検証を経てオンライン授業が進化
中村 昨春の休校期間は、授業スタイルの確立に苦労した学校が多いようです。高槻はどう進めたのでしょうか。
工藤 数年前からデジタル端末を用いたICT授業を全校で導入しており、対面からの切り替えは比較的スムーズでした。昨年は、Zoomによる同時配信を併用した入学式を実施してすぐの週末に、オンライン授業の教員講習をし、翌週から週4日、1日6コマ各40分の授業を始めました。
中村 それはとても早い対応ですね。
工藤 オンライン授業は2カ月続きましたが、生徒・保護者のアンケートでも評価していただきました。ただ、授業は進められたものの、パソコン画面を見続けることによる目の負担に関する声が寄せられました。そこで今年は1コマ40分で休憩は20分、1日5コマまでという全校統一フレームを設定しました。感染状況によっては、今後また休校要請が出ないとも限りません。対面・在宅をスイッチできる体制が整ったので、シームレスに対応していきたいと思います。
男女共学化が一層の切磋琢磨につながる
中村 2017年に男女共学校となりました。かなり変わりましたか。
工藤 授業や学校行事への積極性が高まりました。学校生活全般において、切磋琢磨する様子が見て取れますね。傾向として、中学入学当初は女子が優勢ですが、男子が徐々に追い上げていきます。高校入試がないだけに、これまでは中3と高1でどれだけ生徒の力を伸ばせるかを課題にしてきましたが、この学年を担当する教員も生徒一人ひとりの取り組み方に違いを感じているようです。
中村 再来年は共学1期生が高校を卒業していきますし、6年の成果は楽しみですね。
工藤 そうですね。生徒の奮起は喜ばしいですが、学校としても進路選定の支援を手厚くすべく、この春から、担当教頭、外部から登用した進路指導コーディネーター、進路指導部長、進学指導チーム部長などで構成し、私が座長を務める進路指導中央会議を発足させ、学校の進路指導の方向性を定め、生徒達を多角的かつ組織的にケアする体制をつくりました。教員の進路指導への意識向上や保護者に対する的確な情報提供にも効果が表れつつあると感じています。
中3からのコース制で意欲を高める
中村 高校はSGH(Super Global High School)ネットワークとSSH(Super Science High School)に指定されています。両方は珍しいと思いますが、改めて高槻中高の教育の特色を伺えますか。
工藤 本校の学びの柱は、グローバル教育と先端的ライフサイエンス教育です。スクールミッションとして「卓越した語学力や国際的な視野を持って、世界を舞台に活躍できる次世代のリーダーを育成する」ことを掲げており、学外との連携を生かした探究型の学びを重視しています。
中村 2本柱を取り入れたコースでの探究学習ですね。いつ分かれるのでしょう。
工藤 中3です。三つ設けており、海外大学と連携した課題解決学習やフィールドワークを数多く取り入れるGA(Global Advanced)、SSHプログラムの一環で先端科学やデータサイエンスなどに触れるGS(Global Science)、クリティカルシンキング(批判的思考)を学びトップ人材の講演・討論などでリーダーのありようを肌で感じるGL(Global Leader)から、希望を取ります。
中村 早いタイミングで選択することになりますね。
工藤 まさにそこが狙いです。この時期にどれだけ先をイメージさせてあげられるか、それが高校での伸びにつながると考えています。生徒たちは、中2の学年末に上級生による「全校課題研究発表会」を見学し、希望を提出します。コースには定員がありますが、あくまで生徒の主体的な判断がベースです。
中村 コースごとの催しなどもありますか。
工藤 かなり多いですね。他学年のテーマにも、目を向けられるようにしています。探究の学びですから、深めていくとどうなるかが生徒に見えることが大切です。発表を見聞きする、あるいは自分たちの発表に先輩たちが意見してくれる、そういうことで意欲を高めていきます。
中村 ロールモデルがいれば、ますます身が入りますね。
中高大の連携による「本物の学び」
中村 医学部進学が増えていますが、中学から志望する生徒は多いですか。
工藤 一定数います。大阪医科薬科大の同一法人という利点を生かし、中学生から臨床に関する講義を聞いたり、大学内のメディカルトレーニングセンターで縫合などの実習体験をしたりと様々なプログラムで接点を設けています。なかでも、医学部の教員による全8回の基礎医学講座は大切にしてきました。医学の専門的な話だけではなく、この道を選んだ過程、仕事のやりがいなども語っていただくのですが、医学部への推薦入試を希望する生徒には、このプログラムを必修としています。偏差値が高いから医学部を目指すのではなく、志を持って向き合ってほしいのです。
中村 高校ではこうした外部連携をさらに広げていますね。
工藤 国内外の大学とのグローバルプログラムを多数実施しています。例えば、大阪大学との連携から生まれたパラオのフィールドワークが象徴的です。食生活、インフラ、健康状況、学校教育などの様子を調べ、現地高校の生徒と交流学習をします。さらに閣僚や局長級の官僚から話を聞き、国立病院なども訪問しました。昨年度はその調査を生かし、英語で提言書を作成してパラオ政府の大使にお渡ししました。
中村 かなり本格的です。
工藤 なかなか大変ですが、課題研究の意味は、いくばくかでも実社会に影響を及ぼすことにあると思います。生徒たちのモチベーションが上がりますし、政府に届けるものならば、もうこれは授業時間内の「作りもの」ではないと。こういうことを友人と協働しながら進める力、自制・自律やコミュニケーションといった非認知能力が、不透明な時代には不可欠だと言えるでしょう。部活動などだけではなく、正規の教育のなかで自然に育めるよう、各プログラムに落とし込んでいます。昨年は残念ながら実施できなかったのですが、復活させたいですね。「本物の学び」が必要です。
中村 楽しみにしている生徒は大勢いるでしょうね。オンラインプログラムなどは取り入れていますか。
工藤 高1から受講できる、スタンフォード大学のオンライン講座があります。7年前から実施しているのですが、スタンフォード大学の教授陣が世界各地で取り組むグローバルヘルスのプロジェクトなどを解説してくれます。講義の最後にはQ&Aセッションがあり、講義の事前事後にはアサインメント(課題)が出されます。土曜の午後に各1時間、全8回で、およそ半年のプログラムです。一定の基準を満たせば、本校とスタンフォード大の校章があしらわれた修了証を手にすることができます。その時の生徒の表情は、達成感に満ちています。
世界基準の英語教育で力を伸ばす
中村 高校進学直後からこうした語学プログラムに対応できるのは、中学からの学びの成果だと思います。英語教育はどうされていますか。
工藤 昨年度から日本で初めてのケンブリッジ大学出版のベターラーニングパートナー指定校として、世界標準の教科書で英語4技能の向上に取り組んでいます。本校教員がケンブリッジ大学の専門トレーナーに助言を受け、熱心に指導に当たっています。英語検定の結果でも手応えを感じているところです。
中村 グローバル人材の育成を掲げるからこその世界標準ですね。
工藤 そうですね。また、授業に加え、「グローバルセミナー」のスピーカーとして様々な国から若手研究者を招いています。なかにはなまりの強い英語で話す方がいますが、学年が上がるにつれて生徒たちは質問できるようになっていきます。やはり何事も経験、どんどん触れていくことが大切です。語学をはじめ、世界で通用する「本物の学び」で、次代を担う若者たちの力を引き出します。
高槻中学校・高等学校
工藤 剛 校長
くどう・つよし/1966年生まれ。関西学院大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。96年に高槻中学校・高等学校に英語科教諭として着任。2018年から現職。