これからのグローバル社会を見据え、海外研修に力を入れる中高一貫校が増えている。求められるのは、多様な国や文化、価値観の人とコミュニケーションを取り、協力して課題を解決する力だ。欧米での語学研修プログラムを組む学校が多い中、八雲学園中学校高等学校(東京都目黒区)では、欧米に限らず、海外の若者たちと交流する「異文化体験」をグローバル教育の柱としている。
国際ネットワーク「ラウンドスクエア」で異文化体験
東京・目黒区の住宅街にある八雲学園は1938年に女子校として設立され、2018年に男女共学化した中高一貫校だ。高い英語力をもち、他国の文化を理解し、多角的にものごとを捉えることができる。そんなグローバルリーダーの育成を教育理念に掲げている。
英語のネイティブ教師による授業を中学1年次から週4時間設定し、卒業までにCEFR(セファール)※C1レベルの英語力の養成を目指す。英語劇などを披露する英語祭やスピーチコンテストなど、英語を使う行事も多い。中学3年次に全員が参加する2週間の研修、高校生の希望者を対象にした夏休みの3週間の研修など、アメリカで生きた英語と異文化を体験できるプログラムも充実している。
※「Common European Framework of Reference for Languages(ヨーロッパ言語共通参照枠)」の略称。英語をはじめとした外国語の習熟度や運用能力を同一の基準で評価する国際標準。「A1」「A2」「B1」「B2」「C1」「C2」の6段階(C2が最も高いレベル)で評価。C1は英検1級相当のレベル。
そんな八雲学園は、次世代の国際的リーダーの育成を目的にイギリスで設立された私立学校の国際ネットワーク「ラウンドスクエア」に、2017年4月に加盟。現在、50以上の国と地域にある約250の学校が加盟するネットワークを通じ、海外の生徒との交流と異文化体験に力を入れている。
その意義について、広報担当の河東田敦教諭は「欧米だけでなくアフリカや中東、アジアなど幅広い国の若者と交流できるのが、ラウンドスクエアの一番のメリット。多様な国の留学生が本校に来ると、校内が一気にグローバルな雰囲気になります」と語る。
八雲学園は日本で2番目にラウンドスクエアに加盟したが、どんな学校でも加盟できるわけではない。その学校の教育がラウンドスクエアの理念に合致しているか、しっかりしたグローバル教育が行われているかなどがチェックされ、審査に2〜3年かかることもあるという。
世界の高校生が集まり、ディスカッションする「国際会議」
毎年10月には、ラウンドスクエアの国際会議が開催され、世界中の加盟校から1千人以上の生徒が集まる。生徒たちはさまざまテーマに関して英語でディスカッションし、奉仕活動や野外体験、文化交流などにも取り組む。これまで八雲学園の生徒も、ドイツ、南アフリカ、カナダ、インド、イギリス、ケニアなどで開催された会議に参加してきた。
「最初の頃は自分の意見をはっきり主張する欧米の生徒に圧倒され、自分の意見を言えず、もどかしい思いをした生徒もいたようです。でも年々、積極的に発言する生徒が増えていきました」と河東田教諭。中東やアジアの若者が話す英語を耳にし、「とても同じ英語とは思えない」と驚く生徒もいたという。
国際会議の目玉が、小グループにわかれ、特定のテーマについて英語で意見交換をする「バラザ(スワヒリ語で〝集会・会議〟の意)」だ。八雲学園では国際会議に参加した生徒が委員会を立ち上げ、主体的に「校内バラザ」も開催している。毎回、中学1年生から高校3年生までが参加し、人種差別や環境問題、AIとの向き合い方などについて英語で話し合ってきた。
「国際会議に参加した生徒は、英語への学習意欲が高まるだけでなく、その体験を積極的に後輩に伝えたいと思うようです。そして、参加した先輩の話を聞き、自分ももっと英語を勉強して国際会議に参加したい、と思う生徒が増えています」(河東田教諭)
イギリス人高校生のホストファミリーに。「英語に自信」
ラウンドスクエアの加盟校同士は、お互い自由に交流できる。2024年4月には、中国・深圳でエリア単位のグローバル会議が開かれ、そこに参加した中国の生徒が、6月に八雲学園を訪れた。さらに同月、オーストラリア、ヨルダン、イギリスから計5人の留学生が八雲学園にやってきた。5人は1カ月ほど生徒の家にホームステイし、私生活もともにした。
ホストファミリーとなった高校2年生の曽我柚月さんは、高校1年生の時、学校のプログラムで3カ月間、アメリカのUCSB(カリファルニア大学サンタバーバラ校)に通い、ホームステイも経験した。そのときのホストファミリーがとても親切だったため、自分も留学生を受け入れたいと思ったそうだ。
曽我さんの家庭に来たのは、アニメが好きな高校3年生のイギリス人、カイラさん。母親がイギリスで日本料理店を開いていることもあり、日本への関心が高く、将来は日本の大学への進学も考えているということだった。
曽我さんはアメリカに留学した際、思うように話せなかった苦い経験がある。そこでカイラさんを受け入れるにあたり、苦手な文法から英語を学び直し、スピーキングの練習を徹底的にした。「でも最初は毎日、気を張って英語を一生懸命しゃべっていたので、とても疲れました」と笑う。
カイラさんとの会話には、聞いたことがない単語や言い回しがよくでてきたが、「どういう意味?」と聞くと、親切に教えてくれた。そのおかげで、学校の先生も教えてくれない俗語をたくさん覚えることができた。曽我さんがカイラさんに何か言うと、「そういう言い方、イギリス人はあまりしないから、こう言ったほうがいいよ」と、本場の生の英語も教えてくれた。
休みの日は他の友達も誘い、カイラさんと渋谷や原宿へ。みんなで買い物をしたり、おいしいものを食べたり。一緒に撮ったプリクラは宝物だ。「最初は不安だったけど、カイラと1カ月、暮らしをともにして、自分の英語にすごく自信がつきました。カイラも日本をとても気に入ってくれて、今もSNSで毎日、やりとりしています」
国際交流を通して広がる、世界を舞台にした夢
サッカーが好きな曽我さんは、将来は国際的スポーツビジネスに関わる仕事をしたいと考えている。その夢に向けて、さらに生きた英語力を身につけるべく、今年9月に南米のコロンビアで開かれる国際会議に参加する予定だ。
「今から猛勉強して、いろんな国の人に積極的に話しかけたい。アニメや音楽、サッカーなど、好きなことをたくさん話したいですね」
河東田教諭も「曽我さんに限らず、留学生との交流を通し、グローバルな舞台での夢への思いが強まり、もっと英語を勉強しようとのモチベーション向上につながっている生徒は多いですね」と話す。
今、海外の多くの学校から、八雲学園に生徒を送りたいとの要望が寄せられている。最近はラウンドスクエアの加盟校であることに魅力を感じ、八雲学園への進学を検討する小中学生や保護者も少なくないそうだ。八雲学園では今後、ラウンドスクエアによる国際交流の輪をさらに広げ、グローバルリーダーの育成に力を注いでいく。