難関大学への進学者が多く、人気の高い名門中高一貫校ではどのような教育を行っているのか。名門校の魅力はどんなところにあるのか。SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表の髙宮敏郎氏に聞きました。

私は仕事柄、名門中高一貫校の校長先生と対談をさせていただく機会がよくあります。その度に名門校の良さとして思うことがあります。カリキュラムや教員がすばらしいのは当然ですが、それ以上の魅力が、名門校ならではのコミュニティーだということです。「あの12歳の時のような友達はもう二度とできない。 もう二度と」。少年時代の冒険を描いた私が好きな映画のエンディングの言葉です。自分自身の経験からもその通りだと思います。中学・高校という多感な時期をともに過ごし、切磋琢磨した友人は生涯の宝です。とくに名門校は卒業後も生徒と先生の仲がよく、先輩後輩、卒業生との絆がとても強いと感じます。変化の激しいこれからの時代、そのようなコミュニティーは、生きていくうえでの大きな支えとなるでしょう。

もう一つよく思うのが、名門校ほど一見、非効率に思えるアナログな学びを重視していることです。例えばある私立大学の付属中学では、点描のスケッチやカエルの解剖を必須にしています。ものごとをさまざま角度からじっくりと観察し、自分の手を動かして理解することを重視しているのです。多くの名門校の理科の授業では、実験や観察にたっぷりと時間をかけ、生徒に失敗や試行錯誤をさせています。近年、文部科学省が探究型学習やアクティブラーニングを推進していますが、名門校では何十年も前から当たり前のように対話型授業やディスカッション、自由研究が行われていました。

これらは難関大学に合格することだけが目的なら、非効率にも思えます。ただ当然ながら、中学・高校は大学受験のためにあるわけではありません。生徒が将来、社会で活躍し、より有意義な人生を送るための土台となる総合的な力を育む。それが中等教育の役割です。そのためには発達段階に応じて基礎知識をしっかり身につけさせることも、主体的な好奇心や探究心を伸ばすことも大事です。部活や学校行事を通して、社会に出てから求められるリーダーシップやコミュニケーション能力、多様な人と力を合わせてものごとを成功させる力を育むことも大切です。多感な10代半ばに学ぶべきことの基本は、どんなに時代が変わっても変わりません。名門校は長い時間をかけ、それを丁寧に行ってきたのだと思います。

中学受験を応援するSAPIXでは、入試日までにお子さんが最高のパフォーマンスを出せる状態にもっていくために、ある程度の学習の効率化は図っています。ただ現在の難関中学は、暗記やテクニック的な解き方では合格が難しくなっています。基礎知識をしっかり身につけたうえで、自分の頭でさまざまな角度から、粘り強く考え抜く力が問われています。それが複雑で多様な課題を抱えた現代社会で、もっとも求められている力だからです。またそのような力は、効率重視の即席の学びでは身につきません。SAPIXではまずは復習中心の学習法で、丁寧に基礎知識を定着させます。そのうえで、対話形式の授業で生徒に何度も問いかけをしながら、何ごとも自分の頭で考え、自分の言葉で表現する力を養っていきます。小学生時代にそうやって身につけた力は、中学受験だけでなく、その後の人生を切り開いていくうえでも大きな力となるでしょう。

SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表
代々木ゼミナール副理事長
髙宮敏郎氏

たかみや・としろう/1974年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)を経て、2000年4月、学校法人高宮学園に入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学、教育学博士号(大学経営)取得。同学園の財務統括責任者を経て、09年から現職

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