足立学園中学校・高等学校では、同校のOBが在校生に勉強を教える「学力ジャンプアップ講座」を開講している。週2回、放課後の時間を使って、通常授業の復習やプラスアルファの学習を進めるプログラム。どんな成果が生まれているのだろうか。髙井俊秀・中学副校長や在校生、講師をしているOBに話を聞いた。
「後輩たちのために」とOBが学習指導
水曜日の午後5時すぎ。ある教室をのぞくと、中学1年生22人が数学の代数問題を解いていた。それぞれの生徒が、当てられた問題の答えを黒板に書き、講師がその答え合わせをする。全問合っている生徒もいれば、計算ミスをしている生徒もいるわけだが、講師は一つひとつの問題に対して「みんなこれは解けた?」と全体の状況を把握しつつ、答えが間違っている生徒には「係数の計算が苦手のようだね」「どういう風に解いたか教えてもらえるかな」と丁寧にアプローチしていた。
別の教室では、中学3年生16人が期末考査前の自習をしていた。社会科のノートを広げている生徒もいれば、数学の問題集を解いている生徒もいた。わからないことがあれば手を挙げて講師を呼び、質問をする。まるで個別指導塾のような光景だった。
これらは、足立学園中学で2022年9月から続いている「学力ジャンプアップ講座」の一コマ。同校OBが講師になり、週2回、選択講座として放課後に開かれている。
髙井俊秀副校長は「一番の目的は、生徒が学習習慣を身につけ、成績を伸ばすこと。また、OBにとってもプラスの経験になれば嬉しい」と話す。
2019年から3年間外部業者に放課後学習を委託したことがあった。しかし参加生徒が少なくなかなか効果を上げられなかった。これと同時期にOBによる講座の開設を模索していたところ、事情を知ったOBが「ぜひ後輩たちのために、僕らを活用してください」と申し出てくれたという。
「彼らは『探究コース』(高校から選択する3コースの内のひとつ)の1期生でした。探究活動を通して、いろいろな人と関わる中で、世のため、人のため、後輩のためという思いが強かったのでしょう。学校としては、その奉仕の心が何より嬉しいですよね」(髙井副校長)。OBに業務委託する形で講師役を募ると、1年目は16人、2年目は27人、3年目となる今年は29人が活躍。その輪は徐々に広がっている。
勉強のみならず、大学生活のこともフランクに聞ける
「学力ジャンプアップ講座」を受講している、中学3年の佐藤圭悟さんは「講師の先生が足立学園のOBということで、話しやすい。今教えてくれている先生が、自分が将来いきたいと思っている大学に通っているので、勉強のことのみならず、大学生活のことも聞けるのが嬉しいです」と話す。
幼い頃からロボット工学を学びたいと思っていたという佐藤さん。東京工業大学(※2024年10月〜東京科学大学)を第一志望として、日々の勉強に励んでいる。「今はまだ過去問題集を買っても自分の実力では解けないけれど、OBの先生から『記述式に慣れておいた方がいい』というアドバイスをもらったので、数式を解く過程を残すなど、習っている範囲内でも意識できるようになりました」(佐藤さん)。
同じく中学3年の朝田佑一さんも「講師の先生がOBなので、質問しやすいし、『小テストは頑張っておいた方がいい』など、日々の学校生活で気をつけるべきことを教えてもらえるのがいいなと思います」と講座の魅力を語る。
将来の夢はプロ野球選手という朝田さんだが、「もしプロに行けなかったときのことも考えて、しっかりと勉強はしておきたい」と思い、講座を受講しているそう。入学当初は成績も奮わず、通常授業の補講を受けていたが、この講座を通じて学習習慣が身につき、「2年次の後半と3年次は補講がなくなりました。おかげで野球の練習にも集中できています」とうれしそうだ。
具体的な成果も見えてきた。年3回の外部模擬試験による学力推移調査の結果を見ると、「学力ジャンプアップ講座」を受講している生徒の平均値はプラスに推移しており、中には1年間で偏差値40台から60台に上昇した生徒もいるという。髙井副校長は「目に見えて成績が上がると、生徒たちもやる気が出てきますよね」。
「将来の役に立ちそう」「勉強が楽しいと思ってほしい」
講師を務めるOBたちはどんな思いを持っているのだろう。
「足立学園にお世話になったので、恩返しがしたいと思ったんです」と話すのは、早稲田大教育学部4年の海老澤周さん。在学当時、教職員が授業はもちろん、授業の前や後、放課後に学習のサポートや質問対応をしてくれたことが「ありがたかった」といい、恩返しの気持ちで「学力ジャンプアップ講座」の講師に応募した。また、「教員志望なので、将来の役にも立ちそうだと思いました」とも言う。
講座では、生徒から思いもよらない質問を受けることもあるという。「具体的な勉強の質問だけでなく、なぜこの大学を志望したのか、中学生のときの5教科の成績はどうだったかなど聞かれるんです。それは、その生徒が私の通っている大学に興味を持ってくれたり、志が自分と近いと感じてくれたりしているからこそ。ぜひ今後も自分の志や目標を大切に勉強に励んでほしいなと思っています」と話す。
講座を週1回受け持っている東京工業大工学院機械系学士過程4年で、引き続き修士課程に進む予定の佐藤颯さんは、「自分自身の研究や学業と両立しやすい」とメリットを語る。「生徒が、授業ではさらっと流されてしまうような内容でつまずいていたら、その行間を埋めてあげるようにしています。生徒の理解をより深められたと感じるときにやりがいを感じますね」
さらに、「中学3年生の内容といっても、将来的な受験勉強につながるように意識しています」と佐藤さん。「たとえば、1つの問題にこだわりすぎて、時間がなくなり、他の問題を解けないということは避けなくてはいけません。ややこしそうな問題を後回しにすることも大切だと伝えています」などと、授業で心掛けていることを教えてくれた。
中央大理工学部1年の小林陽瑠さんは、自身も「学力ジャンプアップ講座」に通った経験のあるOBだ。「僕自身、授業でわからないことをわからないまま、あいまいにしていた経験があるんです。でも、この講座は先生よりも距離が近いOBの大学生・大学院生たちが教えてくれるからこそ、フランクに質問ができる。在校生たちには気軽に質問してもらって、勉強が楽しいと思ってもらいたいです」と話していた。
足立学園では、毎週のように英単語や漢字などの小テストがあるという。「小テストをしっかりとこなすことで基礎学力がついてきます。中学校から当たり前にやってきたことが大学受験で自分の強みや自信につながりました」と実感を込めて語る小林さん。「足立学園は小テストや『学力ジャンプアップ講座』など学習面の支援が手厚いので、その制度を最大限生かしてほしいですね」と後輩たちにエールを送った。