いま、地球が大変だ。CO2の増加によって気候変動が起こり、世界的に大災害が相次いでいる。人間が出したプラスチックごみが海や河川を汚染している。このまま進むと、わずか数十年後に、わたしたちの地球は人間の住めない星になってしまうという予測もある。国連は2015年、SDGs(持続可能な開発目標)を決めた。東京理科大学では、いま、研究力で「人類最大の課題」に立ち向かっている。髙柳英明・特任副学長 兼 研究推進機構総合研究院長、二瓶泰雄教授(理工学部土木工学科)、飯田努教授(基礎工学部材料工学科)にお話を聞いた。

毎日100種の生き物が絶滅している

――今年も非常に暑いですね。年々気温の上昇を感じます。なぜCO2がこんなに増えてしまったのでしょうか

飯田 地球ができたころは、大気の温度は200℃くらいでした。大気中にあったCO2を、地球は何億年もかけて、CO2の濃度を下げるように海の中や植物が取り込み地面のなかに凝縮してため込んできました。それを今、人間が掘り起こし、大量に放出しているんです。

エネルギーは大きく分けると三つあります。まずは、石炭、石油、天然ガスといった、なじみ深い化石燃料です。それから、太陽光や風力などのエネルギー、そして、原子力です。原子力はCO2の面ではよいかもしれませんが、数千年、数万年先まで放射性の廃棄物が残ってしまいます。化石燃料は掘り出しやすいし、運びやすい、人間からすると一番便利で使いやすいエネルギーです。しかし、CO2を出してしまう。

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基礎工学部 材料工学科 教授
飯田 努

――地球が長い年月かけてやってきたことと、人間が逆方向のことをしているんですね

飯田 「このままの状態でCO2が増えていくと、2100年には人間が生きられなくなる」と予測する研究もあります。最近、アメリカの研究グループが発汗による体温調節機能からみて人体の限界気温を推定していますが、摂氏43度になるとそろそろ限界だそうです。日本は特に湿度が高いので、汗によって体温を下げる機能も働きにくい。最近では夏の気温が38度といった地域も複数ありますから、限界がもう目の前に来ているのかもしれません。

気候変動や開発などによって、気付かないところで、1日100以上の動植物の「種」が絶滅しているといわれます。食物連鎖の頂点にいる人間にとって、生態系が壊れるということは、生きている環境が成り立たなくなるということで、非常に深刻なことなんです。人間といえども、地球上の一生物であるということを認識しなければなりません。

――近年、豪雨による水害も非常に多いです。これも気候変動によるものでしょうか

二瓶 日本は、険しい山を抱え、台風が多いなど、もともと水害が起こりやすい国です。それにしても、異常に暑かったり、季節はずれに雪が降ったりと、昔では考えられないような異常気象がしばしば起こっています。

昨年、西日本豪雨が発生して、245人の方が犠牲になりました。平成最悪の豪雨災害といわれ、被害額は1兆2千億円を超え、国土交通省は単独の雨では過去最も被害額が大きかったと発表しました。これまで記録的な水害が起こっても、気候変動とは関連づけられてきませんでしたが、昨年の西日本豪雨について、気象庁は初めて「気候変動の影響」と認定しました。

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理工学部 土木工学科 教授
二瓶 泰雄

有毒物質が分解されないまま生物濃縮する

――海洋の環境汚染も深刻です。プラスチックごみの調査研究もされています

二瓶 プラスチックの製造は1950年代から増え始めましたが、10年後の1960年代にはもう海で見つかっています。今世紀に入り、そこら中の海がごみで汚染されています。清掃をしてもしても、まったく追いつかないほどです。

プラスチックは水に浮くものが多いので、さまざまな有害化学物質を吸着しながらあちこちに運ばれてしまいます。それをいろんな生物が食べてしまう。昨年、神奈川県で鯨が打ち上げられましたが、たくさんのレジ袋をのみ込んでいたことが話題になりました。日本の沿岸では多くの魚からプラスチックが見つかっています。マイクロプラスチック(※1)の問題は、より小さな生物が食べることですね。

人体からもマイクロプラスチックが見つかっているという報告もあります。マイクロプラスチックには有害な化学物質が吸着し、それが環境中に残り、分解されないまま生物濃縮されます。自分たちの生活が海ごみの発生に関わっていて、巡り巡って自分たちに返ってきている、という状況です。

(※1)マイクロプラスチック 直径5ミリ以下のプラスチック片。容器やレジ袋などのプラスチックごみが流れや紫外線の作用で劣化し微細な破片となる。魚や海辺の生き物がエサと間違えて食べてしまい、海洋汚染が深刻だ。水道水や食塩などから検出されているほか、人体から検出されたという報告もある。
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捨てられるエネルギーをもう一度利用する

――わたしたちの住む地球はいま、待ったなしの危機的な状況なのですね。どのように立ち向かわれているのでしょうか

飯田 CO2削減の点から、化石燃料を源とするエネルギーの消費には今後制限をしなくてはなりませんが、そうはいっても、今のわれわれの社会で化石燃料の使用をすぐにゼロにすることはできません。エネルギー用燃料としてだけでなく、社会生活で必要なものを製造する化学工業と連動しているからです。そこで、化石燃料を使用する際にできるだけエネルギー変換効率を高めることで全体として使用する化石燃料を削減できるようなエネルギー変換材料の研究をしています。

石油を発電所で電力に換えたり、車の動力にしたりしているわけですが、例えば火力発電所で実際にエネルギーとして使われるのは、使用する化石燃料を100とすると電気エネルギーとして利用できるのはおよそ50ほどです。実に化石燃料の半分が未利用になっていることが多くあります。未利用で捨てられている割合を50から40、さらに30へと減らすことができれば、結果としてかなりCO2を減らせるはずです。

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エネルギーを使うと同時に熱が排出されます。この熱は通常はそのまま未利用熱として大気中に放散され地球を温めることになりますが、この未利用熱エネルギーを簡便に電気エネルギーに変換できれば、化石燃料の消費量を減らすことができるのです。食品工場ではお湯がたくさん捨てられていますし、金属材料を扱う工場であれば金属を高温で溶かして加工します。そうした工場の中の熱源に対して、また、自動車エンジンから出る排気熱を電気に換えてエネルギーの再利用をしたり、捨てられる熱を熱のまま違う用途で使ったり、排気熱エネルギーをもう一度エネルギーとして再利用する機器の技術開発をしています。

「発電所」というと、巨大なイメージを持つかもしれませんが、熱を電気に変換する「熱電池」はほんの指先ほどの大きさのものもあります。熱を集めて再利用する、そうですね、身の回りの熱のあるところを全て「小さな発電所」にすることができれば、わずかずつでも、積もり積もって大きな化石燃料の削減につながるはずです。今のまま大量の化石燃料を使いCO2を出し続けると、2040年には地球の平均気温が2〜3℃上がり、気候変動で取り返しのつかないことになるといわれています。そうなる前に、できるだけ早くと思い「小さな発電所」で使うための熱を電気に変える材料の研究開発を学生のみなさん達と日々がんばっているところです。

研究で「数字」を示し、一人ひとりの意識を変える

――プラスチックごみはどうしたらいいでしょうか

二瓶 これくらい大きな問題になっているのに、海ごみはどこからどれくらいのものが出ているのか正確に分かっていません。発生源とみられる陸域や河川の実測データすらほとんどないのが実情です。

データを正確に取ることが、勝負の分かれ目になると考えています。2015年ころからマイクロプラスチックの問題に関わるようになって、全国40以上の河川を調査しましたが、すべての川でマイクロプラスチックが見つかっています。人が住んでいないような上流からでもです。市街地では非常に汚染が進んでいます。

学生たちと一緒に川にネットをかけて採取したり、市街地を回って調査したりしています。ごみは川の表面を浮かんで流れることが多いので、動画を撮ってプラスチックごみを抽出する技術も作っています。

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――実際の状況が見えるようになると、対策も考えやすいですね

二瓶 日本人は1年間でプラスチックのごみを1人当たり約32キロ出しているといわれています。32キロをどうやって減らしていくか……と考える。ペットボトルを1日1本買うと年間8キロにもなります。それをやめるだけで4分の1になります。その次がレジ袋。これも積み重なると年間数キロにもなります。それから、お弁当などの容器類ですね。自分たちの生活をちょっと工夫して、減らせるものから減らしていく。そうしたことが環境にとって、どれくらい負荷を減らしたことになるのかを研究で示していけたらいいと思っています。

学部・学科、キャンパスの壁を越えて技術力を結集する

――今日の二人の先生のお話は、SDGs17の目標のうち、科学技術に期待される「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」(目標7)、「気候変動に具体的な対策を」(目標13)「海の豊かさを守ろう」(目標14)に大きく関わっています

髙柳 東京理科大学では以前から環境問題やエネルギー問題を意識した研究は進めていたのですが、2015年に国連から具体的に発表されて、大学全体としても、目標意識がはっきりできたと思っています。

エネルギーにしても環境の問題にしても、個々の技術で対応できるようなものではありません。いろいろな分野が相関していますから、総合的に挑まないといけない。理工系の総合大学としての技術力を結集するため、「研究推進機構総合研究院」という横断的な研究組織があります。例えば、エネルギー関連なら、電気系、機械系、化学系、材料系……といったようにチームを作って研究ができるんです。研究部門を主体とした各研究組織に加えて、7研究センター、21研究部門、および2共同利用・共同研究拠点を結んでいます。約400人の研究者が属し、現在30ほどの研究が動いています。

学生にとっても、自分の専攻以外の学科・分野の学生と相互に協力し合いながら研究できるのはとてもいい環境だと思います。今後は、外部の研究機関との連携をさらに進めていきたいですね。

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特任副学長 兼 研究推進機構総合研究院長
髙柳 英明

飯田 CO2削減と気候変動への取り組みは地球規模でどうするかという非常に大きなテーマです。一人一人の持つ力は小さいかもしれませんが、持続可能な社会に貢献できるようなことを一つひとつきっちりやっていく。そういう意識を持っていれば、これからさまざまなことに挑戦できると思います。次の時代を生きる若い人たちにぜひ興味を持ってもらい協力してほしいと思います。

二瓶 専門性を持ちつつ、広い知見を持つことが大切ですね。なんといっても、挑戦する力が大事です。一緒にやりましょう。

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東京理科大×SDGs(クリックでサイトを開きます)