さまざまな制限があったコロナ禍も落ち着き、いつもの学園祭が戻ってきた。東京都豊島区の川村中学校・高等学校もその一つ。昨年11月中旬に2日間開催された「鶴友祭(かくゆうさい)」では、マスクの着用は来場者の判断に委ねられ、生徒をはじめ、生徒の家族や卒業生、受験を考える小中学生ら数千人が来場するにぎわいをみせた。同校が大切にしているのは生徒自身で企画を考え、作り上げる学園祭をやり遂げることだ。どんな準備や工夫をして2日間の学園祭を成功させたのか。中心を担った生徒たちに話を聞いた。(学年は学園祭実施当時)

通常開催へ「たくさんの方々に支えられ全力で準備」

表紙の真ん中に優雅に舞う鶴のイラストがあしらわれた「鶴友祭」のオールカラー8ページのパンフレット。お菓子を売る物販やお化け屋敷、学芸部の展示紹介などのほか、公演のスケジュールに加え、校舎の見取り図、中学・高校だけでなく、隣り合う川村小学校、幼稚園での発表内容も紹介されている。

「たくさんの方々に支えられ連携を取り全力で準備を進めて参りました。すべての方に楽しんでもらえるよう最善を尽くしましたのでどうぞ心ゆくまでお楽しみください」。実行委員長を務めた高校2年U.Wさんは、最終ページのあいさつ文にこうつづった。コロナ禍で3年前はオンラインでの開催、一昨年は一部制約つきの開催だったが、昨年は久々の通常開催となった。

生徒主導でパンフレットを作るのは、今年が始めての試みだった。パソコンが得意な生徒らも加わり、知恵を出し合った。レイアウトやデザインも工夫し、約3500部を用意した。

教頭は「作業を任せることで生徒たちは全体を見渡し、人と共働する体験ができます。その体験に勝るものはありません。積極的にアイデアが出てきたこともよかったです」と振り返る。

開催まで1カ月…情報共有を工夫して巻き返す

コロナ禍のさまざまな制限が解消されて以降、初の開催となった「鶴友祭」だが、準備は遅れ気味だった。「笑顔の花を咲かせよう」というテーマが決まったのは10月中旬。通常は夏休み前にテーマが決まるが、出だしから作業が遅れていた。

本番まで1カ月ほどしかなかった。

公演や装飾、渉外などの各担当に分かれ、それぞれの担当が進めている内容を共有し、パンフレットの内容や企画の案内文を調整するのは一苦労。しかも、約50人いる実行委員が全員顔をそろえる時間を頻繁に設けるのは難しかった。

もっとも気を配ったことは情報共有だった。そこで、各担当のしんちょく状況を共有できるよう、オンライン上で文章の共同編集ができるツール「Googleドキュメント」を使用した。状況が更新される度に、文章に加筆することで、常に最新情報を実行委員会のメンバーで共有することができた。実行委員長のU.Wさんは「しっかりやり遂げて、みんなにとって、私が実行委員長でよかった、と思ってもらえるように努力しました。情報共有もその一つで、ほかのみんなが知らないことがないように心がけました。いろんな人が支えてくれました」と話す。

実行委員会のメンバーが意見を出しやすい環境づくりも心がけた。挙手で意見が出にくい場合は、黒板に意見を書いてもらったり、会議の終了後でも意見を受け付けたり。ちょっとした気づきでも共有してもらえるように声を掛け、様々な意見を取り入れながら実行委員会が「チーム」として回っていくようにしたという。

多様な学園祭の仕事、どう分担するか 生徒に気づきも

学園祭の運営には多種多様な仕事がある。学内を魅力的に彩る装飾や、期間中に販売するお菓子の仕入れ、ゴミの収集や片付けなどだ。華やかな仕事に注目が集まりがちだが、学園祭も社会同様、「縁の下の力持ち」的な仕事も含めて成り立っている。生徒たちは戸惑いつつも試行錯誤しながら、学園祭全体がうまく進行するように工夫した。

中学3年のK.Sさんはゴミの収集や片付けを担当する希望者がいないという課題に直面した。学園祭では文芸部の展示などのほか、タピオカやアイスクレープ、マカロンなど飲食の物販もあり、包装材などのゴミが出てしまう。誰がどうやって集めるべきか悩んだという。

当初はゴミの片付けをシフト制にしており、当番になった人が一人で70分間の作業をする必要があった。そこで考え方を変えた。「負担感を減らそうとシフトの時間を細かく分割したことで、みんなが協力してくれました」。ものごとを進める上で、協力を得やすい形に工夫することも大事だと気付かされた。

「生徒主体での実施は時代の流れ」

川村中学校・高等学校が生徒主体での学園祭にこだわるのは、その経験が今後の進学や社会に出て働く際に役立つ貴重な経験だと考えるためだ。 

「以前は教員が方向性を示し、枠の中にはめていく形でしたが、生徒主体で進めるのは時代の流れでもあると考えています」と岩﨑教頭は力説する。たとえば、飲食の物販では予算をもとに、2日間でどのくらいの量の販売ができるかをあらかじめ想定し、個「包装のお菓子を仕入れる。「そう、これは小さなビジネスを高校生のうちから体験している、ということなのです」

中学3年のS.Sさんは今回、個包装のカヌレを外部から仕入れて学園祭で売る経験をした。「個数や値段をどう設定すればよいのか。わからないことだらけだったが、試行錯誤を重ね、教員からアドバイスも受けながら仕入れ先の方と話し、進めることができました」

実行委員会副委員長を務めたN.Kさんも「『生徒のやりたいこと』をバックアップしたい先生方の気持ちを感じながら、進めることができました」と話す。

自らの力で学園祭を成功させた経験は、生徒自身に達成感を与え、能力の開花にもつながっていく。昨年度学園祭の実行委員を務め、今年度は生徒会長を務める高校2年のH.Nさんは「みんなのスケジュール管理などを進め、『これをやろう』と考えていたことが達成できた時は私自身の自信につながりました」と振り返る。

卒業後も見据えた様々な経験を積む場として、教員が見守りつつ、生徒主体で進める川村中学校・高等学校の「鶴友祭」。今年も多くの生徒が関わり、アップデートされていくことだろう。

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