登壇者
〈研究分野から〉
・田村学・国学院大教授……学校現場での探究学習の実践を経て今回の学習指導要領改訂にも携わった。専門は教科教育学、教育方法学、カリキュラム論
・佐藤真久・東京都市大教授……環境教育やSDGs(国連の持続可能な開発目標)に関する教育に詳しい。専門は環境政策、ESD
〈学校現場から〉
○私立女子校の晃華学園中学高校(東京都調布市)
・林美幸教諭(進路学習指導部長)
・長岡仰太朗教諭(社会科、高3担任)
・渡辺音葉さん(19)……卒業生で国際基督教大1年
○東京都立南多摩中等教育学校(東京都八王子市)
・永森比人美・統括校長
「総合学習」世代から学力回復
はじめに田村教授が「探究の高度化・自律化とキャリア教育」と題して講演。田村教授は、探究型の学習を前提とした「総合的な学習の時間」は1998年の学習指導要領に初めて盛り込まれたが、2000年代初頭の導入当初は学力低下につながるとの懸念が高まっていたことを紹介した。「しかし高校1年生が受ける国際学力調査の結果を見ると、学力低下が問題になった時期の高1は総合学習を短期間しか学んでいない。V字回復した2009年の高1が、初めてフル規格で総合学習を学んだ世代だった」と指摘し、「むしろ探究学習は、期待する学力に寄与するのではないかというデータが見え始めている」とした。
今回の学習指導要領は、全体として「探究という方向へ向かっているイメージ」だという。高校では「総合的な探究の時間」が設けられるなど、科目名にも位置づけられた。こうした点を踏まえ、田村教授は「コロナ禍が広がり、我々が答えの出ない問題に直面しているのを高校生は毎日目の当たりにしている。正解を覚えるだけの学びで済ませるわけにはいかない。社会にどう参画し、寄与できるのか。探究の学びが期待される」と述べた。
裁判傍聴→関心深まり法学部へ
晃華学園中学高校では、8千字以上という条件がある中学の卒業論文や、高校の修学旅行とその事前事後学習などを通じて探究学習に取り組んできた。卒業論文は書きかけの中3段階と完成後の高1の計2回発表するが、林教諭は「全員に発表させ、下級生にも聞かせるのがミソです。よくできたものだけ発表するのでは人ごとになってしまう。全員発表するから、『自分にもできるかも』と下級生の探究心が育成される」と説いた。
林教諭はこのほか、学校の勉強とは別に興味を持ったことについて自分に課題を出す「チャレンジ企画」と呼ばれる取り組みも紹介。「一日一句」「広告づくりワークショップに参加」など生徒が自分で見つけた課題に挑み、何度も繰り返しながら発展させていく。裁判の傍聴を通じて法学方面への興味が深まり法学部に進学したり、妊婦健診を見学したことで産婦人科医を目指す意志を固めて医学部に進んだりするケースもあったという。
複数の視点から課題解決考える
長岡教諭は現在の高3の担任として、昨年度から今年度にかけて沖縄修学旅行に関する学習の指導をしてきた。「事前学習に入る前に、学習の全体像と、いま何を目的に活動しているのかを生徒たちと共有した」という。沖縄の魅力と課題を抽出し、旅行を通して解決のためにできることを考え、SDGsの観点で新聞記事にまとめた。「記事を読むと、課題が相互に関連していることや、複数の視点から解決する重要性を指摘する班が多かった。身の回りで課題を設定して解決を図るという思考が自然と身についていることに驚いた」と述べた。
晃華学園卒の渡辺さんは中学時代、公民の授業でSDGsや国際問題を学んだ。それがきっかけでより深く学びたい気持ちが強まり、SDGs高校生フォーラムや模擬国連大会に参加するようになった。「そんな経験からジェンダー学や国際問題の解決に関心を持つようになり、進路選びでも大いに影響を受けた。晃華学園の探究学習が、興味関心のある事柄を見つけて深める機会を与えてくれた」と話した。
探究学習担う「推進室」
南多摩中等教育学校は2010年度の開校以来、探究学習を柱に据えてきた。1年生は「地域調査」に取り組み、2年生ではモノに着目して研究する「モノ語り」、3年生では実験を多く採り入れる「科学的検証活動」など、段階を踏んで5年生まで計画的に進めていくのが特徴だ。校内には探究学習を担当する「フィールドワーク推進室」も設置している。
中学生にあたる前期生の段階ではすべてグループで学ぶのに対し、後期生になると、個人で研究を進める。4年生でゼミ形式の授業を通して自分が研究したいテーマを設定し、5年生の12月末までに4千字の論文を仕上げる。永森統括校長は「後期では、すでに確かめられたことを再認識するだけでなく、だれも明らかにしていない問いの答えを導き、新たな考えを提言することを目指す。将来どんな分野の仕事に就きたいかも考えることになる」と説明した。教育課程についても、地理と地学の融合科目「地球探究」(4年生)を導入するなど探究シフトを強めている。
専門知識が必要になる面も
この後のパネルディスカッションは、佐藤教授が進行役を務めた。佐藤教授は「先生に言われたからやるのではなく、内発的なワクワク、ドキドキから始めた取り組みが情熱や、結果的にキャリアにも結びつく。みんなで協働して学び合う機会も増えてきた。教員や本がリソースだった時代から、学びの作戦変更が求められている」と問題提起し、「個別最適・協働的な学びをどう設計するか」をめぐって意見交換した。
晃華学園中学高校の林教諭は、中学卒業論文を土台に高校生になって取り組む探究論文について「教員にも専門知識が必要になり、より深めるには難しい面がある」と語った。南多摩中等教育学校の永森統括校長も「探究学習はどうしても理系の先生方が牽引(けんいん)する傾向があるが、探究をサポートすることを楽しむ意欲の輪も広がってきている」とした。
田村教授は「探究学習が本当に自分の解決したいこと、解決できそうなことに向かっているかがポイントになる。探究にいかに『協働』の要素を採り入れるかも課題で、南多摩のようにカリキュラムを整備することが重要だ」と述べた。
探究サミットは今回で2回目。朝日新聞東京本社から参加費無料でオンライン配信し、各地の高校教員ら約300人が参加した。探究教材などを製作販売するトモノカイ(東京)が協力した。