卒業おめでとう

高校3年生の諸君、開成高等学校の卒業おめでとう。

私は自信と誇りを持って、諸君を開成学園の卒業生として、送り出すことができることを大変嬉しく思う。諸君が開成で過ごした時間の中で、いろいろなものを身に付けただろう。知識量は飛躍的に増加しただけでなく、知識を学ぶ自分なりの方法も確立したに違いない。部活では自分の素質を花開かせ、得意分野に自信が持てるようになり、学校行事ではそれぞれの得意分野を統合して、チームとして大きな目標にチャレンジし、達成した時の喜びを分かち合う経験もしただろう。

自主的に、自律的に時間を過ごすことによって、諸君は開物成務に由来する開成の精神を理解したはずだ。

これからの長い人生を諸君は開成の卒業生として、創立以来148年の長きにわたって積み上げてきた開成の伝統を乗り越えて、新しいページを、新しい時代を作り出していってほしい。

判断と決断

例年の卒業生が体験として学ぶことがなかった事柄を、諸君は自らの卒業式を通じて学んでいる。新型コロナウイルスへの感染予防のため、直前になって卒業式の会場が変更になり、規模も小さくなった。感染を防ぐために、いろいろな組織で、つまり開成でも国でも、意思決定がなされている。

意思決定は判断、及び決断によってなされると私は考えている。判断とは、取りうる多くの選択肢を論理的に比較検討すれば、一つの解に到達する場合に行われる意思決定で、決断とは、論理的比較検討を行うには、情報やデータが不足している場合でも、アクションを取らなければならない緊急を要する状況下で、行われる意思決定である。

リーダーの意思決定は、判断に依って行われることが多いが、時には、データも情報を不十分な状況で、未来に向かって意思決定を迫られることがある。その決断の成否は、歴史の審判に委ねられ、時間が経過し、事態が収束した時、行われた決断が妥当なものであったか否か、検証されるであろう。

妥当な決断であると評価された場合には、決断したリーダーは歴史に名を残す栄誉を得る事ができる。不適切であったと評価されたリーダーは歴史から名を消されることになる。すなわち、結果責任を負うことがリーダーには求められる。リーダーとは、論理的にはどの選択肢を選ぶべきか判断できない不十分なデータの下で行った決断に対して、未来に向けて結果責任を負う役割なのである。

そして決断とは、社会的リーダーのみが行うことなのだろうか?自分には無関係のことなのだろうか?我々にとって、未来は常に不確実である。我々にとって、人生の進路は数多くある選択肢の中から、不十分な情報の下で、未来に向けて選ばなければならない。我々全員が決断をしなければならない。すなわち我々全員が、自己の人生に対しては、決断を重ねるリーダーである。

諸君はこれから多くの人生の岐路に出会うであろう。決断した事柄の結果責任は、諸君自身が負うことになる。適切な決断を行うには、数多くの先人の人生に学んで欲しい。

リスクのある決断ではなく、より多くの岐路で、論理的に選択が出来る判断、安全な選択が行えるように多くの知識を集積して欲しい。適切な判断が出来るように、学び続けて欲しい。そして果敢な決断ができるように、挑戦し続けて欲しい。

最後に

私の小学校の恩師が教えてくれた、私の座右の銘を紹介します。

学問とは、それ自身が尊いものではない
学べ、学べ
学んだすべての物を
世の人のために尽くしてこそ
価値があるのだ

社会的リーダーに成る、成らないに関わらず、自己の人生に対して、リーダーシップを発揮して欲しい

諸君の前途に幸多からん事を祈る。

開成高等学校卒業 おめでとう

開成高等学校
 校長 柳沢幸雄