皆さん、学部卒業・大学院修了、誠におめでとうございます。学部卒業生1,669名、大学院修了生841名及び専門職学位課程修了生25名の方々がここ常盤台キャンパスから飛び立つことになりました。皆さんの在学中の勉学、研究に向けたご努力に敬意を表します。そして、今まで卒業生・修了生の皆さんを温かく見守ってこられたご家族、関係者の皆様にも、本学へのご支援・ご協力に感謝申し上げるとともに、お慶び申し上げます。

このたび、新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から、やむなく全体の式典を中止することとしました。卒業生・修了生の皆さん、ご家族の皆様が楽しみにこの日を待っておられたお気持ちを考えますと、辛い決断ではございますが、5000人近い参加者の皆様の健康確保を最優先に考えた判断をいたしました。卒業生・修了生の皆さんは、4月から就職・進学など新たな進路に羽ばたいていかれます。その際、安心して新たな一歩を踏み出せるよう、また国内外での感染をこれ以上広げないよう、皆様にご理解を賜りたく、お願い申し上げます。全体の式典は執り行いませんが、卒業生・修了生の皆さんが本学での学びを貫徹し、新しい門出を迎えることは、本学教職員一同誠に大きな慶びです。本学の教職員を代表して、改めてお祝い申し上げます。

さて、今回の新型コロナウィルスの感染が世界的に拡大している中、海外渡航制限や自粛による経済活動の大幅な縮小は社会経済に大きな影響を及ぼしており、21世紀社会の不透明性は一層高まったといえます。2016年に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)以降、世界の現状を表す言葉として「ブーカ」が登場しました。ブーカとは、「Volatility」(変動性)のV、「Uncertainty」(不確実性)のU、「Complexity」(複雑性)のC、「Ambiguity」(曖昧性)のAからなる言葉で、「あらゆるものを取り巻く環境が複雑性を増し、将来の予測が困難な状態」を指し、まさに現在はこのVUCA社会が出現しているといってよいでしょう。

「変化が激しい」「先が見えない」とはいつの時代も言われることですが、現在は明らかにVUCAの度合いが加速しています。その理由の1つは、テクノロジーの進化するスピードが猛烈に早いということです。インターネットと携帯電話が融合したスマートフォンの登場で、個人一人一人が自由に情報検索、ショッピングできるようになり、最近では金融決済、認証手段としても利用されるようになりました。また、量子情報技術も飛躍的に発展し、従来20年から30年先だといわれていた量子コンピュータの実用化がはじまり、ビットコインなどに利用される暗号技術に代わる研究開発が急がれています。それに加えて、地震・津波や台風など自然災害の大規模化なども挙げられます。

このようなVUCA社会を生き抜くために、何が必要でしょうか。本学の卒業生、修了生として特に自覚を持って欲しいこととして、2つ挙げたいと思います。

1つ目は、研究する心を持ち続けるということです。不透明な時代では、正解の無い問題にチャレンジすることが重要であり、過去の経験の延長だけで解決策が出てくるものではありません。必要なことは、自然や社会の急激な変化に対して常に関心と好奇心を持って接し、自分の頭で考え、自分の言葉で答えを見いだそうとする「研究する精神」です。大学では、研究室やゼミナールの演習において、これら研究遂行のプロセスを身につけることを何より大事にしています。大学、大学院を卒業、修了された後も、この研究する精神を忘れないでください。

2つ目は、複眼的思考を身につけるということです。予測困難な社会においては問題が複雑に絡み合っており、教育学、経済学、経営学、工学、理学など既存の専門性だけでは解くことは困難です。文系と理系双方に知見を持つと同時に、他の分野の人とコミュニケーションをとることで自らの考えを相対化し、より良い解決策を探ることが必要です。これは、学問分野だけでなく、多様な立場や価値観を持つ人々と積極的に交流することも含まれます。多様な交流は新たなアイディアや価値の創造に繋がり、このことはダイバーシティとインクルーシブ社会にも貢献することにもなるでしょう。
皆さんが、以上に述べたような研究心と複眼的思考をもって、世界や日本、そして地域のいろいろな場所で今後活躍することを期待します。

最後に私からのお願いがあります。大学は、学術を究めるための、学生、教員、職員からなる組織ですが、これに加えて卒業生の皆さんも含めた一つの共同体、コミュニティです。本学には、教育系同窓会である友松会、社会系同窓会である富丘会、理工系同窓会である名教自然会などがあり、現役学生の支援、卒業生同士の縦の交流活動を活発に行っています。また、卒業生、同窓会の横の交流を繋ぐ組織である校友会では、学部を超えた現役学生の交流、そして業種や分野を超えた卒業生交流を推進しています。現在、11万人を超える卒業生、修了生が様々な分野で国内外において活躍している実績があり、人文系、社会系、理工系が揃ったバランスのあるコミュニティであることが本学の強みの一つでもあります。専門性や年齢、国境を超えた交流は皆さんが学びや研究を継続する上で、知的好奇心を高め、多様な人間関係を構築する良い機会となるでしょう。また、教員はいつまでも相談に応じますし、大学も、大学院における社会人の受入、公開講座などの形で常に皆さんに門戸を開いています。これからも是非、横浜国大のコミュニティの一員であるということを忘れないでください。

4月から新しく始まる皆さんの人生には、いまだかつて私たちが経験のしたことのない困難が待ち受けています。その困難に立ち向かうために、フランスの大統領であったシャルル・ド・ゴールの言葉を送ります。気骨のある人(Man of character)は、困難に対して特別な魅力を感じるものである。なぜなら困難に立ち向かうことで、自分の潜在能力を自覚することができるからだ、という意味で、次のように語っています。

A man of character finds a special attractiveness in difficulty, since it is only by coming to grips with difficulty that he can realize his potentialities.

皆さんが、明日からも心身ともに健やかな人生を歩まれ、横浜国立大学で学んだことをプライドとし、21世紀社会を切り開く推進役として成長されますことを心から祈念して、私からの祝辞といたします。

横浜国立大学
学長 長谷部 勇一