トキワ松学園中学校高等学校(東京都目黒区)は、世界を視野に課題を発見し、未来を創造する「探究女子」の育成に力を入れている。目指すのは、異文化を理解し、多様な人とコミュニケーションが取れる「使える英語力」を身につけること。そのための独自カリキュラム「Listening& SpeakingLS)」は、導入して実に30年になる。ネイティブ2人を含む3人の教師がタッグを組んで展開する授業の様子を見学した。

観光案内所を想定した接客ロールプレイに挑戦

LSは、「聞く」と「話す」に特化したカリキュラムで、教科書を使った授業とは別に、中1から中3まで週に2時間の授業がある。

この日は隣の席に座った生徒同士がペアとなり、片方が東京の観光案内所のスタッフ役、もう1人が観光客役となりロールプレイに挑戦。英語表記の路線図を使い、自分がおすすめする場所への鉄道経路も英語で説明する。

「おすすめの場所やものを紹介するときは値段を付け加えるなど、詳しく説明したほうが自然な会話になるよ」。ネイティブの教師は、英語で生徒たちにそうアドバイスした後、「じゃあ、隣のパートナーと一緒に取り組んで!」と呼びかけた。

Hello, may I help you?」(お手伝いしましょうか?)

Yes please, I just came to Japan for the first time. Could you recommend any good spots in the area?」(お願いします。初めて日本に来たのですが、どこかオススメの場所はありますか?)

Sure How about Ueno?」(上野はいかがでしょうか?)

パソコンの画面に上野公園のパンダや横浜中華街の肉まん、お台場のレインボーブリッジの写真を映しながら、生徒たちは英語でおすすめの場所を隣の生徒に紹介する。

流暢に英語を話す生徒がいれば、プリントのメモを見ながらたどたどしく単語を口にする生徒もいる。そんな生徒たちの間をネイティブの教師2人と、英語科の高野香教諭がまわりながら、助け船を出したり、質問に答えたりしていた。

高野教諭も基本的には英語で生徒たちに話しかける。1クラス22人の生徒を3人の教員が英語でフォローするという贅沢な授業だ。高野教諭は「2人のネイティブ教師たちの自然な会話を、生徒たちにたくさん聞かせたいと思っています。とはいえ生徒たちのリスニング力には差があります。私は場の雰囲気や生徒たちの反応を見ながら、話の方向性を変えたり、日本語で補足したりしています」と説明してくれた。

次々相手を変えて会話、臨機応変に対応できる力を

LSを中1から受けてきた生徒は、中3にもなると英語のネイティブスピーカーに話しかけられても臆さなくなるという。会話のなかでわからない単語があっても、その場の状況や表情、身振り手振りもふまえ、相手がどんなことを伝えたいのかを推測する力を身につけていくのだ。

「相手に何かを伝える際も、文法的に完璧じゃなくても、知っている単語を使ってなんとか自分の意見や思いを伝えようとすることが大事」。高野教諭がそう語るように、生徒たちはLSを通じて、英語をコミュニケーションツールとして使う姿勢を身につけている。

もうひとつ、授業で印象的だったのが、生徒たちが次々とロールプレイする相手を変えていったことだ。「シチュエーションは同じでも、相手が変われば質問も使う言葉も変わります。だから授業ではなるべく多くの生徒同士が会話できるように心がけています」と高野教諭はその意図を語る。

この日の授業では、思ってもいなかった相手の質問に、どう答えていいか悩む生徒の姿も目にした。でもそのような経験を通して、生徒たちは状況や相手に応じて、臨機応変に対応する英語力を身につけることができる。

トキワ松学園が英語教育で重視しているのは「自分の考えや思いを英語で相手に堂々と伝えられる力を養うこと」と高野教諭は言う。この日も、授業の終わりに代表者が即興的なロールプレイに挑戦し、拍手を送られていた。

LSはトキワ松学園で30年も歴史がある名物授業だ。教材は教員の手作りで、試行錯誤を重ねてブラッシュアップしてきた。毎回の授業は、教員3人が念入りに打ち合わせをした上で臨んでいる。

「生徒にはこんな恵まれた環境はそうそうないから、ネイティブの先生をとことん活用するよう伝えています」と高野教諭。授業の後、ネイティブ教師に必ず何かしら質問し、会話練習することを心がけている生徒もいるという。

文化や社会課題を調べて、英語でプレゼン

LSと連動し、毎年11月には、自分たちが調べたことを英語で発表するイベント「English Day」が開催される。

「これが楽しみでこの学校に来ているという生徒も多い人気イベントです。English Dayを通じて生徒たちは英語で何かを発信したり、他国の文化に触れたりすることが好きになります。年々、『みんなの前で英語を話すことが楽しい』という生徒が増えています」と高野教諭。

English Dayの内容は年次ごとに高度化していく。中1は日本の地域や文化について。中2は英語を母国語としない海外出身者にインタビューし、その国のことを調査。中3は環境やジェンダーなど社会課題がテーマだ。それぞれ調べて、まとめたものをプレゼンする。そのための準備なども、LSの授業のなかで2カ月ほどかけて行う。

さらに高校から始まる週1回の「Global StudiesGS)」の授業では、時事や国際問題について調べ、自分の考えをまとめる。高3の時には、それを英語で論文にし、プレゼンもする。「GSを経験した本校の生徒は、大学のゼミでもリーダー的な存在として活躍しています」と高野教諭が語るように、「探究女子」を教育理念に掲げるこの学校の集大成といえる授業だ。

海外研修や校内留学を通し、舞台は世界へ

アウトプットとコミュニケーションを重視した授業で培った英語力を試し、さらに伸ばす場として、トキワ松学園では三つの海外研修と校内留学プログラムを用意している。

1の夏休みには生徒全員が、フィリピン・セブ島の英語講師とオンラインで会話するバーチャル校内留学を体験。春休みには、中1~中3の希望者を対象にした校内留学プログラムも用意。英語圏出身ではない留学生を同校に招き、3日間、グループごとにそれぞれの文化を紹介したり、遊びを教えたりするという。

さらに中3から高2の希望者が参加できる「イギリス多文化研修」では、夏休みの17日間、イギリスにホームステイし、現地の語学学校で学ぶ。

海外研修に参加したある中3の生徒は「LSの授業は会話が中心で、(海外研修中)とても役に立った。より多くのバックグラウンドの人とも英会話でつながり、文化的な面で自分の視野を広げたい」と抱負を語ってくれた。

高野教諭は「英語はもはや世界中の人のコミュニケーションツールです。中学高校で培った『使える英語の力』は、一生の財産になります。英語ができれば、将来の選択肢は確実に広がります」と、英語を学ぶことの意義を強調する。

人間性も育む実践的な英語教育を通し、トキワ松学園から世界を舞台に自分らしく活躍する「探究女子」が、これからも続々と誕生することだろう。 

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