と評価した。

端末が配備されていても利用を始められない学校には、どんな事情があるのだろう。全校の端末の初期設定などの準備がICTに詳しい若手教員らに丸投げされ、負担が偏ってしまっている、「まずは使ってみよう」と旗を振るべき校長先生のリーダーシップが発揮されていない、学校までのネットワーク回線の整備が不十分……。想像ではあるが、いずれにしてもGIGAスクール時代の学校として好ましいすがたではあるまい。

MM総研の調査結果2
MM総研(東京都港区)提供

MM総研の調査では、端末をはじめとするICT環境の活用への賛否も尋ねている。授業での活用に「賛成」は、保護者の89%、小中学生の88%を占めた。端末の持ち帰りには保護者の81%、小中学生の74%が賛成した。毎日利用している小中学生ほど、活用の意向が高まる傾向があることも紹介している。これに対し、文科省の調査では、平常時の持ち帰りを「実施している」学校は25.3%しかなく、非常時の持ち帰りを「実施できるよう準備済み」も64.3%にとどまる。

ICT環境の活用は子どもにも家庭からも支持されていることを受け止め、まだこれからという学校にはぜひ思い切って第一歩を踏み出してもらいたい。