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【朝日新聞Thinkキャンパス】理工系学部に進む女子学生が少ないことが、課題となっています。大学入試で「女子枠」を設けて、女子の理工系学部への進学を増やそうという取り組みもあります。OECD(経済協力開発機構)が38の加盟国で実施している学習到達度調査「PISA」の結果から、日本の現状を分析します。数学や科学の力はあるのに、理系へ進学する女子が少ないのはどうしてなのか。世界の国々と比べて、何が違うのでしょうか。(写真=Getty Images)

男女のスコア差が縮まった

PISAは、 OECD加盟国15歳を対象に、「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の3分野について、3年ごとに実施している調査です。日本は2000年から参加し、高校1年生を対象としています。

公益財団法人山田進太郎D&I財団では、22年に実施された最新調査をもとに、男女のスコアの差と工学部進学率の関係を分析しました。同財団は、多様な人材を受け入れ、その能力を発揮させる「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」の推進に寄与することを目的に設立され、理系に進む女子高校生のための奨学金制度や女性の理系人材の育成に取り組んでいます。

では、PISAの調査結果を分野ごとに見ていきましょう。こちらはOECD加盟国による比較です。数学的リテラシーの順位は、日本がトップになっています。

読解力でも、日本はアイルランドと同点1位となっています。

最後に科学的リテラシーの順位です。こちらも第1位となっています。

同財団で調査の責任者を務める大洲早生李(さおり)さんによると、日本は前回と比較して、3分野すべての平均得点が上昇しています。さらに数学的リテラシーと科学的リテラシーについては、12年の調査以降、過去最高スコアを記録しています。

日本におけるPISA調査項目3分野の平均点数(OECD加盟国における日本の順位/全参加国・地域における日本の順位) 出典=山田進太郎D&I財団

「私たちが注目したのは男女のスコア差です。PISAの調査では、読解力は女性のほうが高く、数学的リテラシーは男性が高いという世界共通の傾向があります。日本の過去4回分のスコアを比較してみたところ、読解力はその傾向と同様に女性のほうが高く、科学的リテラシーと数学的リテラシーについては、回を追うごとに男女の差が縮まっており、科学的リテラシーは18年の前回調査で差がゼロになっています。数学的リテラシーは、12年は18点差でしたが、22年は9点差と、その差が大幅に縮まっています」(大洲さん)

日本におけるPISA調査項目3分野の男女スコア差。*PISA2022の科学的リテラシーの男女スコア差に関しては記述なし 出典=山田進太郎D&I財団

女子の工学部進学率が低い

日本ではOECDの中でも、「自然科学・数学・統計」「機械・工学・建築」など、STEM分野といわれる理工系学部に進学する女性の割合が極端に低いことがわかっています。そこで同財団は、数学的リテラシーの男女のスコア差が日本より大きいにもかかわらず、工学部の女性入学比率は日本より高い国をピックアップしました。

各国のPISA2022の数学における男女のスコア差と工学部の女性入学比率 出典=山田進太郎D&I財団

21年の工学部の女性入学比率を見ると、20%を超える国が多くあるなかで、日本は16%と非常に低いことがわかります。

「この表からいえることは、日本は数学をはじめとしたSTEM分野の能力や適性がある女性はたくさんいるのに、それを生かした進路選択ができていない人が多いということです」

国が主導して進めることが大事

では、女性の入学比率を増やしている国はどのような取り組みをしているのでしょうか。大洲さんらは日本と文化や政治背景が似ており、女性の入学比率が15年の22%から21年に28%と大きく増えたオーストラリアに注目し、その理由を調べてみました。

そこでわかったのは、国が強力なリーダーシップをとって、女性のSTEM政策を推し進めていることでした。産業界と教育界のリーダーが集まって、STEM教育の質を向上させて、21世紀の職業で必要とされるスキルを学生に習得させる戦略を立てています。
「オーストラリア政府は19年に『女性のSTEM10カ年計画』への取り組みを発表し、現在もプロジェクトを進行中です。STEM分野の女性比率を高めるために、政府と非営利団体が連携して、女子にプログラミング授業を提供したり、ドローンなどのハイテクやデジタル技術を教える取り組みを全国の学校とともに実施したりしています。」

表には載っていませんが、ドイツには年に1回、政府が資金提供をして支援する「ガールズデー」に、女性比率が40%未満の職業を対象に、10~15歳の女子生徒が職場体験に参加できるプログラムがあります。

ドイツの「ガールズデー」で職場体験をする女子生徒たち(写真=山田進太郎D&I財団提供)

将来、女性比率が低い職種、特にSTEM分野に進学する人やSTEM分野の仕事に就く女性を増やそうというドイツの施策で、毎年、大きく報道されます。23年には、1万件以上の事業所に12万人以上の女子生徒が参加しました。また、アメリカでも多額の予算を使い、女性のほか、有色人種やLGBTQの人たちにSTEM教育を実施しています

日本では、内閣府の男女共同参画局による「理工チャレンジ」(通称・リコチャレ)があります。他国と同様に、産官学が一緒になって理工系女性を増やす取り組みを行っていますが、予算の規模が違い、「プログラムをもっと周知させ、協力してくれる大学や企業を増やすことが大事です」と大洲さんは言います。

「私たちが財団を設立した大きなきっかけは、代表理事でメルカリ創業者の山田進太郎が、社員の多様性を求める視点からエンジニア(技術職)の女性を採用しようとしたところ、人材そのものがおらず、人が全く集まらなかったという経験によります。D&Iの観点をふまえた働き手の確保という意味でも、このミッションは急務なのです」

理工系へ進む女子学生が増えるか否かは、今後の日本社会の発展に大きな影響を与える課題です。理工系の大学の「女子枠」がどのぐらい効果を上げていくのかなど、今後の大学の取り組みと女子の動きが注目されています。

(文=狩生聖子)