自ら学び、考え、判断する力を育むことを目的に、2000年度から小中高校で段階的に導入された「総合的な学習の時間」。その一環として、川村中学校・高等学校(東京都豊島区)では、長野県にある「川村学園蓼科山荘」で中学1年生が2泊3日を過ごす。2024年9月に参加した生徒たちの自然体験や、その後の成長ぶりを紹介する。
自然の大切さ、体験を通して知ってほしい
川村中学校の総合的な学習の時間では、学年ごとにテーマを設け、段階的に学習を進めていく。1年生は「地球環境」、2年生は「国際理解・国際交流」、3年生は「自覚」がテーマ。生徒一人ひとりが興味のあることを掘り下げ、自分なりの考えをまとめて発表する。
1年生は「自然に触れ、地球環境の大切さを知る」をコンセプトに1年間、探究学習に取り組む。その中間地点の9月に実施されるのが、学校が所有する蓼科山荘での宿泊学習だ。
1年生の学年主任、丹羽尚美教諭はこう語る。「温暖化や自然破壊などの情報はメディアでも多く取り上げられているので、子どもたちは地球環境を大事にしなくてはいけないことはよく理解しています。単に知識を得て終わりではなく、体験を通して自然の大切さを知り、地球環境を守るために自分は実際に何ができるのか、何をすべきなのかを考えてもらいたい。そのうえで何かしらの行動に結びつけてほしいんです」

大自然を満喫。木工や木登り、農業を体験
宿泊学習のプログラムは、各学年の担当教諭が、その年の生徒の特性にあわせて考える。今年の1年生は活動的な生徒が多いこともあり、体を動かすメニューを多くとり入れたという。
初日は雄大な自然が広がる国営アルプスあづみの公園で写生会。天気に恵まれ、澄んだ空気のなか、生徒たちは大自然を満喫しながら、思い思いに色えんぴつを動かした。
「足元でたくさんの虫が歩いていたのが発見でした」
「みんなで一緒に見た、このきれいな景色を大切に守っていかないといけないな、と思いました」
参加した生徒たちからはそんな声が聞こえた。
2日目は、農林体験学習プログラムを実施している八ケ岳中央農業実践大学校へ。グループに分かれて木工、農業、林業の体験ワークショップに参加した。
木工体験では、みんなで力を合わせてノコギリで木材を切り、トンカチで釘を打ち、ベンチを完成させた。生徒のひとりは「木を切るのは思っていた以上に力が必要で、大変でしたが、友達と協力して完成させることができて、すごく達成感がありました」とうれしそうに話した。

農業体験では、ほおずきのつるを支柱に巻きつけ、主軸を育てるために、余計な枝を伐採する「間引き剪定(せんてい)」に取り組んだ。体験した生徒のひとりは「どの枝を切るべきなのか、私たちにはなかなか見分けがつきませんでしたが、スタッフは一目で見分けてパッパと切っていくのですごいと思いました」と振り返る。
ほおずきの実も収穫して試食してみた。「ほおずきが食べられるなんて知りませんでした。意外とフルーツみたいに甘くて、美味しかったです」と、日頃は畑とは縁のない都会っ子らしい感想も聞かれた。

林業体験では、実際に使われている補助具を使い、木登りに挑戦。不必要な枝を切り落とす、枝打ち作業の大変さと大切さを学んだ。
最終日は、群馬県の「こんにゃくパーク」でこんにゃくづくりを体験。こんにゃく粉を水でこね、丸や三角、星形など、思い思いのかたちのこんにゃくづくりを楽しんだ。
集団生活で発揮された「自立心」
同校では、自らの知的好奇心による主体的な学びと、年齢にふさわしい自覚と責任感を身につけることを教育目標に掲げている。
「中学生になると、小学生の頃より行動が広がる分、責任も生じます。何ごともまずは自分で考え、判断し、行動することが求められます。そのうえで失敗したり、間違えたりしたときは、アドバイスを求めたり、原因を省みたり、適切な行動がとれるよう、日頃から生活指導しています」(丹羽教諭)
宿泊学習でも、丹羽教諭は「ここでのことはすべてしおりに書いているから、まずはしおりを読んで、自分で判断して行動してください」と伝えた。
その結果、「予定の時間に遅れる子は一人もいなかったし、食事の配膳などもこちらが何も言わなくても自然と協力しあって行っていました」と、生徒たちの成長ぶりを喜ぶ。

山荘に入る時と帰る時には、山荘の方々に丁寧なあいさつをしていた生徒たち。後日、自然体験などでお世話になった方々にはお礼の手紙も出したという。
宿泊学習の充実ぶりは、参加した生徒たちの声からもうかがえた。
「友だちと協力し、周囲に気を配ることの大切さを学びました」
「普段の授業よりみんな真剣だったように思います」
クラスの垣根を越えて寝食をともにした2泊3日は、普段の授業にはない学びにあふれ、友人との絆を深める機会にもなったようだ。

高まる環境への意識、行動にも変化
同校では、自分で調べたり、体験を通して理解を深めたりしたことを、自分なりの考えにまとめて発表することを重視している。
宿泊学習に先駆け、夏休みには、地球環境について自分が興味をもったことを調べ、まとめる事前学習に取り組んだ。その内容を、蓼科山荘での1日目と2日目の夜、一人ひとりがみんなの前で発表した。
さらに宿泊学習後の冬休みには、これまでの学びや体験を通じて、地球環境のために自分は何ができるかを考え、実際に活動するという宿題が出される。その結果から学んだことを、2月にみんなの前で発表することが、1年の学びの締めくくりとなる。

授業と宿泊学習を通して、生徒らの日々の行動には変化が表れている。
「燃えるゴミとプラスチックゴミを家できちんと分別するようになりました」
「自宅で使う計算用紙は、学校で配られたプリントの裏面を使うようにしています」
「暖房のエアコンの使用量をできる限り減らし、エコバックを使うなど、自分ができるところから始めています」
宿泊学習での日々を振り返るときと同じような笑顔で語る生徒たち。その前向きな姿勢に、頼もしさを感じた。