私立女子校・晃華学園中学高校(東京都調布市)の探究活動は、中高の6年間をかけてじっくり取り組みます。実験や文献調査といった学習の進め方のうち、どのようなアプローチが自分に向いているかといったことを生徒自身も教員も確かめながら進めるため、進路指導にもつながっていきます。中学の卒業論文とそれを土台に高校1年で手がける探究論文が前半の軸だとすれば、後半の軸となっているのは高校2年の修学旅行とその前後に行う学習です。どんな取り組みなのでしょうか。

 

晃華学園の修学旅行は、高2の秋から冬にかけて3泊4日の日程で沖縄に行くことがもう何年も続いている。一般的な修学旅行と一線を画しているのは、平和学習を中心に組み立てられるその学習量にある。 

事前学習は高2に上がるとすぐ、4月に始まる。まず沖縄の基本情報や歴史を勉強し、見学先の場所を地図で確かめながら、沖縄戦の戦跡はなぜ沖縄本島南部に多いのか、といったことも調べる。朝日新聞の特集紙面「知る沖縄戦」を読んだり、NHKスペシャル「沖縄戦 全記録」の動画を見たりして、沖縄戦についての知識を深めていく。自然環境や生活文化、現在の沖縄が抱える課題などについても学ぶ。

「沖縄戦」など平和学習中心に

現在の高3生は高2だった昨年度の初めからコロナ禍に見舞われ、昨年12月に予定されていた修学旅行は早々に延期が決まったため、学習のスタートも2学期からにずれ込んだ。それでも今年4月の旅行本番に向け、例年同様に念入りな準備を進めてきた。事前学習の最後には、生徒一人ひとりが沖縄についてテーマを決め、魅力と課題を調べてワークシートにまとめた。

現高3生の平和学習関連の見学先は、沖縄戦などの戦争で亡くなった24万人以上の名前が国籍や敵味方にかかわらず刻まれている沖縄本島南端の「平和の礎(いしじ)」をはじめ、同じ公園内の沖縄県平和祈念資料館、陸軍病院の分室としても利用された洞窟「糸数アブチラガマ」、米軍の攻撃を受けて沈没し、1400人余りが亡くなった対馬丸事件の資料が展示されている対馬丸記念館、旧海軍司令部壕など多岐にわたる。当日はこうした戦績や史跡をめぐるのにたっぷり1日半かける。

事前学習(SDGs)
事前学習では、それぞれが関心を持つテーマとSDGsの17目標との関連も考えた=晃華学園提供

そんな旅行を探究的な活動の場にするための工夫の一例は、修学旅行のしおり自体をワークシートとして完成させておくとともに、しおりそのものをバス会社に届けておくことだという。「見学時間をしっかり取っているから『この学校、本気だ』と思ってもらえる。ベテランのガイドさんに踏み込んだ話もしてもらえる」と、理科教諭で進路学習指導部長の林美幸先生は話す。米軍普天間飛行場の横を通る走行ルートも頼んでおいたため、生徒たちはオスプレイの爆音を聞き、生活と基地が隣り合わせになっている沖縄の現実に気づけたこともある。

後半には、美ら海水族館の見学やマングローブ林体験など、気軽に楽しめるプログラムも盛り込んだ。 

SDGs意識し魅力と課題を整理

事後学習は今回、3人1組の班ごとにテーマを決めて沖縄の魅力とともにどんな課題があるか推測し、その解決策を考える新聞記事の執筆に取り組んだ。そこで生かしたのが、中学生の時から親しんできたSDGs(国連の持続可能な開発目標)の考え方だ。3年生の担任で社会科教諭の長岡仰太朗先生は言う。「一つのテーマや課題がSDGsの17の目標と複合的に絡み合っていることを意識し、解決にあたっても複数の視点から高校生の自分たちにできることをイメージするようアドバイスしました」。

事後学習
事後学習でタブレット端末も活用し、新聞記事を編集する生徒たち=晃華学園提供

最後には、朝日新聞が発行する高校の「総合的な探究の時間」の授業向けの教材「探究×SDGs」を使い、事前に提案した解決策を事後学習で見直すことで現実的な解決につながることも伝えたという。

新聞は、朝日新聞のサービス「SDGs修学旅行新聞」を利用し、朝日新聞と同じサイズに49班ごとの大型記事を収めた。ほぼ完成した計16㌻の紙面には、「終わらない沖縄戦」「沖縄の魅力を観光面から探る」「うちなーぬ海どぅ宝」「価値ある琉球料理 伝えるには」といった見出しがずらりと並ぶ。

現地訪れ観光業への見方変わる

「県民7割、普天間存続希望?」と題した記事では、普天間飛行場の辺野古移設をめぐる朝日新聞のアンケート結果をもとに、多くの県民の目標を「基地そのものを沖縄から無くすことにある」と読み解き、米軍基地は沖縄だけの問題ではないとして「私たち県外の人が行動を起こす時」と訴えている。関わりが深いSDGsの目標としては、「すべての人に健康と福祉を」「人や国の不平等をなくそう」「住み続けられるまちづくりを」の三つを挙げた。 

全体を総括する1面は、全部で8人の修学旅行委員が担当した。 大森愛弓(あゆみ)さん(17)は、1面下の沖縄の地図と主な見学地5カ所のイラストを受け持った。説明の文字は委員で話し合ってパソコンのフォントをあえて使わず、手書きの文字を残した。「デジタルな感じになりすぎず、手仕込み感を残したかった」。新聞という不特定多数の人に読まれる形にする以上、どうしたら多くの人の目にとまるか、レイアウトも工夫したという。

関野さんと大森さん
修学旅行委員を務めた関野陽佳(はるか)さん(左)と大森愛弓(あゆみ)さん=東京都調布市

記事を書いた一人、関野陽佳(はるか)さん(17)は「自分たちにできることを考えた一連のプロセスをしっかり伝えたくて頑張った」と話す。自身が関心を持ったのは沖縄の経済。観光業への依存がコロナ禍で沖縄経済をいっそう苦しめているとみていたが、現地でバスガイドや宿泊先の関係者の熱心な話しぶりを聞いて、観光業があるからこそ沖縄を知ることができると気づいたという。観光業を守りながら沖縄全体の経済を上向かせる新たな方策が必要ではないか、と今は思っている。

修学旅行新聞
ほぼ完成した晃華学園高校の「SDGs修学旅行新聞」