東京・目黒区の住宅街にある八雲学園中学校高等学校は長年、米国の姉妹校との交流を深めてきた。初夏には新型コロナ禍を乗り越え、日本語を学ぶ米国からの高校生14人が7年ぶりに来日、生徒宅にホームステイして学校を訪れた。八雲学園の生徒にとっては、コミュニケーションで当初苦労しつつも米国の高校生と距離を縮め、互いを知る機会となった。日頃授業で学ぶ英語を使う貴重なタイミングとしてだけでなく、初対面の人と打ち解ける積極性や価値観の「多様性」を学ぶ機会に―。八雲学園の先生たちが期待したことは、生徒たちに十分に伝わったようだ。

100年超える歴史の名門校と交流

 今年6月上旬、中学3年生から高校2年生の学年にあたる、米カリフォルニア州・ケイトスクールの生徒14人が学校に姿をみせた。「Cate in Japan」と銘打つ、今回で10回目になる交流プログラムだ。
 ケイトスクールは1910年創設で100年を超える歴史を持つ、カリフォルニア州南部の名門校だ。生徒に対する教職員の比率が5:1と少人数制での教育で、日本や韓国、中国、メキシコなどの留学生も在籍する国際的な環境も売りの一つだ。
 ケイトスクールでは選択制で日本語学習の授業もあり、来日した生徒たちは約1週間にわたり、日本語を使って日記を書いたり、書道体験をしたりしたほか、アニメなどポップカルチャーで知られる秋葉原を訪れるなど、校舎内外で日本文化を満喫した。

ケイトスクールの生徒を囲むランチタイム
ランチタイムはケイトスクールの生徒を囲む、にぎやかなものとなった

「違いがあって当然」交流から気付いてほしいこと

 一方、八雲学園の生徒にとっても交流プログラムから得られる経験は大きい。
 「次世代のグローバルリーダーを育てます。」と銘打つ八雲学園では、英語教育に力を入れてきた。中学生と高校生を対象に、英語力を伸ばし、異文化体験をするケイトスクールへの海外研修プログラムを長年実施。また、通常のカリキュラムでも英文の暗唱コンテストや英語劇を披露する「英語祭」など英語に関係する学内行事を数多く用意する。
 さらには、英語の授業でもネイティブ講師だけが担う回を中1から週4時間設定。英語を話さないと授業が成り立たない状況をつくり、生徒の積極性を引き出し、英語への苦手意識を減らすねらいからだ。

 それでも、英語を話す同年代との交流や、多様な人種・文化的な背景を持つ米国の生徒たちの様子を間近でみて、感じて、考えることから得られる経験は、ほかに代えがたいものだ。日本の学校で学んでいる英語がどこまでネイティブスピーカーに通じるかを試し、横並びで、均質的であることが好ましいともされがちな日本社会との違いを通して、知らず知らずに「多様性」を意識する絶好の機会だからだ。

 「学校の中には、(服装や価値観で)『同じでなくてはならない』というプレッシャーを感じる生徒もいる。そうではなくて、違いがあることが当然ということを、見た目も考え方も多様な海外の生徒との交流を通して学んでほしい。そして、完璧でなくてもとにかく英語をしゃべってみる、という機会にもしてほしかった」

 自身も卒業生という英語科のボッサム紗良教諭は、八雲学園の生徒が海外からの同年代の子どもたちと交流する意義をこう話す。

八雲学園中学校高等学校英語科のボッサム紗良教諭
八雲学園中学校高等学校英語科のボッサム紗良教諭

英語力を高め、広がる進路選択の可能性

 生徒にとってケイトスクールとの交流プログラムは、英語力を高めようとするきっかけとなり、将来の進路選択の幅を広げよう、というモチベーションになっている。

 高2の中本好咲(このさ)さんは、将来看護師か助産師になることを目指している。中本さんはホームステイを受け入れただけでなく、この夏には3週間の海外研修プログラムでケイトスクールも訪れた。
 進学は当初、日本国内を考えていたが、英語を学ぶにつれ、海外で「国際看護学」を学ぶことも視野に入れはじめたという。「同じ看護師でも医師の補助が中心の日本に対し、米国などではより看護師が主体となって仕事を進めると聞いた。医師のサポートだけでなく、看護師がよりアクティブな働き方をすることに魅力を感じた」と中本さんは話す。
 英語力を高める努力は、ケイトスクールとの交流が一段落したあとも続けている。ホームステイした子たちとはLINEで英文のやりとりを交わし、英語を忘れたくない、という思いは強い。「私が米国に行って3週間生活した際にも、英語のニュアンスは通じた。英語学習は積み重ねが大事だと思うので、英語のドラマ番組を見て台詞をしゃべるなどいろいろ学習法を工夫している」という。

 「英語を話せたら、海外で働ける可能性も広がる」と意気込んで、これまで英語を学んできたのは中学2年の安川昊(ごう)さん。週1回英会話教室にも通い、今回のホームステイでは2歳上の生徒を受け入れた。
 英語は「伝えたいことは単語を並べたら通じた。自分の英語を理解してもらうには、発音やアクセントが大事だと感じた」と話す安川さん。ホームステイでの交流を通して、再来年には学校のプログラムでケイトスクールに行きたいという希望を強く持った。交流で感じたことは、「アメリカにはいろんな人種の人が住んでいることと、日本と離れていてもお互いに共感しあえる部分があること」だ。学校以外の活動では音楽やtiktokの趣味のほか、渋谷での買い物で意気投合。また、ケイトスクールの生徒たちが日本語で話しかけられても、物怖じせずに明るく振る舞っている積極性にも刺激を受けたという。
 安川さんには俳優になりたい、という夢がある。進学する際は、留学プログラムが充実した大学を選び、留学経験も生かして英語をよどみなくしゃべる国際派俳優になりたい、と考えている。

「間違えてもいいから堂々とコミュニケーションを!」

 さまざまな夢にむかって努力を重ねる八雲学園の生徒たち。その可能性をさらに広げていくのが、学校として力を入れている、英語力のさらなる向上だ。
 ボッサム教諭は「英語を読み、書き、聴き、話す『4技能』はすべて大事。その中でも特に生徒の『英語で表現し、発信する力』を伸ばしてあげたい。その基盤となる自分の考えや意見を持てるように、授業でも生徒に考えさせることを大切にしている」と話す。その上で、英語力の向上にむけては「『完璧に話せるまで待つ』のでなく、間違えてもいいから、とにかく英語で言いたいことを伝えることが上達への第一歩。ものおじせずに堂々とコミュニケーションを取ろう」と生徒たちにエールを送る。

八雲学園中学校高等学校
左から安川昊さん、ボッサム教諭、中本好咲さん
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