政府の「GIGAスクール構想」が始まりました。すべての小中学生らに1人1台のパソコンやタブレットが配られるなど、学校ICT(情報通信技術)の環境整備が進んでいます。ただ、ICTをどんなふうに授業や学校生活に生かすか、大部分は現場の努力に委ねられています。手探りする学校がまず直面した課題は、アカウントのパスワードでした。

6月1日、川崎市幸区の市立下平間小学校。5年2組の教室に、「Chromebook」(クロームブック)を大事そうに抱きかかえた2年2組の子どもたちが、5年生の後について入ってきた。

縦割り活動を利用、高学年が手伝う

2年2組の子にとって、この日は自分用の端末を初めて立ち上げる特別な日。高学年の子たちに操作を手伝ってもらおうと、同校では異なる学年の生徒が交流する縦割り活動の枠組みを利用することにした。

5年生と2年生がペアを組んで席につく。人数が合わず、2年生1人に5年生2人がつくグループもある。ちょっと緊張気味の2年生の顔も見える。

「2年生の皆さん、こんにちは」。同校教諭の牛田直樹先生(30)が話し始めた。「きょうは5年生に『GIGAたん』の使い方を教わってください。おにいさん、おねえさんたちは普段から使っているので、わからないことがあったらどんどん聞いてね」。クロームブックを、下平間小では「GIGAたん」と呼んでいるようだ。

牛田先生は、2年生にやってもらいたいことを黒板に書き出した。①ログインのしかた②カメラのとりかた③とったしゃしんのみかた④シャットダウン(終了)のしかた、の四つ。5年生に対しては、「2年生は初めてなので、やさしく、何度も教えてあげてください」と背中を押すように伝えた。

パソコンの使い方を学ぼう
小学2年生が「1人1台」の端末を初めて使う日、牛田直樹先生(正面)たちは、5年生に手伝ってもらえるよう縦割り活動の枠組みをを利用した=川崎市幸区の市立下平間小学校

端末配備、96.5%は3月までに完了

文部科学省の調査によると、全国の小・中学校などの「1人1台端末」の整備状況は、全自治体の96.5%が3月末までに納品を終えた見込み。校内通信ネットワークは高校を含め、全学校の97.9%が4月末までに利用を始めたとみられる。昨年度から今年度にかけ、急ピッチで環境整備を進めてきたところが大半だ。

また、調査会社の「MM総研」によると、「1人1台端末」のオペレーティングシステム(OS)別のシェアは、下平間小のクロームブックにも搭載されている「Google Chrome」が43.8%でトップ。「iPad」(28.2%)と「Microsoft Windows」(28.1%)はほぼ同じ割合で並んでいる。

作業が始まると、あちこちの机から小声が聞こえてきた。「点はどうやって打てばいいの」「これだよ」。ログインしようとして慣れない手つきでキーボードを操作する2年生に寄り添い、時折その手を取りながら教えてあげる5年生もいる。

ところで学校の「1人1台」の端末も普通のパソコンと同様、ログインにはIDとパスワードの入力が必要だ。パスワードは通常、意味のないローマ字と数字を複数組み合わせたものが割り当てられている。

1、2年生はまだローマ字習わず

問題は、ローマ字は学習指導要領では小学3年で習うことになっており、1、2年生はまだ習っていない、という点だ。何とかローマ字の入力をしなくてもログインできるようにできないか――。同校の情報担当教員でもある牛田先生は、子どもたちが端末を使い始める前の4月に、全児童512人分のパスワードを数日かけて変更した。低学年の子でもわかりやすいよう、それぞれの出席番号などを組み合わせた。ローマ字はできる限り減らしたかったが、どうしても2種類は使わざるを得なかったという。

「そう!できたね」。ログインに成功し、5年生のおねえさんにほめられて照れくさそうな男の子の机の上に、IDとパスワードがプリントされた名刺大のカードがあった。各ペアとも、このカードを見ながら入力していた。反対側が名札になっており、普段は担任の先生が保管している。

一方、5年生には、牛田先生が変えたパスワードから、さらにそれぞれが好きなものに変更してもらった。忘れても困らないよう、各自の連絡帳に貼っているという。

使えるようになりましたか
小学5年生の力を借りながら、「1人1台」の端末の使い方を学ぶ2年生。左端は牛田直樹先生=川崎市幸区の市立下平間小学校

ログインした2年生たちはその後、5年生の手ほどきを受けながら内蔵カメラで写真を撮り、キーボードをたたんでタッチパッドであれこれ試してみた。扱いに慣れたころ、授業が終わろうとしていた。

「教職員間の情報共有を大事に」

牛田先生が前に歩み出て、2年生に話しかけた。「きょう、楽しかったひとー」「何となく、わかったよ、っていうひとー」。いずれも全員の手が上がった。「じゃあ、ちょっと不安だなーっていうひとは」の問いには、1人の手も上がらなかった。

全校で「1人1台」端末の利用が始まり、牛田先生は「これから授業や学校行事など、さまざまな場面で端末を効果的に使えるチャンスがあると思います」と気を引き締める。「先生が『知らなかった』となるともったいない。うまくいったことは他のクラスでも取り組めるよう、うまくいかなかったことは他のクラスでは改善できるよう、教職員間での情報共有を大事にしていきたい」