難関大学への進学者が多い中高一貫の伝統校では、どのような教育を行っているのか。生徒たちはどのような学校生活を過ごしているのか。関西を代表する名門男子校の東大寺学園中・高等学校の本郷泰弘校長に話を聞きました。

人と違うこと、独自の視点や発想を評価する校風

――多くの卒業生が社会で活躍していますが、貴校の生徒の特徴を教えてください。

ちょっと変わった子が多いですね。いい意味でオタク、自分が好きなことにとことん没頭している生徒が多いです。虫ばかり追いかけていたり、ロケットを飛ばすことに夢中だったり。男子校なので女子生徒の目を気にせず、自分の興味関心をとことん追求できるのが本校の良いところです。

――貴校の生徒は大自然に囲まれた環境と自由な校風のなか、のびのび勉強や部活を楽しんでいる印象があります。

入学した生徒に志望動機を聞くと、多くが自由な校風に惹かれたと答えます。よく主体的に課題を見つけ、自分の頭で考える力、独創性が大事だと言われますが、そのような力は子どもを型にはめる教育からは生まれません。自由な教育環境は大前提だと思います。時々、企業の方から「東大寺の卒業生はユニークな人が多い」と言われますが、それは私どもにとって最大の褒め言葉です。本校には伝統的に「おもろい奴」を評価する文化があります。「おもろい」とは常識を覆す独自の視点や思考、発想のこと。これからの時代にもっとも必要な素養だと思います。

東大寺学園中・高等学校の本郷泰弘校長

生徒の知的好奇心をくすぐる授業をとことん追求

――教員もユニークな方が多いようですね。

そうなんです(笑)。本校の生徒は教科書をそのまま解説するような授業には関心を示しません。教員は生徒の知的好奇心をいかにくすぐるか、それぞれが独自に研究し、工夫をこらしています。具体的な授業のやり方は個々の先生に完全にお任せしていますが、最初の数時間は雑談しかしない国語教員もいます。理科の教員の半数は卒業生です。本校での中学時代の理科の授業が最高に楽しかったので、そんな時間を教員として後輩に提供したいと思うようです。本校では英語や数学の学習進度は比較的早いのですが、理科はじっくり時間をかけ、実験や観察を丁寧に行っています。本校で理科系の研究者を目指す生徒が多いのは、このあたりも影響しているのではないかと思います。何事にも疑問を抱き、なぜそうなのかを考え、仮説を立て、検証を重ねる。そんな理科で培われる力は、社会のあらゆる分野で役立ちます。

――英語の授業に特徴はありますか。

中学3年間は週1時間、ネイティブスピーカーによる英会話の授業があります。高1の英語表現の授業では、ネイティブと日本人の教員が組み、ディスカッションやディベートを取り入れた授業を行います。このように実践的な授業もありますが、本校では相手に通じさえすればそれでいいといった英語教育は行っていません。基本的には、大学以降のアカデミズムの世界でも通用する読み書きの能力を、きちんと習得させることを目指しています。

教員も一緒に取り組む学校行事やユニークな同好会

――中学からの入学者は高校受験がないこともあり、部活に熱中している生徒が多いようですね。

運動部が11、文化部が19、同好会が15あり、複数の部活を兼部している生徒も多いですね。なかには5つのクラブや同好会に入っている生徒もいます。同好会は気に入ったものがなければ、自分で仲間を集めてつくることもできます。ラーメンを食べ歩きして食レポを書くラーメン研究会、コンピュータで曲をつくってキャラクターに歌わせるボーカロイド&作曲同好会、暗号同好会という何をしているのか私にはよくわからないものまで、ユニークな同好会がたくさんあります。

――文化祭はもちろん、スキー研修や体育大会、球技大会、長距離走大会、夏山登山、かるた大会など学校行事も非常に活発ですね。

高校2年時の修学旅行の行き先は、生徒がチームにわかれ、自分たちがなぜこの場所に行きたいのか、行くべきなのかをプレゼンしたうえで投票によって決めます。ここ数年はコロナ禍で行ける場所が制限されていましたが、これまでイギリスやバルト諸国、ベトナムなど海外にもよく行きました。船に30時間以上乗って小笠原諸島に行ったこともあります。希望制のスキー研修では、ゲレンデでの研修が終わった後も今度は宿舎で教員が生徒を手取り足取り教えます。本校は生徒と教員の距離がとても近く、行事も一緒になって盛り上がっています。

――貴校はもともと東大寺の境内に校舎があり、現在も「東大寺学」という授業があるそうですね。

「宗教」をカリキュラムに位置づけているわけではありませんが、AI時代こそ数値化できない宗教や伝統に対する感受性は大事だと思っています。そのような意味もあり、「東大寺学」では東大寺の僧侶に大仏建立の背景や仏教の話をしてもらったり、写経を行ったりしています。また、東大寺が所有する田んぼで田植えや稲刈りもしています。

東大寺学園中・高等学校の本郷泰弘校長

完全中高一貫化で、学年を超えて仲が良い校風が強まる

――ところで貴校では、来年から高校での募集を廃止されますね。

完全中高一貫校となり、カリキュラムも6年トータルでより効率良く学べるかたちへ再編していく予定です。本校はもともと先輩後輩の仲がよく、中学生から高校生までが学年の垣根を越え、部活や行事に取り組んでいます。例えば電子工作部では、プログラミングに長けた中一の生徒の話に、高校生が熱心に耳を傾けていたりします。本校は学年を超え、優秀な人間や何か光るものをもっている生徒を認める風潮があります。完全中高一貫校になることで、そんな本校の良き校風がより強まることを期待しています。

――貴校の入試の傾向を教えてください。

本校では何ごとも自分の頭で粘り強く考えられるお子さんに入学していただきたいと思っています。ですから入試でも、知識を暗記していればすぐに答えられるような問題は出していません。さまざまな知識を組み合わせたり、視点や発想を変えたりすることで解ける問題が中心です。教員も子どもたちの思考力を問うための問題を毎年、一生懸命考えています。本校を受験するお子さんには、ぱっと見て答えがわからない問題も、まずは自分の頭で粘り強く考える習慣を身につけていだきたいと思っています。

――最後に貴校を目指すお子さんや保護者へメッセージをお願いします。

保護者のみなさんには、お子さんに勉強だけをさせるのではなく、生活面でも自分のことは自分でやる習慣を身につけさせていただきたいと思います。例えば料理や掃除をするなかで課題を見つけ、よりよいやり方を考えることは立派な科学です。本来、身の回りにあるすべてのことは勉強とつながっています。論述問題を解くうえでは教科の勉強だけでなく、日常生活のなかでどれだけ幅広いことに興味関心をもち、さまざまな経験をしているかが重要です。

いずれにしろ中学高校の6年間は、人生において何ごとも一番素直に、純粋に楽しめる時代です。本校はみなさんの興味関心をとことん追求できる場です。受験は大変だと思いますが、ぜひ頑張っていただき、みなさんの「おもろい」を本校で磨いてほしいですね。

東大寺学園中・高等学校 
本郷 泰弘校長
ほんごう・やすひろ/1960年京都市生まれ、神戸大学文学部を卒業後、京都府の公立高校の英語教員として勤務。2000年から東大寺学園に勤務。今年度から現職。