企業の展示も、セミナーも、ICT(情報通信技術)教育花盛り――。6月3~5日、東京・有明で開かれた教育イベント「NEW EDUCATION EXPO2021」の雰囲気をひと言で表現するなら、そんなところだろう。コロナ禍でオンライン学習の比重が高まり、「GIGAスクール構想」が始動したいま、ICTとかかわりのないものを探す方が難しいくらいだった。

セミナーの一つに、ICT教育を積極的に進めてきた自治体の首長が集うサミット「GIGAスクールで実現する新しい学び」があった。参加した40市区町村の首長らのうち、会長の横尾俊彦・佐賀県多久市長以外はオンラインだったが、会場は教育、ICT関連事業者ら約80人が詰めかけ、空席はほぼ見当たらない。

「持ち帰り」がオンライン授業に結実

全国に先駆けて教育の情報化に取り組んできた先進地からの報告は、まばゆいばかりだった。

たとえば、ICT教育に踏み出して10年になる熊本県山江村。1年前の緊急事態宣言に伴う臨時休校のさなか、小、中学校ともオンライン授業の実現にこぎつけた。子どもが端末を持ち帰り、家庭学習に活用することを以前から続けていた成果だという。

球磨川上流域の村は昨夏、熊本豪雨に見舞われたが、下流域では流木で漁業に影響が出た。そんな実情を知ってもらおうと取り組んだのが村の小学校と八代市の小学校を結ぶ交流授業。ICT基盤があったからこそ、互いの被災状況に思いをはせることができた。

ICT教育先進自治体が勢ぞろい
全国ICT教育首長協議会が主催し、全国の自治体をつないで開かれたICT教育首長サミット「GIGAスクールで実現する新しい学び」=6月4日

長野県喬木村(たかぎむら)では、端末の利用が授業の枠を越えて学校生活全般に及ぶ。小学校の児童会活動では子どもが企画書をクラウド上で作成し先生のチェックを受ける。中学校では生徒会を中心に端末のよりよい使い方の約束事を自らつくり出すなど、ルールは与えられるものではなく、変えていけるものだということを実践しているという。

学力格差を埋められるか

学びの質が高まり、多様な意見を互いに共有できるというICT教育のメリットには、疑う余地はない。ただ、どこでもできることなのか、地域や学校間、家庭間で「勝ち負け」ができてしまわないかが気がかりだ。

ICT教育の成果として、ある自治体は全国学力調査の正答率の高さを挙げていた。ICTは従来の学力格差を埋められるのか、かえって広げてしまうのか。また、たとえば多様な意見を共有する協働的な学びの成果は、従来の学力観で測れるのだろうか。

サミットには、萩生田光一文部科学相もリモートで参加した。GIGAスクール構想の本格始動にあたり、「だれ一人取り残すことなく、すべての子どもたちの可能性を引き出す新しい学びを実現できるよう取り組んでいく」と述べた。その言葉通り、一人ひとりが今まで以上に大切にされる「GIGAスクール」となることを願っている。